73話 魔王の帰還と苦悩
村への帰還を果たしたアディア。リィンの屋敷へ帰宅するために玄関へ近づくが……
『ガヤガヤ……』
屋敷の中からは、大勢の者達が集まっているような物音が聞こえてくる。
「お客さんでも来てるのかな?」
そんな当り前の推察を立てながら玄関の扉を開ける。すると、より鮮明な声がリビングの方から聞こえてきた。
『御帰還、おめでとうございます魔王!!』
パァ~ン! パン! パパン!!
明らかな祝いの言葉とクラッカー音。アディアが何事かと向かえば、何とそこではところ狭しに集まった笑顔の村人達が酒を酌み交わすパーティー会場になっていた!
「えっ! これは何の騒ぎ?」
わけのわからないアディアは、取り敢えず近くでワイングラスを口元へ運ぼうとしていた若い女性へ訊ねる。
「ねぇ、これは何なの?」
女性はグラスのワインを一気に飲み干してから答える。
「ぷはぁ! もちろん、魔王様の御帰還を祝うパーティーですよ!」
「へっ? パーティー?」
聞かされた答えに困惑する間にも、話は続けられる。
「魔王様は我々の象徴です。そんな方が渦中から戻られたとなれば、そりゃあ村をあげての盛大なお祝いするに決まってるじゃないですか!」
早くも酒が回り始めて興奮している女性の顔は、既に赤くなりつつあった。
「お、お祝いねぇ……魔王が拐われてから一時間くらいしか経っていなというのに、よくここまで準備してたわね」
半ば呆れたくなるアディア。しかし、これがこの村に住む者……魔族の考え方だというなら認めるしかない。
認めるしかないので……
「私にも一杯もらえるかしら?」
「ええ、どうぞどうぞ♪」
彼女自身も目一杯楽しむことを選択する♪
「―――さあて、それじゃ主役の様子でも見にいきますかな」
右手にグラス、左手にワインボトルを握るホロ酔い気分のアディアがリビングを見回すと、数秒もしない内に部屋の隅で苦虫を噛み潰したような顔をして飲んでいる魔王を発見。
「ねぇ。こんな隅っこで何チビチビやってるのよ?」
声をかけられた魔王は表情を変えることなく応じる。
「貴様か……今の余は気分が悪いから放っといてくれ」
「放っといてって……アンタ、パーティーの主役でしょ?」
「むざむざに拐われた挙げ句、情けなく助けられたのにか?」
悪態ついてグラスを傾ける魔王。アディアそんな彼を見て語りかける。
「あのね魔王、そんな子供みたいに拗ねないでよ。せっかく無事だったんだからさ」
彼女的には「気にするな」と言いたいだろうが、言われた彼の捉え方は違った。
「そもそもの話だが、余は拐われたこと自体についてはそこまで問題視してはないんだ」
「え?」
アディアは魔王の言葉に戸惑った表情を見せる。
「余を拐った連中は王都からこの村へ派遣された騎士だ。それが戻って来ないとなればどうなると思う?」
「思うって……あっ!」
「そうだ。王都は村を危険視し、何だかの判断を下す恐れがある。そしてもし、その判断が最悪な形で実行へ移されたとしたら?」
「移されたら……下手をすれば、村のみんなへ危険が及ぶことになるわ!」
「そういうことだ。だからそのキッカケを作ってしまった余としては……くそ!」
最悪のパターンを生み出す可能性を作ってしまったと後悔する魔王。彼は己の不甲斐なさに呆れ、空になったグラスに写る自分を訝しむかのうように睨みつける。
尚、彼が口にしてるものについてだが、オレンジジュースであるのはここに随筆しておく。




