70話 追いつかれた騎士達
転倒した馬車から脱出する三人の騎士達。隊長格である髭を生やした年輩の騎士が、目の前で佇む英雄へ話しかける。
「アディア殿……ですね?」
「そうだけど……アナタとは初対面のはずよね?」
「失礼。某はルドルフ。王都所属騎士団にて、分隊長を務める者です」
「分隊長? 下っ端より少しマシ程度の役職ね」
「ハハハ、これは手厳しい意見ですな!」
ルドルフは悪意ある軽口を笑って受け流し、話を滞らせずに続ける。
「ところでアディア殿。貴殿に訊ねてもよろしいですかな?」
「何よ?」
質問に対し、アディアは怪訝な表情を見せた。
「某等は騎士としての任務を忠実にこなしていました。なのに何故、あのような真似をなさったのか……理由をお聞かせくださいますか?」
どうやら彼は魔王を拐った行為を“任務”と認識し、それを邪魔したアディアの真意を問い質してるようだ。
「私の仲間を拐ったからよ。これでいい?」
ただ彼女としては、彼の行為は単なる人拐いとしてしか捉えておらず、自分はそれを防いだと答えるが?
「仲間?正気ですか!? 子供とはいえ、魔族は人間に仇なす存在ですぞ!!」
拐った子供を魔族だと認識するルドルフは、それに納得いかずに非難する!
「う~ん、正気ねぇ……私から言わせれば、人拐いを任務と言い切るアナタの正気をよっぽど疑いたくなるけど?」
しかし、逆に自分の思想こそがおかしいと返される。
「なっ!……ど、どうやら、これ以上の問答は無用らしいですな」
「え? 今のは問答のつもりだったの? 私はてっきり、みっともない大人の言い訳だと思ってたわ」
「と、とにかく、貴殿にあの子供を渡すつもりはありませんぞ!」
あくまでも魔王を渡さないとするルドルフ。そんな意固地な彼にアディアの反応は?
「別に渡さなくてもいいわよ」
「え?」
「勝手に奪うから」
「え?え!?」
彼の意思と関係なく、自らの都合を勝手に通すことを宣言。
「それとアナタがあの子を渡そうが渡すまいが、私はアナタの口は封じるわ」
「口封じ……某を殺すつもりですか!?」
「そうよ。でないとアナタは、私の情報をギルハートに渡すかもでしょ?」
「勇者に? なるほど。貴殿は魔族側に堕ちただけでは飽き足らず、勇者にも危害を加えるつもりか……まったく嘆かわしい話ですな」
「なんとでも言っていいわよ。どうせ最期なんだから」
「最期……最期になるのはどちらでしょうな?」
一方の険しい表情で剣を抜くルドルフは、背後に控える二人の騎士の騎士達と共にアディアへ戦いを挑もうとするが……
「悪いけど、戦うのはアナタ一人だけになるわよ」
「何?」
次の瞬間、部下の二人は前のめりに倒れて動かなくなる。
「お、お前達!?」
倒れた騎士達へ駆け寄るルドルフ。見ると両名の背中はズタズタに切り裂かれており、既にこと切れていたのがわかった。
「そ、そんな……お前達……」
膝を着いて部下達の死を悲しむなか、その横でリィンが魔王をお姫様抱っこして素通り通りする。
「お疲れリィン。魔王は大丈夫だったの?」
「ええ、眠らされてるだけみたいですが……」
「ですが?」
「あんな荒っぽいやり方は、金輪際にしてください。危うく魔王様の御身に傷がつくところでしたよ!」
「それについては、今後の善処で勘弁してちょうだい」
「まったく、本当に気をつけてくださいね」
「ハイハイ……っで、どうする? 一緒にコイツを殺す?」
「いえ、我は急いで村へ戻って魔王様に治療を施します」
「治療? 怪我してるの?」
「念のための診察です。隅々までちゃんと調べて異常がないか……隅々まで……ジュル!」
リィンは怪しい笑みを浮かべてそう話すと、「あとの処理は任せます」と言って爆速でその場を退散。そして、残されたアディアはというと?
「―――さぁて、二人っきりになったところで隊長さん……覚悟は決まった?」
ゆっくりと立ち上がるルドルフと対峙し……
「覚悟? ええ決まってますとも……魔族に属する愚か者を抹殺し、その汚ならしい臓物を引きずり出してやる覚悟がなぁぁぁぁーーーー!!」
彼の殺意と怒りを一身に受け止めるのであった!!




