66話 魔王の稽古
朝食を片付けた後、屋敷の裏庭に集合した三人。アディアと魔王は長さ七〇センチ程の木の棒を持って対峙し、見物人のリィンは少し離れた場所で二人を見守りながら待機していた。
「ではこれより剣の稽古を開始します。尚、稽古中は私のことを“師匠”と呼ぶように……いいわね!?」
稽古の開始と最低限のケジメを告げるアディア。だが、肝心の稽古を受ける側はというと?
「何を言っておるんだ貴様……っで!!」
「師匠と呼ぶ!」
さっそく注意を受けて木の棒で頭を叩かれる始末だ。
「ア、アディアさん! あまり危険な真似は……」
「危険? ただ軽くこずいただけよ」
リィンの心配を他所にアディアは稽古の指示を出す。
「まずは打ち込みからよ。力の限り私に打ち込んでみなさい!」
このセリフを聞いてほくそ笑む魔王は?
「望むところだ。叩かれた借りを返してやるから覚悟しろ!」
仕返しとばかりに勇ましく飛びかかっいく!
―――三分後。
「う、うう……何故だ? 何故、余が無様に地面に伏しておるのだ!?」
苦痛と屈辱で顔を歪ませて地面と熱い抱擁を交わす魔王。アディアはそんな憐れな彼に淡々と説明する。
「動きが隙だらけだからよ。悪いけど、まずは素振りから始めた方いいみたいね」
「す、素振りだとぉ?」
「っそ! 毎日三百回ずつ振り続ければやがては……」
「やがて?」
魔王はその言葉を聞いてよろよろと立ち上がると……
「……バカにするなよ」
「え?」
「バカにするなと言ったんだ! 今さら素振りなんて悠長な真似をやってられるか!!」
「ま、魔王?」
「どうせ余には、剣術の才能なんてないと言いたいんだろ!? だったらこんな稽古は……」
「ちょ、魔王、アンタ何を言って……!」
「やめてやる! こんな下らない稽古なんて、やめてやるぅぅぅーーーー!!」
「魔王、待ちな……!」
プライドを傷つけられていじけたのか、魔王は持っていた木の棒を乱暴に地面へ叩きつけると、止める間もなく屋敷の中へ全速力で駆け込む!!
「ああ……おいたわしや魔王様。このリィンがすぐに慰めてあげます!」
急いであとを追うリィン。それを見てアディアは呆れながらに呟く。
「やれやれ……最近の子供は堪え性がないわ」
ただ堪え性があってもなくても、今の魔王は外見は子供でも中身はれっきとした十五歳。しばらく頭を冷やせばその内に戻って……なんて考えていたら、リィンが血相を変えて戻って来る!
「大変ですアディアさん! 魔王様が屋敷のどこにも見当たりません!!」
「はぁ?」
急いで二人で屋敷中を再捜索。しかし、隈無く探し回っても彼の姿はどこにもなかった。
「ア、アディアさん。これって……」
「たぶん家出ね。まったく、稽古で逆切れした挙げ句にやるなんて情けない!」
「なっ、原因を作ったアナタがそんな言い方をするなんて……ひどいです!」
「わ、悪かったわよ。っで、外へ探しにいくんでしょ?」
「もちろんです。万が一って場合もありますから……」
「万が一? 転んで怪我したりとか?」
相変わらずの過保護ぶりなんて思っていたら?
「この村には今日、王都の騎士数名が視察に訪れるのです」
「何ですって!?」
「普段は村人みんなで人間のフリをしてやり過ごしてますが、もし事情を知らない魔王様が角を隠さずにうろついていたら……」
「マズいってわけね!」
「仰る通りです」
「ふぅ……まったくあの根性なしときたら、余計な心配させてくれるわ」
「気持ちはわかります。でも、そういうところが可愛くもあるんですよ」
「ハイハイ。戯言はいいから、とっと探しにいくわよ!」
というわけて、二人は失踪した魔王の捜索を開始するのであった。




