65話 魔王の不安
深夜。屋敷のリビングにあるテーブルを挟んだ二つのソファーでは、それぞれにアディアと家主のリィンが横になって就寝していたが……
「―――ふぅ、何だか寝つけないわね」
勇者への復讐を気にしてか、アディアは妙に目が冴えて眠れずにいた。
「眠れないんですかアディアさん?」
「まあね。リィンは?」
「ハイ、我も眠れません。魔王様のことを考えていたらこう興奮して……ハァハァ」
「そ、そう……でも私達がここに寝泊まりするようになって数日が経つけど、そういうのは慣れないものなの?」
「魔王様に対してはいつも新鮮な気持ちで接してますから、こればっかりはどうしようもありません」
「……そう、大変なのね」
さすがの熱愛ぶりには呆れ……というよりかは若干引く!
「―――ところでその魔王についてだけど、銃の練習は上手くいってる?」
「そ、それが……」
「上手くいってないのね?」
「あ、いえ。腕前自体は上達しているんですが……」
言い淀みつつもリィンは続ける。
「やはりある程度の弾数……魔力を消費したところで、どうしても魔力切れを起こしてしまうのが悩みなんです」
「魔力切れかぁ……そういえば魔力って、時間をおけば回復するものなの?」
「一応、三十発撃った後は、三十分の休憩で元に戻りますね」
「三十発撃って三十分……単純に考えれば一発につき一分ってところか」
「理屈ではそうです。でも撃ち過ぎた場合は、魔力の消費が激しくなって気を失うこともあります」
「なるほど……それなら弾数には常に気を遣う必要があるわね」
「仰る通りです」
「わかったわ。それを頭に入れて今後の対策を考えていきましょう」
「了解です!」
二人だけの緊急会議はここで切り上げて、各々は眠りにつく。
―――翌朝。三人揃って朝食をとっていると、魔王が突然こんなことを言い出す。
「銃をさらに改造することは可能か?」
「っと言いますと?」
「現段階だと弾数にはどうしても頼りない状態だ。だから、それを改善するために……」
ソーセージにフォークを刺したばかりのリィンが答える。
「残念ながら無理です魔王様。銃の改造は既に絶妙なバランスの上で成り立ってます。下手にこれ以上手を加えようものなら、深刻なバランス崩壊を発生させる可能性が高いです」
アディアもこれに続く。
「私も反対ね。せっかくベストの状態に仕上がってるものを、わざわざ台無しにする危険を背負う必要はないわ」
「そ、そうか……余計なことを言ったな」
二人に反対されて意見を引っ込める魔王。彼も彼なりに勇者へ復讐を果たすために必死なっているのがわかる。
そしてわかるからこそ、アディアは提案する。
「ねぇ魔王。私に剣術を習ってみない?」
「剣を? 貴様は剣も使えるのか?」
「舐めないでよ。こう見えても私は武芸百般なのよ」
「ほぉ、すごいな。しかし習うにしても、余は剣については基本的なことしか知らんぞ」
「基本を知ってれば十分。教えるのはあくまでも身を守る程度のものになると思うから」
「身を守るか……それだけだと本格的な戦闘には不安はあるが、魔力を回復するまでの間を埋めるくらいはできそうだな」
「え!」
「え!」
ここでアディアとリィンは同時に声をあげる。
「もしかして昨夜の話……」
「……聞いてたのですか?」
訊ねる二人に魔王はタメ息混じりに言う。
「はぁ、そんな訳がなかろう。盗み聞きなんかしなくとも、貴様達の間抜けな顔を見てれば容易に察しがつくというものだ」
っというわけで、察しがついた魔王はアディアから剣の修行を受けることになるのであった。




