63話 悩めるアディア
―――夜。屋敷のリビングではアディアとリィン。そして、魔力の枯渇からようやく回復できた魔王の三人が揃って少し遅めの晩食をとっていた。
「どうです魔王様、お味の方は?」
炒めた野菜をリスの如く口一杯に頬張る魔王は、目も合わせずに答える。
「ひゅまぁい!」
「あ、ああ~魔王様! そのありがたい御言葉……感激の至りでございます!」
魔王の食いっぷりと称賛のダブルに恍惚の表情を浮かべるリィン。一方、彼等の対面の席で難しい顔をしているアディアは、勇者への復讐について頭を悩ませていた。
パレードで襲撃するタイミングはどうとでもなるとして、問題なのはギルハートの戦闘力にどう対応するかね。
「さぁさぁ魔王様、こちらのお肉も召し上がってくださいな!」
「ほぅ、いただこうか」
「仮にも相手は“勇者”の肩書きを持つ男だ。大衆に囲まれて注意散漫になる状況下でも、簡単に不意が突けるとは思えない……」
「さぁ魔王様、こちらの甘ぁ~い苺もとうぞ!」
「うむ、よかろう」
「な、ならばいっそ……周囲の大衆諸共、爆弾を使って一気にやるのも……やるのも……」
「あらあら魔王様、お口が汚れてますよ。今、お拭きになりますね」
「むっ、苦しゅうない」
バンッ!!
「いい加減うるさいわねアンタ達!! 飯くらい黙って食べたらどうなのよ!!」
度々下らないやり取りに思考の邪魔されて憤ったアディアは、テーブルを思い切り叩いて大声で激昂!!
「ブハッ! な、何だ突然!?」
いきなりのことで驚く魔王は口の中にあった苺を吹き出すが、アディアはかまわずに捲し立てる。
「“何だ”もヘチマないわよ! こっちは頭抱えて色々悩んでいるってのに、そっちはピーチクパーチクとバカみたいに浮わついてさぁ!」
「う、浮わつくって……ちょっと待て! 余はただ飯を食べてるだけであって……」
「だったら黙って普通に食べなさいよ! それとも一人で食事もとれないお子様なわけ!?」
「なっ、そんなことは……」
「言い訳はしないで! 現にリィンが付きっきりで、食べさせてもらってるじゃない!!」
「ななななな!?」
もはや八つ当たりというか、あまりの意味不明さにたじろぐ魔王。そこだ見かねたリィンが助け船を出す。
「まぁまぁアディアさん。ここは我に免じて一旦落ち着いて……」
「リィンもリィンで簡単に甘やかさない! このままだとこの子、本当の子供になっちゃうわ!!」
「え? それはそれで我としては別に……」
「言っておくけど、子供相手に手を出したら普通に犯罪だからね?」
「は、犯罪!? わ、我はそんなつもり……つもりじゃ……つもり?」
さすがに犯罪と言われたら世間的には堪らないと、リィンは慌てて反省。
「わ、わかりました……では魔王様には早く大人になってもらうためにも、この不肖リィン! 心を鬼にして彼の食事の補助を放棄します!!」
「それでいいのよ。よく決断したくれたわ!」
「ハイ! おそれいります!」
……何だかんだで仲睦まじく手を取り合って納得し合う女性二人。魔王はそんな様子を眺めてふと首を傾げる。
「そういえばアディア、一体何が原因で悩んでいたんだ?」




