58話 ある武闘家の最期
「があああ……」
身体中が穴だらけになって床で蠢くロゴス。その命は既に風前の灯火を通り越している状態だった。
「これで終わりだな……」
「ええ、我の溜飲も下がります」
魔王とリィン。協力者の彼等は仕事が終わったということで、それぞれが細工した扉、魔法で壊した窓から入室していた。
「なぁ、とどめを刺してやらんのか?」
魔王はアディアへ介錯を促すが?
「まだよ。それをやる前に聞きたいことがあるから」
「そうか……なら手短にしてやるんだな」
彼女はコクリと頷き、ロゴスの横に屈んで声をかけた。
「ねぇロゴス、最後に教えてちょうだい。アナタはどんな理由でギルハートから私を殺害する依頼を受けたの?」
答えは数瞬の間をおいて返ってくる。
「そ……“その後”のためじゃ……ゲホッ!」
「その後?」
ロゴスは苦しそうに血を吐いて言う。
「古今東西、英雄が魔王を倒す物語は山程ある……しかし、英雄のその後についての物語は知ってるか?」
この問いにアディアは、取り敢えずは適当に答える。
「さぁ? あまり聞かないわね」
「……ワシも聞かんな……じゃが、それこそが理由といえば理由じゃな」
「話が見えないわね」
ロゴスの言っている意味が理解できない彼女は、首を傾げる。
「フォフォ……ではもう少し噛み砕いて話してやろう……ワ、ワシは魔王を倒した後も、人々からチヤホヤされたいんじゃ」
「はぁ?」
「考えてもみるんじゃ……ゴホッ! え、英雄は魔王を倒して人々から感謝されるが……そこから先はどうなる?
魔王がいなくなった途端、英雄は慎ましく生きるのか? 人里離れた山奥で、残りの余生を世捨て人みたいにひっそり過ごすのか?」
「…………」
「ワ、ワシはそんな染みっ垂れた人生は絶対に嫌じゃ! せっかく苦労して……ま、魔王を倒したからには……ずっと贅沢をしたい! 美味いものをたらふく食べたい! 酒池肉林の生活を死ぬまで送り続けたい!!」
自分の欲望を次々に吐露するロゴス。アディアはそんな下らないことばかり吐き出す彼にタメ息をついて訊く。
「ふぅ……つまりは、私を殺せばそれが約束されていたと?」
「そうじゃ! だからワシとザクノバは、ギルハートから依頼を受けたんじゃ!!」
どこまでも欲望に素直な回答。だが、それだけにわかりやすくもある。
「……最後にいい?」
「な、なんじゃ……もう、あ、まり……時間がなさそうじゃから……早くし……てくれ」
「たぶんだけど、ザクノバはアナタと違う目的で依頼を受けたと思うわよ」
「な……に……?」
「私の主観だけど、彼はアナタを相当に慕っていたわ。仲間として、友人として、相棒として、そして家族としても……ね」
「か、家族……ザクノバが?」
「あくまでも私の主観よ。でも、そうでなければ自分達が殺そうとしてた相手に“アナタが回復するまで休戦してくれ”なんて都合の良過ぎる無茶を言えるわけがない。違う?」
「あっ!」
話を聞かされて何かに気づいたロゴス。彼は最後の力を振り絞るかのように、誰にも見せたくないと言わんばかりに手で自分の顔を覆い隠す。
「そうか……ザ、ザクノバ……すまんぬ。ワシが……ワシが欲に眩んだせいで、お主を……巻き込んで……お主を……ザク……ノ……バ……」
最後に親愛なる友の名前を口してロゴスは逝く。取り返しのつかない後悔と懺悔を抱えたままに……




