53話 貴重な時間
偶然にも出会ってしまったアディアとザクノバ。彼等はたまたま見つけた茶店にて席を共にしていたが?
「ロゴスがぎっくり腰?」
アディアは三つ目のケーキセットを頬張りながら反応する。
「そうなんだ。だから今はジイさんが回復するまでの間、オレ達はこの村に足止めだ」
「ふ~ん、アナタ達も大変ねぇ……そうだ! お見舞いにいってあげるから、療養してる場所を教えてくれない?」
「んなもん言えるか! どうせ襲撃するつもりで聞いてるんだろ!」
「失礼ね。私はただ純粋にロゴスのことを心配してのよ」
「見え透いた芝居はいい。それよりもだ……」
ザクノバが本題が切り出そうとしたその時、アディアは察したかのように口を開く。
「“彼が回復するまでの間、手を出さないで欲しい”って言いたいんでしょ?」
「え!」
「ずいぶんと都合が良い提案だけど、受け入れてあげるわ」
考えを見破られていたのにはさることながら、それ以上に“受け入れる”という発言にザクノバは目を丸くして驚く!
「い、いいのか?」
「まあね。何だか大変そうだから同情しちゃったわ」
「そ、そうか……っで、条件は?」
「条件?」
「こっちの要望を受け入れてくれるための条件だ。“ここの払いを全てオレが持つ”くらいじゃダメだろ?」
「いいわよ、別にそれでも」
「え?」
冗談で言った条件にもあっさりと承諾するアディア。そのわけを話す。
「確かに私はアナタ達には殺されかけたし、家だって燃やされたわ。だけどそれでも、一緒に苦楽を共にしたあの貴重な時間までは忘れてない」
「アディア、お前……」
「一度だけよ」
「え?」
「情けをかけるのは一度だけ。次に出会った時は……」
「ああ、わかってる」
ザクノバの納得した表情を確認し、アディアは席を立つ。
「じゃあ私はこれで失礼するわ。ケーキはごちそうさま」
「いいってことさ。あと、例のムカつくボウズにもよろしく言っといてくれ」
ムカつくボウズはもちろん魔王を指してるが、ザクノバはその正体をまだ知らない。
その後、アディアは茶店を一人で去ったあとは早足でとある場所へ向かう……
「―――いらっしゃい。何かお探しで……何だ、アンタか?」
彼女の再来店に、ゴメルはいぶかしながらも出迎えてくれる。
「言っておくが、頼まれた大槌の修理ならまだ何も手をつけてないぞ」
当たり前に言われるも、彼女はそれを無視して店内に陳列してあった適当な短剣を手に取る。
「代用の武器か? それなら、レンタル料は……」
「これ、リィンにツケといて」
「やれやれ、またか……って、オイ! そんなに慌ててどこにいくんだ!?」
ゴメルが止める間もなく大急ぎで店を飛び出していくアディア。彼女の次なる行き先は……
「ただいま! リィン、魔王、アナタ達に至急頼みたいことが……って、何やってんのよ二人共?」
到着したのは現在の滞在場所であるリィンの屋敷。玄関からリビングへ向かったところ、ソファーに座った家主のリィンが魔王を膝の上に乗せて嬉しそうに銃を弄る姿あった。
「だから魔王様。ここはこうしてですね……」
「あ、その……リィンよ。余は貴様の膝の上でなくて普通に座りたいのだが……あっ!」
魔王とアディアの目が合う。
「おわあああああわーーーー!! き、貴様、いつからそこにいたんだ!?」
狼狽える彼を他所に、アディアはもう一人の人物へ話しかける。
「リィン、村長であるアナタに至急頼みたいことがあるの!」
真剣な顔で請われ、彼女の表情は引き締まる。
「まずは内容を伺いましょうか、アディアさん」
「ザクノバとロゴスがこの村に滞在してるわ」
「勇者の仲間が? 本当ですか!?」
「片方の本人に聞いたから間違いないわ。けど居場所がわからないから、急いでアナタの力で特定して欲しいの!」
「勇者の仲間が? 了解しました。すぐに部下の者達に探らせます!」
「ありがとう。それともう一つ、今の彼等はすこぶる無防備な状態だから、その絶好の機会を逃したくない」
「なるほど。つまりは襲撃をかけるわけですか……いいでしょう。そっちは我が直々に手を貸します」
「リィンが? 心強いわ!」
「そう言ってもらえて恐縮です!」
次々に卑劣な作戦を構築していくアディア。どうやら彼女の心には、“貴重な時間”なんてものは既に存在してなかったようだった。




