40話 リィン
「さぁ魔王様! 今一度、我の教育をお受けになって下さい!!」
「ぐぬぬぬっ……」
熱き情熱を持って迫るリィンの迫力にたじろぐ魔王。このままでは本当に再教育されかねないと判断する彼は、起死回生の策を思いつく!
「な、なぁ……リィンよ?」
「何でしょう?」
「す、すまぬが、余は腹が減った。久しぶりにお前の手料理を馳走してくれぬか?」
いや、策というよりも単に藁にもすがる気持ちで話を逸らそうとしているだけみたいだ。
「我の料理をですか?」
「あ、ああ……頼めるか?」
「ハイ! 喜んで用意させていただきます!!」
ただ幸運にもリィンは魔王の提案をすんなり了承し、嬉々としてリビングの奥にあるキッチンへ向かう。
「ふぅ、一先ず危機は逃れたか……」
タメ息を吐いて安堵する魔王。そこに一通りの流れを見ていたアディアが話しかける。
「ねぇ魔王? 改めて訊くけど、リィンってどんな人なの?」
「あ、ああ……ヤツはその……優秀な教育係であるのは間違いないのだが……」
「ねぇ魔王? 彼女がいない間に改めて訊くけど、リィンってどんな人なの?」
「あ、ああ……アイツその……優秀な教育係であるのは間違いないのだが……」
「だが? 何だか奥歯にものが挟まったような言い方をするわね」
「う、うむ……正直、色々と度が過ぎるところがあるんだ」
「例えば?」
「例えばか……そうだな、ヤツの授業でうっかり居眠りでもしようものなら…」
「目茶苦茶に怒られるとか?」
「いや、逆に寝不足を心配されて睡眠魔法で強制的に二十時間以上は眠らせれたな」
「え、何それ?」
「他にも戦闘訓練でちょっと転んで膝を擦りむいただけで、ミイラ男みたいに身体全体を包帯でグルグル巻きにされたりもあったな」
「へ、へぇ……ずいぶんと大切にされていたのね」
「大切……か。余としては過保護……いや、溺愛という気さえしたがな」
魔王は遠い目をして続ける。
「一体いつからだっただろうか? リィンが余に対してあからさまに怪しい感情を向けてくるようになったのは……
貴様が勇者達と共に魔王城へ攻め込んだ日だって、ヤツは余に大事な秘術を授けると言ってきてな……」
「え、秘術? 私達が攻めてこなかったら一体どんな秘術を授けられる予定だったの?」
「それは……すまん。今の話は忘れてくれ」
「?」
そんな挙動不審な魔王が話を打ち切ったタイミングで、トレイに料理を乗せたリィンがリビングへ戻って来る。
「お待たせしました魔王様! 我の手料理でごさいます!」
「お、おお……ま、待ちかねたぞ!」
本当に待ちかねていたのかを疑問に思える表情の魔王を他所に、テーブルには見事な焼き色をした鶏肉のステーキと湯気が立つオニオンスープと、色鮮やかな野菜サラダが三人分づつ並べられる。
「あれ? 私の分も用意してくれたの?」
まさか魔族が自分の分まで用意してくれるとは思わなかったアディアは素直に驚いた。
「当然です。どんなに下等な者であっても魔王様の従者というのらば、それ相応の敬意は払うつもりですから」
「はぁ!?」
丁寧な口調ながらも、どこか嫌味を感じさせるセリフ回しをにアディアは率直に憤りを感じていた。
「さぁ魔王様。熱い内に召し上がってください!」
ただそんな彼女の心境に関心を持たないリィンは、どこ吹く風の笑顔で自慢の手料理を魔王へ振る舞うのであった!




