102話 諦めない堕天使
「反対だ」
アイがケアニスの前に出た。
「てか無理だ。危険すぎるぞ。鬼や車では『竜』の攻撃は何1つ防ぎきれない」
あ、そんなにすごいんだ。
まあ、竜のイメージそのままなら、ぶっちゃけ空を飛ぶ戦艦みたいなものだもんなぁ。
「ええそう思います。ですが、人間の総力をあげて『竜』を攻め、秘密兵器としてイセさんの『力』をぶつければ攻略可なのではないでしょ……うか……あ、あれ?」
ケアニスが突然考えはじめて……
「……あ、難しいですね」
「だろ? あれはアイたち人間側は為す術なくやられたんだ。天使の助けがなければ一方的な蹂躙で終わった」
「そうでした……カウフタンさんの話を聞いていたら、これは行けるかもと思ったのですが……」
「行けるかぁ……『竜』を女の子にするなんてよく考えつくなぁ」
椅子を女の子にするとか言い出すヤツだからな。
女の子になりたいから、堕天使になったヤツだし。
ケアニスは、いろいろ常軌を逸している。
「なら隠れて近付いて、そして捕まえるというのはどうですか?」
まさに『ハイエース』の発想だな。
てか、諦めてないのか。
「あんな目立つものが隠れて近づけるわけないだろう。むしろ囮にでも使うものだ」
「じゃあ、別のものに目をひきつけて」
「別のものってなんだ?」
「騎士団や戦士団。ここの衛兵隊もありですね」
「その作戦のために兵を動かすのか? 本当に効くかどうかもわからないのに、命を張らせるのか?」
「では、アイさんの魔法で幻を見せて、ひきつけるのはどうでしょう?」
「本当によくいろいろアイデアが出てくるな。おもしろい発想だと思う。でもおそらく効かないぞ」
「何故です?」
「『竜』が何故、何も食べずに帝都にいられると思う? おそらく魔素を食べている」
「なるほど、魔法への耐性が高いわけですね。それなら――」
と、俺への提案が、アイとの話になっているケアニス。
ほっとかれている俺は、同じく話に加われていないクオンとウルシャに声をかけた。
「ふたりから見て、俺の『力』ってその『竜』に対抗できそう?」
ふたりして首を横にふった。
「まあそうか……」
「確かに男性が女性になることで単純な筋力は衰えるかもしれないが、魔法的な力はわからないぞ」
「そうっすね。そもそも『竜』が女性化して弱くなる保障もないですし」
雌の方が雄より体が大きかったり強かったりする生物は沢山いる。
竜がそうじゃないとは言い切れない。
「そうか……女性化ってことは、竜のまま女性化するってことだよな」
「ん? どういうことだ?」
「いやね。俺の力っていうのは、カウフタンみたいに、みんな可愛い女の子になるものかとばかり」
ネットスラングの「ハイエース」に、おにゃのこ化だ。
そんな通り一遍な感じで、ただ生物学的にメス化するとは思えなかった。
「『竜』が可愛い女の子?」
「なんすかそれ……」
「……さぁ」
ウルシャとクオンの疑問に、俺も明確に答えられなかった。
「でもほら、そういう形で女の子化すれば、爬虫類の時より話しやすくなるんじゃないか? カウフマンだった時より、カウフタンの方が話しやすいだろ?」
「それはまた、ずいぶんと都合がいい発想だな」
俺もそう思う。
ずいぶんと都合がいい。
だから、この『力』には不都合な何かが作用するかもしれない。
アイが前に言っていたように、簡単に使うべきじゃないんだろう。
そのアイの方を見ると、まだ口論じみた『竜』攻略の話し合いを続けていた。
「ケアニス。ずいぶんと『竜』にイセをぶつけることにこだわっているが、いったい何故だ?」
「それは、天使の力を削いだイセさんの力なら、『竜』に通じると考えたからです」
「それだけか?」
「まさか」
それがまるで当たり前かのように答えた。
「私が女の子になるためには、より確かな検証が必要だからです」
「それで『竜』なのか」
「ええ。この世界で最も異質な『力』こそ『竜』。そこに比肩しうるのがイセさんの女性化の力。検証としてこれ以上、良いものはありません」
どうやらまだ、女の子になることを諦めていないらしい。




