103話 ふたりの『神器』の思惑
女の子になることにそこまでこだわる理由は何だ?
……趣味か。
きっと趣味だな。うんうん。
あまりそういう部分の欲を聞くのは避けたい。
ちょっと退いてしまいそうだから。
「ケアニス殿はそこまでして女の子になりたいんすね」
あ、そこ触れちゃうのか。
「ええ。もう是非に」
「理由を聞かせていただいてもいいですか? そこまでこだわる理由がわからないです」
意外なことに、クオンとウルシャが突っ込んだ。
「…………」
ケアニスは、一瞬ひるんだように黙った。
「……あえて言うなら、知るため、でしょうか」
「知る?」
「はい。私は天使ですから。女性という性を知りません」
「それって男だから、女を知りたい?」
「そうですね」
「それだけっすか?」
「それだけというか、それが全てです」
「「…………」」
今度はクオンとウルシャが黙る。
何を言っているのかわからない、という風に俺には見えた。
だが、ケアニスが言っているのはおそらく真実なのだろう。
基本的に天使って嘘はつかないみたいだし。
「私の知りたいは、それだけ強いということです。アイさんはわかりますよね」
「いや、全然。アイは別に男について知りたいとは思わないし、男になりたいとかないぞ。ケアニスは十分変わってる」
「そうですか?」
「キルケは女になりたいとか言わないだろ? 他の天使もそうだ」
「まぁ……そうですね。そういう意味ではアイさんなら分かってもらえると思ってました」
ほんの少しだけ、ケアニスから不穏な気配を感じた。
ただの趣味だから。
好奇心だから。
それで男から女になりたい。
それがどれだけ異常なことなのか、ケアニスは理解していない。
俺が感じた不穏さは、おそらくそこだろう。
そしてそこに絡む『竜』という存在。
「……ケアニス。私はイセの『力』を『竜』に使うことは反対だ。それは変わらない」
「はい。でもだからといって、『竜』を捨て置くのは人間の『神器』としてどうかと思いますよ」
「わかっている。だからケアニスはアイに『竜』の女の子化を提案したんだろう」
「ええ」
「はぁ、そういう試練じみた提案をしてくるところ、やっぱり天使だなって思うよ」
「堕天使ですけど」
また、ふたりの間でしかわからない話になっていっている気がする。
それでそのままなら、この話は平行線だろう。
「だがその試練はない。『竜』とは機を見てなんとかしないといけないのは確かだが」
「その機は、アイさんがイセさんを召喚した時に始まってますよ」
アイはケアニスを睨む。
ケアニスはそれに怯むことはない。
ひくとしたら、譲歩するとしたら、アイの方なのだろう。
「……とにかく、この話はこれで終わりだ。帰るぞ」
不機嫌さを隠さず、アイはぶっきらぼうに話を締めた。
ケアニスは、そこで食らいつくわけでもなく、残念ですと言って従った。
ここにいる誰もが思う。
アイとケアニスが一緒に行動する限り、『竜』に俺をぶつける話は、またぶり返されるだろう、と。
このふたりにしか分からないことがある。
それが絡み、ふたりの行動が噛み合わなくなっている。
その原因は、間違いなく俺だ。
そう考えると、俺はアイに問わなければならないことがいくつかあるということだ。
今後の俺自身のためにも。




