6.同盟会議、その後
「レンジさんのお話、もっと聞きたいな~。いいでしょ?」
会議後――マドカはたたたっとレンジの元に駆け寄ると、にっこり微笑んだ。
「俺の?」
「新タントがどういう風だったとかぁー、こうやって闘ったとかぁ。だってこの件については、マドカが責任者よ?」
「まぁ……」
「いいだろう。行ってこい、レンジ」
タケヒコが口を挟んだ。
「どうせ今日はこのホテルで一泊する。暇だろ」
「わー。三納さん、話せるぅー」
「……わたしもついていくからな、マドカ」
ユキチがごほんと咳払いをしながら、渋い顔をして割り込んだ。
「若い娘が男と二人きりなど、感心せん」
「んもぉ~。……ま、いいわ。上のラウンジに行きましょ? マドカがレンジさんにお酒を御馳走しちゃう!」
「お前……未成年じゃなかったか?」
「やぁだ、レンジさんの口からそんな言葉が出るなんてぇ。勿論、マドカは飲みません」
「ふうん」
「お持ち帰りはぁ、駄目よぉ?」
「ガキが何言ってやがる……」
「さ、行きましょ、行きましょ」
マドカはレンジの腕をぐいぐい引っ張ると、嬉しそうに飛び跳ねた。
「あ……じゃあね、三納さん。……ユリさん」
「……ええ」
「では、これで……」
ユキチは会釈をすると、先に部屋を出ていった二人を追ってゆっくりと歩いて行った。
……急に、辺りがシン……となる。
「……後ほど」
ユリはそう呟くと、タケヒコに会釈をして、会場を後にした。
残されたタケヒコは、ふうーっと長い長い溜息をついた。
◆ ◆ ◆
それは、同盟会議が始まる前――まだ幸道親子が到着する前のこと。
いつまで経っても来ないな、とタケヒコが呟くと、ユリは
「会議は16時からですから」
と答えた。
「えー!」
レンジが不満そうに声を上げる。
「タケ、15時って言ったじゃねぇかよー」
「いや、確かに……」
「ですから……レンジさんは休憩されていて、構いませんよ? 部屋は取ってあるので」
ユリはそう言うと、傍にいた小池に合図をした。
小池は頷くと、レンジにホテルの鍵を渡した。
「んー……。タケは?」
「打ち合わせがあるから、俺はここにいる。お前は……どうせ聞いてもわからないだろ」
「悪かったなー……」
ちょっとふてくされると、レンジは鍵を手にして立ち上がった。
「じゃあ……ちょっと寝てくらぁ。ずっと車の中に閉じ込められて、疲れたしよ」
「どうぞ」
ユリはにっこりと笑ってレンジを見送った。レンジは
(そうしてりゃ普通に可愛いのに……おっかねぇ女)
と思いながら、会場を出ていった。
「……何か、ありましたか」
レンジの気配が消えたあと――タケヒコが口火を切った。
「単刀直入に言いますね。石川県のレンジさんの手下に、裏切り者がいる可能性があります」
「……」
「あの事件、手下の誰かが明間を……」
「それはない」
タケヒコはユリの言葉を遮った。
「……疑いたくはないでしょうが……」
「そうではなく。本当にいない」
タケヒコは腕を組むと、真っ直ぐにユリを見つめた。
「手下に紛れてヨソ者がくっついていた。これが俺の結論です」
「……」
「あなたは……レンジの手下の誰かが明間を連れ去った、と考えた訳でしょう?」
「……ええ……」
「そうではなく……あのとき余計な奴が、闘争の最中入り込んだ。闇の中だ。誰が誰かなんてわからない。レンジも、手下が全部で何人いたかなんて、いちいち確認はしない」
「……確かに……」
「レンジの話を聞いたあと、こちらも調べてみた。手下の全員が、『最後の二人が明間を縛って連れていくと言っていた』と答えた」
「………!」
「そして……その二人と明間は戻ってこなかった。――そういうことです」
「……なるほど……」
「新潟県の差し金か……」
「……いえ……明間は新潟県をかなり長い間、離れている……。違う県の、可能性も……」
そう呟くと、ユリはしばらく考え込んだ。
そして……タケヒコを見て、こう言った。
「私に考えがあります。会議では――三納さんは、デーモン・コアについては伏せて、報告して下さい」
◆ ◆ ◆
「……でよ、そこで、俺がこう……NUKAを日本刀に塗りたくってよ」
「へぇ~。そしたら、効いたの?」
「おうよ!」
「やーん! カッコいい~!」
「……でも……止めを刺そうってところで……気づいちまったんだ。このままじゃ、マズいってよ」
「あらぁ~。どうして?」
「新潟県と福井県は原発推進路線で繋がってるからよ。……こう、福井県に何か……」
「えーっ! マドカたちのこと、気にしてくれたのー?」
「ん、まぁ……」
「嬉しいー! レンジさん、大好きー!」
マドカがガバーッとレンジに抱きつく。隣にいたユキチが
「こらこらこら……」
とマドカを引き剥がした。
「もう、パパ……無粋ね」
「そういう問題じゃない」
マティーニを飲みながら、ユキチは不機嫌そうにぼやいた。
「でもぉ……それじゃ日本刀、錆びたんじゃない?」
「そんななまくら刀じゃねぇよ」
「……福井は……刃物の郷でもあるのよ」
マドカはにっこりと微笑んだ。
「レンジさんの愛用の刀には及ばないかもしれないけど……短刀とか、仕込み刀とか、レンジさんの気に入るものがあるかもー!」
「んー……」
「ね? だから今度、福井県に来てー!」
「ああ……仕事があればな」
「なくても来てよぉ。ねぇ、ねぇ!」
「あ……今度な、今度」
「わーい!」
マドカはそう叫ぶと、再びガシーッとレンジに抱きついた。
「……ビンゴでしたね……」
その頃、タケヒコのいる302号室。
ユリとタケヒコは向かい合って座っていた。
傍には、田口が控えている。
「……福井……正確には、幸道マドカでしたね」
「そうですね……。父親の方は全く関与していないようだったわ……」
――そんなにすごいんだぁ~、デーモン・コアって~。あんな小さいのにね~。
マドカが何気なく言ったその言葉を、ユリは聞き逃さなかった。
そしてタケヒコも――その瞬間、すべてを悟った。
ユリはハーッと溜息をついた。
「ちょっと……何を考えているのかわからなくて……」
「うーん……」
「どう手を打ったらいいのか……」
「……しばらくは……泳がせておきましょうか」
タケヒコはふむ、と頷いた。
「え……?」
「研究とやらを本当にしてくれるのなら……こちらも助かりますしね。今なら我らの意識が佐渡に向いている、と思っているでしょうし……。動向だけは注意して……」
「うーん……そうですね……。でも……うーん……」
ユリは、珍しく、困ったように首を捻っている。
それは、いつでも――怒りに打ち震えているときでさえも冷静であるユリとは、ほど遠かった。
「……相当、苦手なようですね。幸道マドカのこと」
タケヒコが内心「ぷぷぷ」と笑いながら言った。ユリは
「えっ!」
と一声叫んだあと……またもや溜息をつき
「……そうみたい……ですね……」
と、かなり疲れた様子で呟いた。
最後まで読んで下さったみなさん、本当にありがとうございました。
そして
・NOMAR様の作品の舞台は横浜の港である
・レンジには仲良しの参謀がいる
・新潟県は強化人間計画を企てており、その一環として新タントのレンタルを
している
という設定については、NOMAR様から教えていただいた、まだ表には出ていなかったものです。
そして
・川の長徳
については、由様の作品に出てきたおっちゃん一族という設定で、登場したショウゾウさんは由様の作品のおじちゃん(60代)の父親になります。
それ以外の富山県の県設定、福井県の設定、レンジの癖などは、すべて加瀬優妃の創作です。
決して拳は使わない「女の闘い」を書いてみたかったんですが、どうでしたか?
私は由様と同郷ですので、富山県寄りの話となっております。
北陸三県の立ち位置なんですが、
「加賀百万石の殿さま」を掲げ、全国規模の知名度をもつ「金沢」
を要する石川県は別格で、富山と福井については
富山県「福井には負けんわ」
福井県「富山よりはいいやろ」
みたいな意識になっていると思うのですよ。(あくまで私の主観)
それを表現したかったんですね。(福井県の方ごめんなさい)
心残りは……そうですね……「クロヨン」(=黒部第四ダム・発電所)を話に組み込めなかったことですね……。
こんな感じで、是非みなさんも「リサイクル作品」の創作にどんどん挑戦してみてください!
こう言っちゃなんですが、「書いたモン勝ち」ですよ。
自分の県を「こういうとこがスゴい県なんです」とNOMAR様の世界観の中で表現するのも面白いんじゃないかな、と思います。
他県のハナシとかも読んでみたいですね~!
東京を囲む関東地方のバチバチとか。
九州地方もやっぱり何か因縁があるのか、とか。