2−3 飲み比べ
翌日、悠真は大学の部室棟前にいた。
「悠真君」
食堂棟の方から現れた中田さんは首のあたりで控えめに手を振っている。
部室棟に入り、階段を登っていく。
「昨日買った豆はね。ブラジル、マンデリン、ケニア」悠真の隣を歩きながら、中田さんが告げる。
「というか、そういえば卒論のテーマ、ちゃんと文学してましたね。文芸部と繋がりました」
「確かに」中田さんはふふっと笑う。
部室に入ると、今日は他に女子学生が二人いた。
中田さんが悠真のことを「後輩」だと紹介する。
「初めまして。附属高校の堀田悠真と言います」
「私が南条汐里で」
「私が朝霧あまねです」
南条さんは眼鏡をかけた少し大人しそうな感じで、朝霧さんは人なつっこそうな笑顔が印象的な人だった。
中田さんが、
「コーヒー豆買ってきたから、みんなで飲もうか」と言うと、
「豆見せて!」と南条さんが乗り気だった。
中田さんが三種類の豆をテーブルに広げると、朝霧さんが、
「確かね、ブラジルとかマンデリとかは飲みやすかったと思うよ。ケニアはちょっと酸っぱいんじゃなかったかな?」と言う。
「お二人は詳しいんですか?」と悠真が訊く。
「ってかね、あいつが訊いてもないのにべらべらしゃべるわけよ」
南条さんが嫌そうな顔をしながら話し始めた。最初の印象と少し違う。
「あいつ?」中田さんが不思議そうな顔をする。
「部長、だね」朝霧さんが答えて、少しニヤッっとする。
中田さんは「じゃあ、淹れてくるね」と告げてコーヒーメーカーのある棚の方へと向かった。
悠真も慌ててついていく。
「今日は普通のドリップコーヒーにしてみようか」
悠真も中田さんに教わりながら手伝いをする。
振り返ると、南条さんと朝霧さんもカップを取り出して準備をしていた。
「中田さん、ありがとね」という声が聞こえてくる。
「さて、準備ができたわけだが」
中田さんの眼の前にはコーヒーの入ったマグカップや紙コップがたくさん置かれている。
「ここはやっぱりブラックで飲み比べすべきだよね」
そう言って先陣を切ったのは南条さんだった。もう初めの大人しいイメージはなかった。
「ん」「ん!」「ん!!」一つずつ飲んでいく。「なるほど……分からん」
「どれどれ」次に動いたのは朝霧さんだった。
「あー、ちょっと違うよ。特にケニアはやっぱりちょっとフルーティー。酸味もある」
「じゃあ、私たちも飲んでみようか」
中田さんが悠真に紙コップを渡してくる。
ブラックコーヒー。沢屋さんがいつも飲んでいるものだ。
やはり……苦い。それが第一印象。でも確かにこうして何も入れずに飲むと、純粋な雰囲気が分かってくる気がした。苦みの中に酸っぱさやひりひりとした感触まである。
「実莉さん」
「ん?」
「実莉さんにとって、コーヒーって何ですか?」
「それはもちろん、飲み物以上の別の意味ってことだよね?」
悠真が小さく頷く。
中田さんは紙コップを持った手をじっと見つめる。
「憧れと、絆、かな」
「それは――」
「彼、貴さんへの」
さっき口にしたケニアのコーヒーの苦みが今になって身体に染み込んでくる。酸っぱさも。
「そして」悠真を見てニコッと微笑む。「悠真君との」




