↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒塚の陰翳  作者: 猫田たい子
第六章
PR
35/60

船弁慶 4

4


 薫が東京へ来る前日、慶之助が電話で大倉に能舞台の設計図が用意できたと報告した。

「慶之助が取りに来て大丈夫や言うてるけど、俺は明日一日中、薫に付きっきりやからな」

「大倉さん、それなら明日朝一に、私がここに来る前に真島家に取りに行きます」

「田中、助かるわ」

「山口邸の設計図はどないなっとる」

「それは、執事の長山さんが、坂本さんが来られた時に渡すと言っていました」

「さよか。――薫が『覗いてはいけない部屋』を見つけてくれたらええんやけど……」

「そうですね……」

 田中は呟いた。


 だが、薫は東京に来ることはなかった。

 翌朝、薫は新大阪駅を七時三十分発、東京駅に九時五十七分着予定の新幹線に乗るはずだった。

 七時に薫から「今から乗る」というメールが届いたため、大倉は九時半に家を出て東京駅へ向かうつもりでいた。

 出かける準備をしていた時、大阪府警の久下からスマートフォンに着信が入った。

「久下か、どないした?」

「大倉、大変や! 坂本さんが新大阪駅で刺されて病院に運ばれた!」

「なんやて!」

「御堂筋線の改札を出て、新幹線へ向かう階段で誰かに刺されたらしい」

「何時頃の話や?」

「朝の七時過ぎや」

 久下の言葉に大倉はメールの時間を思い返した。

「なんで連絡がこんなに遅れたんや!」

「犯人かどうかは分からんけど、坂本さんが階段で転げ落ちた時、荷物もスマホも盗まれてしもたんや。せやから身元の確認に時間がかかってもうてな」

「落とし物が持ち主の元に戻る日本はいったいどこ行ったんや……」

 大倉は悔しそうに呟いた。

「すぐにそっちへ向かう!」

 電話を切ると同時に田中に電話をかけた。

「田中! 薫が刺された! 俺は今から大阪へ向かう!」

「えっ! 坂本さん、大丈夫なんですか?」

「分からん! 今は集中治療室や!」

「集中治療室……そんな……私も一緒に大阪へ行きます!」

 二人は十過ぎに東京駅で待ち合わせて、そのまま新大阪行きの新幹線に乗り込んだ。

 新幹線の座席に座ると、大倉は田中のジャケットからふんわり漂う白檀の香りに気づいた。

「田中、おまえ、真島んとこに行ってたんか?」

「はい、舞台の設計図を取りに行っていました」

 田中はバッグの中から茶封筒に入った設計図を見せた。

「なあ、薫を刺した犯人やけど……」

「はい……」

 田中は大倉を睨むように見た。

「今日、薫が東京に来るって知っとった奴やと思うんや」

「えっ? どういうことですか?」

「薫に『覗いてはいけない部屋』を見つけられたら困る奴や」

「山口静香……とか?」

「せや。山口と関わっとる奴や。――慶之助は薫が東京に来るのを知っとったな」

「はい……。でも今朝、慶之助さんにお会いしましたよ。設計図も慶之助さんからお借りしました」

「葵は?」

「えっ?」

 田中の顔が曇った。

「今朝、葵はおったか?」

「――葵さんは……いませんでした。でも、国宝のお世話で病院にいると慶之助さんが言っていました」

「ほんまか?」

 大倉は田中を睨みながら尋ねた。

「大倉さん……その目、止めてください……怖いです……」

「すまん……」

 大倉はため息をつき、窓の外を見つめた。車窓に映る景色は目に入らず、頭の中は薫の安否への不安でいっぱいだった。


 二人が新大阪駅に着くと久下が迎えに来ていて、そのまま薫が運ばれた総合病院まで向かった。

 田中は久下と初めて顔を合わせたが、挨拶もそこそこに車の後部座席に大倉と並んで乗り込んだ。

「薫の荷物は盗まれたんか?」

 大倉は運転する久下に尋ねた。

「防犯カメラを確認したら、坂本さんを刺した犯人が奪っ取った」

「防犯カメラあるんやったら、犯人の顔分かるやろ」

「それがな……全身黒ずくめや。サングラスにマスク、手袋まで。ほんでフード付きのジャンパーや」

「体格ぐらい分かるやろ」

「刺した奴な、奪った坂本さんのバッグを、地べたに座り込んどったホームレスに渡したらしい。話聞いたら、黒いスニーカー履いとって自分より足が大きかった言うてた」

「ほな男か?」

「分からへんけど小太りやったらしい。――カメラからもそういう印象やったわ」

 バックミラー越しに久下と目が合い、田中は視線を逸らした。

「薫のスマホは?」

「それがな……坂本さんが階段から転げ落ちた時、近くにおった大学生がスマホをくすねとってな。そんで身元の確認が遅れたんや。――坂本さんの奥さんが『新幹線乗ったら連絡する』言うてたのに、いつまでたっても連絡けーへんからおかしい思てスマホのGPS調べたら、なんや難波にあるって分かってな。それで俺に連絡が来たっちゅうわけや」

 話しているうちに車は総合病院に到着した。三人はすぐに車を降りて薫のもとへ急いだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。