安達原 4
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「さすが一級建築士ですね。――よく警視庁が経費を出してくれましたね」
信濃はまじまじと模型を見つめながら言った。
「自腹や」
「凄いですね……。一級建築士って儲かるんですね」
薫は信濃を睨みつけた。
信濃は慌てて「すみません……」と頭を下げた。
大倉のスマートフォンが鳴った。応答すると、捜査一課にいる成田からだった。
「なんやて……真島葵が、病院に運ばれた?」
田中はハッとして大倉を見た。薫は田中を一瞥した。
大倉がスマートフォンを切ったと同時に、田中が詰め寄った。
「葵さん、狙われたんですか?」
「信号待ちしとった時、背後から誰かに押されて、バイクに轢かれたらしい」
「大丈夫なんですか?」
慌てる様子を信濃が意味ありげに見つめた。その視線に気づいて、田中は表情を引き締めた。
「右手を骨折しとるそうや」
「犯人は?」
「分からん。救急車で運ばれた後、成田が事情を聞いてたら、医者から身体中に不自然なケガがある言われたらしい」
「それって……私たちも見た、慶之助の母親からの暴力ですよね」
「成田が写真を撮りたいって言うたけど、葵に断られたらしい」
「そんな……」
「成田も仕事やからって頭下げたら、俺か田中やったら身体見せてもええって言うたらしい」
田中はすぐに東京へ戻りたいと言いたかったが、薫と信濃の視線を感じて言葉を呑み込んだ。
「俺はこの後、大阪府警で久下に会う約束しとる。――田中、悪いけど、今から先に東京に戻って葵に会うてくれへんか?」
「分かりました」
「ほな、竜斗に新大阪まで送ってもらい」
「ありがとうございます」
薫の気遣いで田中はすぐに新大阪駅まで向かうことができた。もし薫の運転だったら……断っていたに違いない。
田中がいなくなると、薫が口を開いた。
「身体中に不自然なケガって……」
「国宝の孫やのに、腹違いのせいで扱われ方が酷いんや……。血ぃ繋がってへん母親からのな。先月、田中と一緒に真島家行った時、目の前で葵を蹴り飛ばすん見たんや」
「そりゃ酷いわ」
「ほんま……」
「ほんで、田中さんは真島葵にぞっこんなんか?」
「田中が? それはない」
「なんで分かる?」
「葵を気の毒な子や……ぐらいで見とるだけや」
大倉は曖昧に答えた。
「薫さん、今回の犯人は誰だと思いますか?」
突然、信濃は二人の間に入って問いかけた。
「薫さん? 下の名前で親近感得ようとしてるのバレバレやで」
「えー、いいじゃないですか。だって仲良くなりたいし――」
「もうバレとるで」
「えっ?」
信濃がとぼけると、薫はフッと笑った。
「――やっぱり洞察力、凄いですねー」
信濃の顔つきが鋭くなり、薫みたいになった。
大倉は目を見開いて驚いた。
「俺を調べてんのか?」
薫がポケットから信濃の名刺を取り出し、名前を確認して《《靖代はん》》と付け加えた。
「いいえ、興味があっただけです。会えるチャンスがあるなら、逃すのはもったいないでしょう、《《薫さん》》」
信濃は冷ややかに答えた。
「おかしい思てん。成田に薫んとこ行くしか言うてへんのに、坂本薫って言うたからな。ほんで、どっちが素や?」
大倉が信濃に聞いた。
「今ですね」
「ほな、新幹線で話した母親の病気の話も嘘か?」
「本当です。――シリアルキラーを調べているうちに、そっち側の気持ちを知りたいと感じました」
「俺はまだ人を殺しとらん」
「分かっています。ただ――今回の犯人像を薫さんの口から聞きたいんです。もし薫さんが犯人なら、次はどんなことをしますか?」
信濃はニヤリと笑って問いかけた。
「靖代はんの犯人像はどないなっとる?」
「私は複数犯だと思っています」
「ちゃうなー」
「えっ?」
「ほんまの犯人は一人や」
「一人ですか?」
信濃が疑い深く目を細めた。
「せや。――暗闇に潜み、姿も見えへん。俺の想像もつかん……得体の知れん怪物や」
大倉は少しほっとしていた。帰りの新幹線で信濃と二人きりになったら、東京に着くまでの間ずっと話を聞かされると覚悟していた。素の彼女を見て、これなら帰りはゆっくり眠れそうだと思った。




