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十歳からやり直して大富豪になるはずだった――未来のビットコインもAIも知っていた俺が、知らない明日を生きるまで  作者: 野狐禅


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8/10

親から離れる

十八歳になったら、家を出る。


僕はそれを、Bitcoinより先に決めた。


十億円を目指すことも、未来知識を使うことも、その後だ。まず、自分の生活を自分で決められる場所へ移る。それが最初の目標だった。


今の僕は十歳で、食事も服も学校も、生活のほとんどを親に依存している。嫌だからといって、今日から一人で暮らせるわけではない。金もないし、子供だけではできない契約や手続きも多い。


現実的な出口は、進学だった。


僕はノートに書いた。


十八歳。

大学。

家を出る。

できれば寮。


大学進学なら、家を離れる理由をわざわざ作る必要がない。寮なら家賃も比較的安く、学校にも近い。


僕が欲しいのは、劇的な逃亡ではなかった。


普通に進学して、普通に家を出る。その結果として、生活の主導権が自分へ移ればいい。


未来の記憶について説明する必要もない。親から離れたい理由を全部話す必要もない。


自立は、普通に説明できる形で進める。


そう決めてから、十八歳で家を出るために何が必要かを書き出した。


大学へ受かる学力。学費。住む場所。生活費。引っ越しの初期費用。銀行や各種手続き。そして、自分で日常生活を回す力。


思っていたより多い。


十八歳になれば自動的に自由になるわけではない。生活能力まで誕生日に生えてくるわけでもない。


なら、八年間で準備すればいい。


まずは学力だった。


大学へ行くなら、当然合格しなければならない。できれば家から通えない場所がいい。ただし、家を出ることだけを理由に大学の質を落とすつもりはなかった。


学びたい内容、費用、寮、卒業後の進路。それらを比べたうえで、同程度の選択肢が二つあるなら、家から離れられる方を選ぶ。


そのくらいでいい。


生活については、前の人生の経験がある。料理も洗濯も掃除も、まったく知らないわけではない。


ただし、今から突然、大人のように家事を仕切れば不自然だ。


だから、自分の服を畳む。掃除を手伝う。簡単な料理を覚える。買い物に行く。


子供として不自然でない範囲で、できることを増やしていく。


大人の記憶があるからといって、子供時代を飛ばす必要はない。


次は金だった。


大学へ行くにも、家を出るにも、Bitcoinを買うにも金がいる。


そして、同じ金を三回使うことはできない。


僕はノートの前のページを開いた。


学費と生活費を確保する。家を出るための費用を確保する。しばらく収入がなくても暮らせる余裕を持つ。


Bitcoinは、その外側の金で買う。


順番を逆にしてはいけない。


未来で何倍になると知っていても、引っ越し費用を投資してはいけない。翌月の食費も、学費も使わない。


そもそも、その未来が本当に来る保証もない。


僕はノートに一行だけ書いた。


投資は独立の後ろ。


十八歳で家を出る金が足りないなら、Bitcoinへの投資額を減らす。逆にはしない。


資金の出所も分けて考えることにした。


お年玉や、自分で働いて得た金。教育のためにもらった金。奨学金のような借りた金。


同じ十万円でも意味は違う。


大学進学のために祖父母が助けてくれたとして、その金をBitcoinへ回すのは違う。引っ越し代として受け取ったなら、引っ越しに使う。


投資するのは、自分が自由に処分してよい金だけだ。


もし十万円が一千万円や一億円になったとき、「最初の十万円は誰の金だったのか」という問題を残したくなかった。


小さな金額のうちから分けておけばいい。


祖父母から支援を受けられる可能性はある。


前の人生の記憶では、教育についてなら助けてもらえるかもしれない。


でも、それを前提にはしない。


国公立大学、学生寮、奨学金、授業料の減免、アルバイト。その時点で使える制度を調べる。


助けてもらえたら使う。ただし、助けがなければ成立しない計画にはしない。


自立とは、誰の助けも借りないことではない。


何を受け取り、何のために使うのかを、自分で理解して決めることだと思う。


手続きについても同じだった。


今から二〇一二年の制度を覚える必要はない。制度は変わる。


大切なのは、分からなければ自分で調べ、役所や学校や銀行へ問い合わせられることだ。


親がやってくれないから何もできない。


その状態だけは避けたい。


そして、家族との関係について考えたところで、鉛筆が止まった。


十八歳で家を出る。


では、それまでの八年間をどう過ごすのか。


ずっと反抗することもできる。三十二歳までの記憶を使えば、親の言うことのおかしさを指摘できる場面もあるだろう。


でも、目的は親との議論に勝つことではない。


学校へ通い、身体を壊さず、大学へ進み、家を出ることだ。


なら、対立には意味があるかを考えた方がいい。


自分を守るために言う必要があるなら言う。


ただ相手を言い負かしたいだけなら、やらない。


正しいことを言えば、生活が良くなるとは限らない。


僕はノートに、


正しさより、出られる状態を守る。


と書いた。


それでも、前の人生の記憶だけで今の父や母を決めつけるのも違うと思った。


僕の知っている二人は、この先二十二年間を生きたあとの記憶だ。


今の二人は、まだそこへ向かう途中にいる。


僕が違う行動をすれば、関係が変わる可能性もある。


警戒はする。


でも、未来の記憶だけで今の相手に判決を下すことはしない。


その一文を書くのには、少し時間がかかった。


未来の記憶には、使いたいものだけでなく、思い出したくないものもある。


それでも、この八年間を過去への怒りだけで使いたくはなかった。


最後は健康だった。


家を出るには、生きてそこまでたどり着かなければならない。


受験、勉強、アルバイト、投資。その全部を優先して身体を壊せば、計画そのものが意味を失う。


だから、大学よりもBitcoinよりも先に置く。


十八歳まで、自分を壊さない。


睡眠をとる。食べる。身体を動かす。必要なら病院へ行く。


三十二歳の記憶があるからといって、十歳の身体まで三十二歳になったわけではない。


それは、もう分かっている。


ここまで考えてから、十八歳までの計画を書き直した。


一、十八歳まで自分を壊さない。

二、大学へ進める学力をつける。

三、自分で生活できるようになる。

四、進学を利用して家を出る。

五、生活を守った外側に投資資金を作る。

六、二〇一二年の現実を確認してからBitcoinを判断する。


最初は、「十八歳、十万円、Bitcoin」としか考えていなかった。


今は、その十万円より前に準備すべきことがいくつもある。


そして、もう一つ可能性があった。


高校の寮だ。


条件の合う高校があり、寮があって、費用も現実的で、進学先としても合理的なら、十五歳で家を出てもいい。


ただし、家を出るためだけに高校を選ぶつもりはない。


教育として良い選択なら寮へ行く。


そうでなければ、十八歳まで待つ。


僕は、


十五歳、寮は条件付き。

十八歳、大学進学で原則独立。


と書いた。


計画は出口を作るためにある。


出口を一つに決めるためではない。


その夜、布団に入ると、家の中の音が聞こえた。


今はここで暮らしている。


明日もここにいる。


来年も、たぶんいる。


十八歳まで八年。


長い。


Bitcoinまで八年。大学まで八年。


でも、その八年間を、ただ家を出る日まで耐える時間にはしたくなかった。


学校へ行く。本を読む。友達を作る。身体を動かす。できることを増やす。


そうやって生活した先に十八歳が来ればいい。


子供時代の全部を、脱出までの待合室にする必要はない。


僕は布団から起き上がり、ノートの最後に書いた。


十八歳は、脱出日ではない。


自分で生活を選び始める日。


親から離れるだけでは、自立にはならない。


家を出たあと、金がなく、生活もできず、進路も決められず、結局また誰かに全部を任せるなら、住む場所が変わっただけだ。


だから、八年間で準備する。


大学へ進める力。


一人で暮らす力。


金を管理する力。


必要なときに助けを求める力。


そして、自分で選び、その結果を引き受ける力。


Bitcoinは、そのあとでいい。


未来を知っていても、僕を一日で十八歳にしてはくれない。


八年という時間だけは、前と同じように、自分で生きるしかなかった。


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