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十歳からやり直して大富豪になるはずだった――未来のビットコインもAIも知っていた俺が、知らない明日を生きるまで  作者: 野狐禅


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7/10

十億円

僕はノートの真ん中に、その数字を書いた。


1,000,000,000。


十歳の僕には、まだ実感のない金額だった。家が何軒も買えるとか、一生働かなくても暮らせるとか、その程度の想像しかできない。


三十二歳まで生きた前の人生でも、そんな金を持ったことはなかった。


つまり、これは未来の記憶ではない。


目標だ。


僕は数字の横に「予言ではない」と書いた。


未来知識台帳を作ってから、覚えていること、推測したこと、自分で決めたことは分けるようにしている。十億円は、完全に三つ目だった。


では、なぜ十億円なのか。


考えてみると、欲しいのは金そのものではなかった。


働く場所を選べること。嫌な仕事を断れること。もう一度大学へ行きたければ行けること。研究したければ研究できること。失敗しても生活を立て直せること。


何より、自分の生活を他人に握られないこと。


一億円でも足りるかもしれないし、三億円でもいい。十億円に厳密な根拠はない。


僕はその下に書いた。


十億円=選択肢を失わないための金。


百億円や一千億円を目指してもきりがない。自分の時間と進路を自分で決められるなら、十億円という数字そのものに意味はなかった。


それでも、目標がないと計画は作れない。


僕は前に作った年表を開いた。


二〇一二年、Bitcoin。

二〇一三年、上昇。

二〇一四年、Mt.Gox後の下落。

二〇一五年、Ethereum。

二〇一七年、大幅上昇。

二〇二〇年、COVID後にNVIDIA。

二〇二六年、三十二歳。


ここまで並べると、簡単に金持ちになれるように見える。


もちろん、そんなはずはない。


覚えているのは、何が上がったかという大まかな流れだけだ。正確な価格も、最高値の日付も、税金も、取引所の事情も知らない。そもそも未来の記憶自体が完全ではない。


だから、これは売買計画ではない。


十億円に届く可能性があるかを確かめるための、粗い計算だった。


最初はBitcoinに十万円と考えた。


十八歳なら、そのくらいは用意できるかもしれない。大学生活を始め、学費と生活費を確保したうえで、自分で使える金を作る。


ただ、十万円に固定する理由もなかった。


二〇一二年の僕が二十万円を安全に使えるなら、二十万円でもいい。反対に十万円を使えば生活が危うくなるなら、五万円に減らすべきだ。


十歳の僕には、八年後の収入も生活費も分からない。


そこで書き直した。


二〇一二年。

Bitcoin。

投資可能資金の目安、最低十万円。

学費、生活費、予備資金は別に確保する。

実際の投資額は、その時点で決める。


今決めるべきなのは金額ではなく、原則だった。


借金して投資しない。学費や生活費を使わない。他人から用途を決めて渡された金には手をつけない。


その範囲で、未来の自分が判断する。


二〇一三年にBitcoinが大きく上がったことは覚えている。とりあえず十万円が百万円になると仮定した。


その後、下落したBitcoinを買い直し、二〇一五年にはEthereumへ移る。二〇一七年に大きく上がる。


最初に考えた金額は二千万円だった。


これも根拠は薄い。


だが、二十三歳で二千万円あれば大きい。それでも一生働かなくて済む金額ではないから、普通に勉強し、必要なら大学院へ行き、働ける能力も身につける。


未来知識が外れても、生きていけるようにしておく。


その先がNVIDIAだった。


二〇二〇年のコロナ後に株価が下がり、その後、AIとGPU需要で大きく上がった。


倍率は曖昧だ。


仮に、二千万円が五十倍になれば十億円になる。


紙の上では届く。


でも、綺麗すぎた。


税金も生活費も無視している。全額を一つの資産へ入れる前提にもなっている。買値も売値も分からない。


つまり、この計算から分かることは一つしかない。


三十二歳で十億円という目標は、完全な空想ではない。


それだけだった。


僕はノートに書いた。


二〇二六年。

三十二歳。

十億円。

目標。予言ではない。


そして、その下にもう一つ書く。


十億円に届かなくてもいい。


未来知識が使えなくなる可能性もある。


Bitcoinが記憶と違うかもしれない。Ethereumが大きく上がらないかもしれない。NVIDIAについても、僕の記憶が間違っているかもしれない。


その場合でも、大学へ行き、専門を身につけ、働けばいい。


未来知識が使えれば、投資は人生を大きく加速させる。


使えなくても、自分で生活できるようにする。


この二つは両立する。


僕はページの端に書いた。


十億円のために捨てないもの。


健康。

教育。

人間関係。

必要な経験。

生活。


少し考えて、最後に一つ加えた。


自分で考えること。


未来を知っているからといって、記憶の通りに買い、記憶の通りに売るだけでは駄目だった。


十八歳の僕には、十八歳の僕にしか見えない現実がある。


Bitcoinが記憶通りでも、危険だと思えば買わなくていい。十万円より多く投資できると判断すれば、増やしてもいい。


十歳の僕ができるのは、未来の自分に地図を残すことだけだ。


その地図を使うかどうかまで決める必要はない。


僕は最後に書いた。


三十二歳で十億円。


ただし、その時の僕がもっといい生き方を見つけていたら、この計画は捨てていい。


その下に、一行だけ足した。


目標より、自分の判断を優先する。


ノートを閉じた。


十億円は、まだ遠い。


Bitcoinすら存在していない。


僕はまだ十歳だった。


今やるべきなのは、二十二年先の売買を決めることではない。


二〇一二年になったとき、自分で判断できる状態を作っておくことだ。


未来を知っていることより、その未来に縛られないこと。


十億円という数字を書いたことで、ようやくそれが分かった。


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