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十歳からやり直して大富豪になるはずだった――未来のビットコインもAIも知っていた俺が、知らない明日を生きるまで  作者: 野狐禅


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18/19

友達

友達と遊ぶ時間は、投資にはならない。少なくとも、最初のころの僕はそう考えていた。

一時間遊んでも金は増えない。英単語も覚えないし、数学も進まない。コンピュータにも詳しくならない。十八歳で家を出るための準備が、その分だけ遅れる。

そう考えれば、かなり効率が悪い。

「今日、遊べる?」

学校から帰る途中で聞かれた。

「今日?」

「うん。あいつんちでゲームする」

僕は頭の中で予定を確認した。宿題、英語十五分、借りた本。時間があれば少し走る。今日中でなければ困るものはない。

「何時まで?」

「五時くらい」

今は三時半だった。一時間半あれば、本ならかなり読める。英語なら何日分にもなる。

そこまで考えてから答えた。

「行く」

「じゃあランドセル置いたら集合な」

家へ戻り、ランドセルを置いてから出かけた。友達の家にはすでに三人いて、ゲーム機の前に集まっている。

「遅い」

「まだ始めたばっかだろ」

「四人だから交代な」

「何やる?」

そこから一時間半、ほとんど何も生み出さなかった。

ゲームをして、負けて、文句を言う。順番を待ちながらお菓子を食べ、人の失敗を見て笑う。

「そこ違うって!」

「分かってる!」

「絶対分かってない」

「うるさい」

「貸せ」

「まだ俺の番」

くだらなかった。

でも、面白かった。

途中から、未来のことを考えていない自分に気づいた。ビットコインも大学も十億円も二〇二六年も忘れて、ただ自分の順番が来るのを待っていた。

五時前になり、そろそろ帰ると言った。

「早くない?」

「帰れって言われてる」

「もう一回だけ」

「一回だけな」

その一回で少し遅くなった。

家へ戻ると注意されたので、素直に謝った。自分の部屋で宿題を終え、英語を十五分だけやる。今日は走らず、本も寝る前に少し読むことにした。

全部やろうと思えばできたが、少し眠かった。

遊んだからだ。

机の前で、さっきの一時間半を考える。

将来の役には、たぶん直接は立たない。それでも、行かなければよかったとは思わなかった。

その事実だけで十分な気がした。

僕は以前、「未来のために削らないもの」の中に人間関係と書いた。でも、そのときは何を残せばいいのか、よく分かっていなかった。

たぶん、こういう時間なのだと思う。

誘われる。遊ぶ。くだらないことで笑う。また明日と別れる。

そこに将来の利益まで求める必要はない。

ノートを開き、「人間関係は必要になってから作れない」と書いた。

しかし、すぐに少し違うと思った。

大人になってからでも友達はできる。大学でも仕事でも、新しく人と知り合うことはある。

問題は、必要だから友達を作る、という発想そのものだった。

困ったとき助けてもらうため。仕事につなげるため。情報を得るため。それだけを目的に人へ近づけば、人間関係というより取引に近くなる。

僕はさっきの一文を消した。

代わりに書く。

人間関係を全部、目的で選ばない。

翌日、昨日一緒に遊んだ子からまた誘われた。

「今日も来る?」

「今日は行かない」

「何で?」

「図書室行く」

「本よりゲームだろ」

「昨日やったじゃん」

「毎日やるもんだろ」

「僕は毎日いい」

「真面目か」

昨日は行った。今日は断った。

それで何かが壊れるわけでもなかった。

友達を大事にすることと、全部の誘いに応じることは違う。相手に合わせ続けたら、それはそれで自分の時間がなくなる。

その日は図書室へ行った。

借りていた本を返していると、同級生が寄ってきた。

「何か面白いのある?」

「どんなの?」

「怖いやつ」

「どのくらい?」

「めっちゃ怖いやつ」

「夜トイレ行けなくなっても知らないよ」

「それは困る」

「じゃあ少し怖いやつ」

棚から一冊選んで渡す。

「これ?」

「たぶん」

「お前のたぶん、信用できない」

「じゃあ自分で選べば」

「借りる」

「借りるんだ」

僕は笑った。

友達と一言で呼んでも、関係はそれぞれ違う。一緒にゲームをする相手もいれば、本の話をする相手もいる。走るときだけ一緒になる子もいれば、授業中に少し話すだけの子もいる。

全員と親しくなる必要はない。

でも、全員を将来の価値で分類する必要もなかった。

未来知識台帳には、信頼度や利用価値を書く欄がある。同じことを人間にやったところを想像すると、ひどく嫌な感じがした。

仕事なら、相手によって距離を考えることもあるだろう。信用できるかどうかを判断する必要もある。

それでも、十歳の今から全員を役に立つかどうかで分けたくはなかった。

遊びたければ遊ぶ。話したければ話す。嫌なら距離を取る。

そのくらいでいい。

しばらくして、その本を借りた子が休み時間に文句を言ってきた。

「お前、怖くないって言ったのに怖かった」

「怖くないとは言ってない。少し怖いって言った」

「昨日寝られなかった」

「知らないよ」

「もうおすすめ信用しない」

「別にいいよ」

周りも笑っていたし、本人も本気で怒っているようには見えなかった。

ところが放課後になると、また図書室へ来た。

「次、何読む?」

「信用しないんじゃなかったの?」

「あれは怖いやつだから」

「今度は?」

「面白いやつ」

「全部面白いと思って薦めてるんだけど」

「じゃあ怖くない面白いやつ」

「注文多いな」

僕はまた棚を探した。

人は昨日と言っていることが違う。

怒ったと言いながら翌日には普通に話すし、嫌だと言いながらまた同じものを頼む。

未来知識なら、予測が外れれば信頼度を下げればいい。でも、人間を同じようには扱えない。

僕自身だって、数か月前とは考えていることが違う。十億円だけを見ていたころから、ずいぶん変わった。

人は台帳ではない。

それだけ覚えておけばいいと思った。

ある日、授業で四人組を作ることになった。

「好きな人同士で組んでください」

先生が言うと、教室がすぐに動き始めた。

こういう時間は少し苦手だった。自分から声をかけるべきか、それとも待つべきか。三十二歳まで生きた記憶があっても、この手の判断が得意になった覚えはない。

「一緒やろ」

後ろから声をかけられた。

何度か一緒に遊んだ子だった。

「いいよ」

そこへ二人加わり、すぐ四人になった。

ほんの数十秒だった。

それでも少し嬉しかった。

以前、一人だけ余ったときは妙に傷ついた。誰かに選ばれることが人間の価値ではないと分かっていても、「一緒やろ」と言われれば嬉しい。

その感情まで、将来の効用に変換する必要はなかった。

嬉しいから嬉しい。

それでいい。

家へ帰ってから、十八歳の生活を想像してみた。

大学へ行き、一人で暮らす。勉強して、アルバイトをして、英語を続け、必要なら投資について調べる。

一人の方が予定は立てやすい。誰かに合わせなくていいし、未来知識を隠すという意味でも安全かもしれない。

でも、そのままずっと一人で完結する生活を続けたら、人と付き合うことそのものを避けるようになる気がした。

三十二歳の記憶があるから必要ない、とは思えない。

友達になる。誘う。断る。断られる。喧嘩する。謝る。一緒に何かをする。

こういうことは、本を読んでも身につかない。

僕は十八歳までに身につけるものの「人と付き合う経験」の横に、一文だけ足した。

一人で完結しない。

その週末、今度は僕から声をかけてみた。

「今日、遊べる?」

「いいよ」

返事はあっさりしていた。

「何する?」

「まだ決めてない」

「決めてないのに誘ったの?」

「遊べるか先に聞いただけ」

「じゃあゲーム」

「また?」

「嫌なら外」

「外行くか」

何人か集まり、結局ボールを持って公園へ行った。

途中で飽きて、座って話す。誰かがお菓子を買ったので、僕も百円だけ使った。

以前なら、この百円を八年間貯めたらいくらになるかと考えたかもしれない。

今は考えなかった。

遊ぶ日に百円使うことと、十八歳で投資資金を用意することは両立できる。十歳の百円玉を全部守らなければ成立しない計画なら、そもそも計画の方に無理がある。

夕方、公園を出る。

「またな」

「また」

「明日は?」

「図書室」

「お前ほんと本好きだな」

「うん」

今度は迷わず答えた。

その夜、ノートを開いた。

人間関係。

何度も書いてきた言葉だった。

その下に三つだけ残す。

金にならなくても切らない。

嫌なら断る。

自分からも誘う。

友達の人数に目標はいらない。完全に孤立しないように、自分から全部閉じなければそれでいい。

未来知識には、大きな欠点がある。

そこに載っているのは、一度目の人生で僕が知ったものだけだ。

これから新しく出会う人は載っていない。大学の同級生も、仕事で会う人も、その先で親しくなる誰かも知らない。

ビットコインより、イーサリアムより、エヌビディアより、ずっと予測できない。

でも、不確実だからと避け続けたら、僕は一度目の人生で知っているものしか選べなくなる。

それでは、二回目の人生ではない。

一回目の人生の再放送だ。

僕はノートの最後に書いた。

知らない人に会う。それを恐れすぎない。

未来知識は、友達について何も教えてくれない。いつ仲良くなるかも、いつ喧嘩するかも、何年後まで付き合っているかも分からない。

だから、付き合ってみるしかない。

翌日、学校へ行くと声をかけられた。

「昨日どうだった?」

「普通」

「何した?」

「公園」

「呼べよ」

「次来る?」

「行く」

未来知識台帳には書かない約束が、また一つ増えた。

何年後まで覚えているかも、何かの役に立つかも分からない。

それでも、そのくらいの予定がある方が、明日は少し楽しみだった。


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