8.生き霊がいる!
町長の家のリビングルームで、私と町長とケビンとスカーレットは侯爵子息様を見つめていた。
侯爵子息様は口元を押さえて笑っている。
すると、私の中のジュリー様が「あそこに誰かいるわ!」と言った。
私は目線を侯爵子息様から部屋の隅に移した。
なんとそこには薄く透けた若い女性の霊がいるではないか!
いや、あれは、死んだ人ではない?
生き霊だ!
この世界に来て、初めて生き霊を視た!!
「生き霊?」
ジュリー様が私に尋ねる。
「はい。生きている人が飛ばしている念のようなものです」
私はつい、声に出して答えていた。
町長とケビンとスカーレットは「は?」という表情をしたが、侯爵子息様は目線を部屋の隅に移して「へぇ……」と目を見開いた。
「どうやら、スカーレットさんは、ココさんではない別の誰かに恨まれているようですね」
侯爵子息様は壁際から離れて、ローテーブルの呪いの手紙を手に取る。
「同じ気を感じますね。もしかして、ココさんは彼女とも話せるのですか?」
侯爵子息様は私を見つめる。
おそらく話せるけど、それを言ったら、私の霊感を死ぬまで隠し通す計画が……!
「隠し通すのは、もう無理ですわよ?」
ジュリー様が私の中でクスクスと笑う。
確かにね。
ジュリー様はともかく、侯爵子息様には完全にバレてしまっている。
私は仕方なく「念話」を試みた。
これなら声を出さずに済むからだ。
「ちょっと、何なの!? 私は誰にも恨まれてないわ!!」
「スカーレット! 侯爵子息様に意見をするんじゃない!」
スカーレットの口を町長が慌てて手で塞ぐ。
「あの、スカーレットさん。ローリエさんのことはご存知ですか?」
私はスカーレットに尋ねた。
生き霊の名前はローリエ。
どうやら彼氏をスカーレットに寝取られたようだ。
私と全く同じである。
「え? ローリエは私の友だちよ?」
「ええっ? 友だちの彼氏を寝取ったんですか!?」
言ってしまって、私は自分の口を慌てて塞いだ。
スカーレットは案の定、顔を真っ赤にした。
「な、な、な、ね、ねとってなんて、な、ない……」
「嘘ですね」
侯爵子息様はサラッと言う。
うん。でもこれは侯爵子息様でなくても分かる。
「ど、どういうことだ!? スカーレット、他にも男が……」
ケビンがスカーレットの両肩に手を置いた。
「ち、違うわ! 他の男なんていないわ!」
「あ、8ヶ月前にもう別れているみたい」
私はフォローのつもりで、生き霊から聞いた話をケビンに伝える。
しかし、ケビンは青ざめた。
「は、8ヶ月前って、俺ともう……。ま、まさか、そのお腹の子は……」
「ち、ちが、こ、この子は、ケビンとの……」
スカーレットはしどろもどろになる。
「ああ、どちらの子か分からないのですね」
侯爵子息様は、またもやサラッと言う。
それ言っちゃダメなヤツ!!
私が心の中で突っ込むと、ジュリー様が「言ってもいいんじゃないですか?」と笑う。
町長が青ざめて膝をつき、スカーレットが「だって仕方ないじゃない!」とわあわあ泣き出す。
まさに地獄絵図……!
すると、ケビンが私の腕を掴んだ。
「ココ! 俺とやりなお……」
「その手を離しなさい!」
私が言葉を発する前に、侯爵子息様がケビンを一喝した。
ケビンは驚いた顔をして、パッと手を離す。
侯爵子息様は、私の肩をぐいっと抱き寄せた。
私は侯爵子息様の胸にポスッとおさまる。
「残念ですが、ココさんはすでに私のものなのです。この場に私たちはもう不要でしょう。あとはご家族で話し合ってください」
侯爵子息様は冷たい眼差しでケビンに言うと、私の肩を抱いたまま歩き出した。
私は思考が停止したまま、右足と左足をなんとか交互に出していた。
私のものって、どういう意味!?
まさか、私にも王道展開がきた!?




