7.村娘SSRで決着をつけます
私は町の「ヘアメイク兼服飾小物」を扱うお店にいた。
正しくは、ジュリー様である私の体と、ニール・コイラーン侯爵子息様がそのお店にいた、である。
私は朝起きてから一度も意識を外には出していないのだ。
正直、こんなに長い時間、霊を体に降霊させるのは前世でもしたことがない。
しかし、全く異常は感じられない。
ジュリー様との相性が良すぎるのだろうか。
私(ジュリー様)は、くるくると着替えをし、テキパキと指示を出しながらメイクをし、茶色の髪を整えていく。
すると、なんということでしょう!
鏡に映った私は、村娘Bではなく、村娘SSRに変身していたのです!
光を反射しなかった茶色の髪は香油により艶やかに光り、重ための一重まぶたは、アイプチのようなメイク技術でパッチリとした瞳に生まれ変わり、一張羅だったベージュのワンピースから上等な生地の淡いグリーンのワンピースに着替え、履き潰したペタンコの靴はグリーンのパンプスに変わっていたのです!
「ほら、ココさん、とてもお綺麗ですわ!」
「元は良いですからね。でも想像以上です」
ジュリー様と侯爵子息様が褒めてくれる。
う、嘘でしょ!?
顔は平凡なんだなぁと諦めていたのに、実は結構可愛かったの!?
誰からも可愛いなんて言われたことがなかったから、全く気が付かなかった!
「あら、元婚約者さんは『可愛い』と言ってくれませんでしたの?」
ジュリー様が私に向かって話しかける。
はい! 言われたことありません!
「あらまあ、サボっていた上に浮気ですか。ココさん、これは別れて良かったと言わざるを得ませんわ」
別れて良かった?
そんな風に考えたことはなかった。
ケビンは見目がいいのに私はイマイチだから仕方ない、と思っていた。
「ココさん、今から町長の家に行きますが、どうしますか? お母様に任せますか? それともあなた自身が決着をつけますか?」
侯爵子息様は、意地の悪い顔をしている。
そうだ。
これは、私自身の問題だった。
ケビンに浮気されて婚約破棄された上、その浮気相手の女に陥れられているのだ。
私の意思を汲み取ったジュリー様が、スッと私の中に引っ込んでいく。
「私、自分で決着をつけます!」
私は侯爵子息様を真っ直ぐ見つめて宣言をした。
人間って、見た目に自信があると、強気になるらしい。
実は中身が何も変わっていないのに、私は何故か自信満々で町長の家に来てしまっていた。
そして、そのハリボテの自信が、ペリペリと剥がれ落ちているところだった。
町長の家のリビングルーム。
40代の太ったオッサン(町長)と赤毛でツリ目の臨月の町娘S、3年間婚約者だった長身イケメンのケビンの3人と私は対峙していた。
「あの、何故、侯爵子息様がこの女と一緒にいるのですか?」
町長はおずおずと壁際に立つ侯爵子息様に尋ねる。
「こういった話し合いは、第三者がいた方が良いのですよ。なに、私のことは気にしないでください。どちらの味方でもありません」
侯爵子息様の言葉に、町長と町娘Sは顔を見合わせる。
気にしないでと言われても、領主様のご子息だし、気になるに決まっている。
というか、私の味方ではないらしい。
そりゃ、そうか。
侯爵子息様と私には何の関係もない。
私の中のジュリー様が、「私はココさんの味方ですよ!」と励ましてくれている。
「ですが、一つ言っておきます。私は生まれつきとても勘が鋭いのです。嘘偽りはすぐに分かりますので、双方事実を話してくださいね」
「も、もちろんです」
町長は真剣な表情で頷く。
「私もです」
私も頷いた。
「生まれつき勘が鋭い」は、きっと本当だろう。
霊感が強い人は勘も鋭いことが多い。
ちなみに私は、霊感が無駄に強すぎて、勘が鈍いデコボコタイプである。
「ここは私の家ですので、私からその娘の悪行を話しますね」
町長はニヤリと笑う。
先手をとられてしまった!
私は侯爵子息様をチラリと見たが、侯爵子息様は何も言わない。
本当にどちらの味方でもないようだ。
町長はリビングルームのローテーブルに、手紙をバラバラと置いた。
「これらが、その娘が送り付けてきた『呪いの手紙』です!」
手紙は全部で5通あった。
もちろん、私はこんなもの知らない。
「私はこんな手紙は知りません!」
「しらばっくれるな!」
町長は私を睨むと手紙を広げて私に見せた。
その筆跡は明らかに私ではない。
手紙の内容は……
「男を寝取る悪女のスカーレット様。これは呪いの手紙です。3日以内にこの手紙と同じ内容を5人に送らなければ、あなたは呪われるでしょう……って、コレ、『呪いの手紙』ですね!」
私は感心したように言う。
コレは前世で流行ったイタズラの手紙である。
もちろんかなりタチの悪いイタズラである。
「何を言うか! お前がスカーレットに送ったのだろう!」
町長はツバを飛ばしながら叫ぶ。
「いいえ。この字は私の字ではありません。それに、スカーレットさんのお名前を今初めて知りました」
私は全ての手紙に目を通す。
筆跡は全て同じで、全て同じ文章だ。
私はケビンに手紙を見せた。
「ケビンなら分かるでしょ? 私の字じゃないわ」
私はケビンによく手紙を書いていた。
ケビンもちゃんと返事をくれたのだ。
「あ……! 本当だ!」
「ちょっと!!」
スカーレットが私とケビンの間にずいっと入る。
「私のケビンに色目を使わないでちょうだい! このドロボウネコが!!」
いやいや、ドロボウネコはあなたでしょう!?
「おい、スカーレット……」
「なによ! ケビンは黙っていて! とにかく犯人はこの女なの!」
スカーレットはビシッと私を指差した。
侯爵子息様が言ったとおり、かなり短絡的な女性のようだ。
「違いますよ。それに私、この家に来たのも初めてです」
「嘘よ! 私に悪口を言いに何回も来たじゃない!」
「来てません!」
すると侯爵子息様がクスクスと笑い出した。
私とスカーレットは言い合うのをやめて侯爵子息様を見る。
「ああ、すみません。どちらも嘘をついていないので、おかしくって……!」
『ええっ!?』
私とスカーレットと町長とケビンの言葉が重なった。
どういうこと!?
じゃあ犯人は別にいるの!?




