79.ジュリー様との別れ
クレアール公爵夫妻と無事に関係を修復できたガーデンパーティー後は、忙しさでめまぐるしく月日が流れていった。
コイラーン侯爵様は陞爵してコイラーン公爵となり、ニール様は公爵子息となっていた。
侍女である母は無事に元気な男の子を出産し、赤ちゃんと共に素早く仕事に復帰していた。
赤ちゃんを通じて、母と師匠は少し仲良くなったように見えた……気がする。
婚約祝いガーデンパーティーから5ヶ月後、私が18歳、ニール様が26歳の時に、私とニール様は王都の教会で結婚式を挙げた。
純白のウェディングドレスを纏い、ニール様の隣で誓いの言葉を述べて、私たちは夫婦になった。
私は、15回の執念の転生を経て、とうとう念願の「素敵な男性との結婚」を叶えたのである。
結婚式だった今日は、とても素晴らしい日だった。
でも、悲しい日でもある。
そう、ジュリー様とのお別れの日だからだ。
王都での結婚式終了後、コイラーン公爵家の面々は早々に領地のお屋敷に戻ってきていた。
やはり、思い出の多い自宅でお別れがしたかった。
お義父様(コイラーン公爵)の執務室のソファに、お義父様とニール様と私(ジュリー様)が座っているのだが……
「……あの、ずずっ、ココさん、泣きすぎですわ」
私(ジュリー様)はボロボロと大粒の涙を流し鼻をすすりながら、私の中の私に言う。
「泣いているご自身に泣きすぎと言う異様な光景ですね」
ニール様の言葉に、お義父様は苦笑して頷く。
「旦那様、ずびっ、ニール、ずずっ、今までありがとう、ぐすっ、ございます」
鼻水と涙をハンカチで押さえながら、私(ジュリー様)は必死にお礼の言葉を述べる。
「あ、ああ。いや、無理に話さなくても……」
「もう! ずずーっ! これは、ココさんなんです!」
お義父様に私(ジュリー様)は手をぶんぶんと振りながら叫ぶ。
「お母様、お父様と私はすでに一度お別れを済ませていますので、先にココと話してあげてくれませんか?」
ニール様は追加のハンカチを私(ジュリー様)に渡しながら言う。
私(ジュリー様)は頷くと目をつむった。
(ココさん、泣きすぎて上手く話せないので心の中で言いますわね。ココさんと出会えて、わたくしは毎日とても楽しかったのです。少し距離を置いていたシスネロス家とも、もう一度繋がることが出来ました。全てのことに、本当に心から感謝しております)
はい、私も、私も楽しくて、本当に、ジュリー様に感謝しています……!
(死んでしまったことは今でも悔やまれますが、ココさんをコイラーン家に導けたことは、わたくしの偉業ですわ)
い、偉業なんて、恐れ多いです!
(コイラーン家は公爵となり、のちに女主人となるココさんには苦労をおかけしますが、旦那様やニールとよく相談して、より良くしていけるとわたくしは確信しております)
うぐっ、がんばります……!
(あ、あと、昇天しないように気を付けてくださいね!)
早速今夜ヤバイですぅー!
(ええっ! そ、そうですわね、心の中でシスネロス歴代当主の名前を順番に唱えてください!)
わーん! 全く覚えてないですー!
しかもその手法は中学生男子が使うやつですー!
(ええ、もう、中学生男子って誰ですか……っ)
私(ジュリー様)はぷふっと吹き出して目を開けた。
「少し涙が止まったかな? ジュリー、話してもいいか?」
お義父様が私(ジュリー様)を見つめる。
「はい。旦那様……」
「私にはニールやココさんのようにジュリーの姿は見えないが、『転生』というものがあるということは分かったよ」
「……はい。わたくしにも分かりました」
「だからジュリー、君さえ良ければなんだが、次の人生も私と一緒になってほしいんだよ」
お義父様の言葉に、私(ジュリー様)の瞳から再び涙があふれ出した。
「はい、はい。わたくし、また、おしかけますわ! また一緒になりましょう……」
お義父様は手に持っていたハンカチで私(ジュリー様)の涙を拭った。
「これはまた、ココさんかな?」
「もう、旦那様! これはわたくしの涙ですわ!」
私(ジュリー様)は怒ったように笑っていた。
確かにその涙は、ジュリー様の涙だったけど、でも、私も再び泣いていたのは言うまでもない。
「お母様、後のことは何も心配なさらないでください。お父様もココも私が慰めます」
ニール様が笑顔で私(ジュリー様)に言う。
「な!? 私はニールに慰めてもらう必要は……」
「はい。お願いしますわ」
お義父様の言葉を遮って、私(ジュリー様)がほほ笑む。
ジュリー様、ニール様は、私が慰めます!
私の心の中の声に、ジュリー様は(はい、お願いしますね)と笑った。
ジュリー様は、静かに天に召された。
私たちは、ただ静かに、手を胸の前で合わせて祈りを捧げた。
ジュリー様の次の人生が、幸せでありますようにと……。




