78.シンディ様
コイラーン侯爵家の庭園にあるガゼボの中で、私とシンディ様は向かい合って座っていた。
婚約祝いガーデンパーティーの最中に公式で座れるなんて、シンディ様に感謝である。
「もう、ココさんは相変わらず素直ですね」
私の中のジュリー様がふふっと笑っている。
師匠と母がお料理と飲み物を運び、ささっとガゼボから退出する。
ガゼボの外で師匠の「大丈夫ですか?」と母を労る声が聞こえるが、母は「何がですか?」と答えている。
あの2人、息はピッタリなのに何故かすれ違っている……
「あ、あの、シスネロス公爵令嬢は、『降霊術師のココさん』ですよね?」
シンディ様が、意を決したように私に尋ねる。
私はハッとなる。
師匠と母を気にしている場合ではなかった。
「はい。あの時は不躾に申し訳ございませんでした」
私は頭を下げる。
淑女教育を受けたから分かる。
私は平民だったのに、堂々と公爵夫人に意見をするという不敬を犯していたのだ。
「いいえ、いいえ。実はわたくし、ココさんにもう一度お会いしたかったのです。でもモンサリー先生に尋ねても辞めたとおっしゃるだけですし、コイラーン侯爵家に手紙を出すわけにもいかず……」
シンディ様は目を伏せる。
え? 私に会いたいなんて、稀有な方だな。
まさか、苦情!?
私の中のジュリー様が「ココさん、違いますわよ!」と訴えてくる。
ジュリー様の声を聞いて、私は「あ、ジュリー様にお会いしたかったのですね!」と言い、瞬時にジュリー様と交代した。
「ああ、ジュリー様……」
シンディ様は私(ジュリー様)を見て、オロオロとする。
「すみません、ココさんはちょっと早とちりなんですよ……」
私(ジュリー様)は困ったように笑う。
「いえ、ジュリー様にもお会いしたかったので……」
「わたくしもです。シンディ、元気になって本当に良かったですわ。赤ちゃんも……」
私(ジュリー様)がシンディ様のお腹に視線を移すと、シンディ様はお腹をそっと手で押さえた。
「わたくし、ニール様との婚約破棄の件で、ジュリー様とココさんに言われたとおり自分を責めないようにしていましたら、本当にいろいろなことに気が付いたのです。ニール様の真意や、わたくしに助言という名の悪意の言葉を伝えてきたご令嬢たちの気持ち、旦那様の優しさと嫉妬にも……」
「あら、クレアール公爵は嫉妬深いのかしら?」
私(ジュリー様)はウフフとほほ笑む。
「大きな声では言えませんが、わたくしが他の男性を褒めますと、まるで子どものように拗ねるのです」
シンディ様は困ったような表情で顔を赤らめる。
クレアール公爵夫妻はおしどり夫婦のようだ。
なんだか、幸せそうで良かった。
「あらまあ! でもニールも結構嫉妬深いところがありますわ。ちょっとココさんに代わりますね」
ジュリー様はすっと私の中に引っ込む。
「ええっ? ニール様は意地悪ですが嫉妬深くはないですよ!」
私は突然交代されて、つい大きな声を上げる。
「え? ニール様は意地悪でしょうか?」
シンディ様は首を傾げている。
「あ、はい。クレアール公爵夫人にはお優しかったと思いますが、ニール様は性格が悪……少々ひねくれているのですよ。わたくしなどいつもからかわれておりまして、何故からかうのかとお聞きしましたら、一日一回わたくしをからかうことを日課にしているのです、と平然と答えるという……」
私がスラスラとニール様のひねくれっぷりを話していると、シンディ様はクスクスと笑い出した。
「あ、申し訳ありません。クレアール公爵夫人にこんな話……」
「いえ、あの、シンディと呼んでいただけませんか? わたくしたち、お友だちになれそうな気がしますわ」
私は顔を輝かせた。
心の中ですでに「シンディ様」とお呼びしていたので、「クレアール公爵夫人」がとても言いにくかったのである。
「ありがとうございます、シンディ様。わたくしのこともココで……」
「ああ、わたくしったら、すでにココさんとお呼びしていましたわ!」
シンディ様は楽しそうにコロコロと笑っている。
ニール様、女性を見る目があるなぁ。
こんな素敵な女性、あまりいないよ。
クレアール公爵が嫉妬男になるのも分かるなぁ……。
「ココさんも素直で素敵な女性ですわよ!」
私の中のジュリー様がそう伝えてくれて、私は自然とほほ笑んだ。
貴族のお付き合いでお友だちなんて出来ないと思っていたけど、シンディ様とはちゃんとお友だちになれそうな気がする。
「シンディ様、どうぞ召し上がってください。わたくしのオススメはほうれん草のキッシュです!」
ちなみにキッシュにほうれん草を使うよう料理人に勧めたのは私である。
私は前世、カフェのキッチンで働いていたこともあるのだ。
とはいえ素人なので、普段は料理人に口出しなどしないのだが、妊娠中といえばやはり鉄分が大事である。
「ほうれん草をサラダではなくキッシュに使用するなんて珍しいですね……まあ、美味しい! 苦味もなくトロトロですわ!」
「ん! 本当に美味しいです! ベーコンの塩気もちょうど良いですね!」
シンディ様と私は、キッシュ以外のお料理もパクパクと平らげる。
しばらくして、シンディ様と私を迎えに来たクレアール公爵と侯爵様は、婚約祝いガーデンパーティー(立食)で堂々と座ってかなりの量を食べ続ける貴族女性の2人を見て、言葉を失っていた。
ニール様だけが、「やっぱり妬けるくらい仲良くなりましたね」とほほ笑んでいた。




