77.ガーデンパーティー当日
婚約祝いガーデンパーティーの当日に、嬉しい知らせが舞い込んできた。
「リリアンさんが無事に女の子を出産したそうです」
私の準備を侍女見習いのサーラさんとメイドさんたちに任せてどこかに行っていた母が、私の部屋に戻ってくるなり私にそう伝えた。
「え! 本当に? やったぁ! 会いに行きたいよ!」
私は白いドレスを着せられながら、興奮して叫ぶ。
「そうおっしゃると思いまして、すでにスターツリー商会に打診しております」
母は手に持っていたアクセサリーの箱を開けながら言う。
うーん、出来る侍女すぎる。
「師匠はとうとうおじいちゃんだね。今日から『おじいちゃん』って呼ぼうかな……」
私の言葉に、サーラさんとメイドさんたちがギョッとしている。
そう、師匠は割と怖くて恐れられている執事(上司)で、私のことでイライラする度に使用人たちが八つ当たりという被害を受けているのだ。
「それはやめた方がいいですね。使用人たちが可哀想です」
母は淡々と言う。
サーラさんとメイドさんたちは、その言葉にも複雑な表情をしている。
そう、師匠の奥様であるはずの母が、全然、全く、師匠に興味がないので、それはそれで師匠の機嫌が悪いのだ。
「困った母子ですこと……」
サーラさんが私の部屋着を片付けながらポソっと呟く。
「サーラさん、私はある程度師匠が怒ると分かった上でやっていますが、母の場合は天然ですよ」
私の言葉に「分かっているならやらないで下さい!」とサーラさんとメイドさんたちは声を上げる。
「ココお嬢様、こちら先程スターツリー商会の方が届けてくださったアクセサリーです」
母の中では師匠の話は終了したらしく、私に届いたばかりのアクセサリーを見せる。
「え? あ、これ……!」
箱の中に入っているネックレスとイヤリングは、金のチェーンと金の金具で緑の石があしらってある。
私の左手薬指の指輪と同じデザインである。
「指輪とお揃いですね! 本日の白いドレスはシンプルすぎると思っておりましたが、これなら映えますね!」
サーラさんが目を輝かせている。
「ココがその指輪を気に入っていたから、急ぎお揃いを注文したそうよ。スターツリー商会の方が息を切らしていたわ」
母がニヤッと笑う。
「ニール様……」
私はネックレスを手に取り、ギュッと胸に当てた。
どうしてこんな嬉しいことをしてくれるのだろう。
十分、大切にしてもらっているのに、なんてお礼をしたらいいのだろう。
私の瞳にじんわり涙が浮かぶ……
「あ、ココ、泣かないで。メイクがとれるから面倒だわ」
「あ、はい」
女版師匠の母が、私の感動の時間をバッサリ終わらせたのだった。
本日の婚約祝いガーデンパーティーは、その名の通り、コイラーン侯爵家の庭園で行われる立食パーティーである。
造園を行った庭園に、白いテーブルと椅子が並べられ、お料理と飲み物が次々と運ばれる。
女性の使用人が増えたこともあり、師匠の指示で準備は遅れることなく進んでいる。
今日孫が誕生したというのに、感情に全く出ないところがさすが師匠である。
立食パーティーは交流がメインとなる。
つまり、私とニール様は、来客全員と交流を図らなければならない。
パーティーというより、仕事である。
というか、貴族の仕事はこればかりである。
私はグレーのスーツのニール様の腕に手を添えて、侯爵様と共に挨拶をしてまわる。
霊体のジュリー様も侯爵様の肩で誰にも見えないながらも軽く頭を下げている。
「コイラーン侯爵、お久しぶりです」
侯爵様を呼び止めたその声の主は、長身で明るい茶色の髪と瞳の40歳くらいの紳士だった。
隣にいる女性は腰までの金髪を緩くまとめた蒼い瞳の超美人で、お腹が隠れるゆったりとしたえんじ色のドレスを着ている。
クレアール公爵とシンディ様だ!
シンディ様は霊体のジュリー様をぼんやり感じ取れるようで、侯爵様の肩をじっと見つめた後、ハッとなり目を伏せる。
「お久しぶりです、クレアール公爵。本日は愚息のために御足労いただき誠にありがとう存じます」
「いえ、こちらこそ長らく申し訳ありません。ニール殿も、その、申し訳ないことを……」
クレアール公爵は目を伏せて言葉を濁らせる。
「私の方こそ、大変申し訳ございません。本日はお越しいただき、本当にありがとうございます」
ニール様が頭を下げるのと同時に私も頭を下げる。
「ああ、こちらが婚約者の方ですか」
「はい。隣国のアシュリー・シスネロス宰相の娘のココ・シスネロス公爵令嬢です」
紹介された私は、「ココ・シスネロスと申します」と丁寧にカーテシーをする。
するとシンディ様が「あ……」と小声で呟いた。
髪色も雰囲気もかなり違うのに、シンディ様には私が以前会った「降霊術師のココ」だと分かるようだ。
クレアール公爵はシンディ様の呟きに気付かなかったようで、自身が挨拶をした後にシンディ様を紹介してくれた。
「あ、あの、旦那様。わたくしシスネロス公爵令嬢とお話がしたいですわ」
シンディ様は遠慮がちに言うと、クレアール公爵を見つめる。
「え? ああ、私は構わないがご令嬢は……」
「恐れながら、わたくしもクレアール公爵夫人様とお話をしたく存じます」
私は侯爵様とニール様を見る。
「公爵夫人様は御休憩された方がよろしいでしょう。ぜひあちらのガゼボをお使いください。お料理と飲み物を運ばせます」
侯爵様はほほ笑むと手を挙げて師匠を呼んだ。
侯爵様とニール様と、心配そうなクレアール公爵を残して、私とシンディ様は師匠の後に続く。
霊体のジュリー様はふわりと私の横に来ると「ココさん、入ってもいいですか?」とほほ笑む。
私は「もちろんです」と念話で答えてほほ笑む。
シンディ様はその様子を見て「やっぱり……」とほほ笑んだ。




