74.アシュリー様の謝罪
私のデビュタントのために王都の王城へ向かった私とニール様と侯爵様と侯爵様の肩に憑いているジュリー様は、アシュリー・シスネロス宰相と王城の前で落ち合っていた。
今日のアシュリー様はグレーのスーツでかなり様になっている。
侯爵様と並ぶとイケオジが二人でなかなか見目が良い。
侯爵様とアシュリー様の後妻の座争奪戦(?)が起きてもおかしくはない。
ひと通り挨拶を済ませた後、私はアシュリー様の腕にそっと手を添える。
「アシュリー様、本日はよろしくお願いいたします」
私の言葉に、アシュリー様は表情を曇らせる。
「……今日は『お父様』と呼ぶように……」
アシュリー様がボソボソと小声で言う。
そんなに嫌そうに言わなくても……と、私の胸がチクリと痛む。
「……承知しました」
私は前を見据えて何とか答える。
母は「お父さん」を4人足せば良いなどと言っていたが、師匠もアシュリー様もマイナスなのだから、侯爵様と神官長に少し愛情があったとしても差し引いてゼロになってしまう。
まあいいか、「お父さん」なんて。
そもそもずっといなかったのだから、必要ない。
「ココさん……」
ジュリー様の心配そうな呟きに、ニール様が「大丈夫ですよ」と言っていたが、私とアシュリー様には聞こえていなかった。
きらびやかな王城のホールに入ると、私とアシュリー様に一斉に注目が集まった。
「おい、あれ、隣国のアシュリー・シスネロス宰相だ!」
「娘がもう一人いてこの国でデビューさせるという噂は本当だったのか?」
「よく似ているではないか! 本当の親子に間違いない。今のうちに……」
周りの貴族たちの話し声を聞いて、私は「なるほどね!」と納得していた。
この国と隣国は、国土も国力も同じくらいなのだ。
同等の国同士で争うことは損失が大きいため薄いお付き合いをしているが、あわよくば隣国の有力貴族と手を組みたい諸侯は多い。
そして、アシュリー様は隣国の宰相だ。
そりゃあみんな近づきたいに決まっている。
ジュリー様たちは、私の立場が社交界で弱くならないようにアシュリー様を呼んでくれたのだ。
「お父さん」などと狭い視野でいじけていた自分が恥ずかしい。
アシュリー様にも恥をかかせないように、ちゃんとしなくては。
音楽が響き渡り、私はファーストダンスをアシュリー様と踊った。
練習もたくさんやったし大丈夫。
ステップを間違えないように……。
私が必死に踊っていると、「ココ」とアシュリー様が小声で話しかけてきた。
正直話す余裕なんてないが、私は「はい」と顔を上げた。
「すまなかった。ココを邪魔に思っていたわけじゃないんだ」
「……え?」
何の話?
というか、ダンス中に話は無理!
「お母様の前でココをどう扱っていいか分からなかった。逃げるようにジュリーとばかり話してしまった。私はお母様とココが普通に話していたから、このままでも良いかと勝手に納得していたんだよ。ロミオ殿とニール君からココが傷付いていたと聞いて……」
んん?
私はアシュリー様にくるりと回される。
回ったことで、さらに何の話かよく分からなくなり、足がもつれる。
「母子家庭で、平民の村暮らしで、毎日畑仕事で、婚約者に振られて、辛かったろうに、それらは全てココの責任ではないのに、17歳の妹に私は何てことを……」
アシュリー様の辛そうな顔を見ながら、私はもつれた足を何とか地につけようと足を踏ん張った。
ぎゅむっ!
そして、見事にアシュリー様の足を踏みつけた。
「うおったぁ!?」
「ご、ごめんなさいっ!」
体制を崩しながらも、私とアシュリー様は何とかファーストダンスを踊りきった。
私は、踏みつけたアシュリー様の足が大丈夫かということと、先程の話の続きがききたくてアシュリー様に「あの……」と話しかけた。
しかし、私とアシュリー様の周りにドッと人が集まってきたのだ。
「初めまして公爵令嬢。次はわが愚息とダンスを……」
「いやいや、麗しき金のご令嬢。私と踊っていただけないでしょうか?」
「アシュリー・シスネロス宰相様、大変お綺麗なご令嬢で一曲ぜひ……」
な、なんだなんだ?
私と踊りたいだなんて、みんな足を踏まれたいのか?
私がアタフタしていると、アシュリー様が「んんっ!」と咳払いをした。
周りにいた貴族男性たちが、しんと静まり返る。
「皆様、申し訳ございません。我が娘のお相手はもう決まっておりまして……」
アシュリー様はそう言うと私の手を取って人混みをかき分けてこちらにくる銀髪長身イケメンを指し示した。
「ニール様……」
ニール様は私の前まで来ると、スッと跪いた。
「ココ・シスネロス公爵令嬢、私と踊っていただけないでしょうか」
アシュリー様が私の手を離し、ニール様が私の手をそっと取る。
なにこれ、なにこれ!?
他の男にモテたあげく、本命のニール様からのお誘い!!
しかも、ニール様はやっぱりスーパーウルトラアルティメットカッコいい!(語彙力崩壊)
だめだ、昇天……
「ココさん! 昇天しません!」
ジュリー様の声に私は目を見開いた。
霊体のジュリー様が、私の肩をガッチリ押さえている。
よく見ると、アシュリー様も後ろから私の頭に手を乗せて幽体が出ないようにしている。
そうだった!
今日の私の目標は昇天しないことと、ニール様に恥をかかせないことだった!
私は何とか気を持ち直して、ニール様にほほ笑んだ。
「ニール・コイラーン侯爵子息様。喜んでお受けいたします」




