59.ジュリー様の機転
私とジュリー様がシスネロス教会の神像の前に跪く私の体に戻ると、神官長が即座に私に「どうでしたか!?」と詰め寄った。
「え、えーと……」
「神とは話せましたか!?」
神官長は私の両肩を掴んだ。
メアリー様とイライザ様も真剣な眼差しで私を見ている。
母は少し離れたところで私を心配そうに見ている。
どうやって説明したらいいのだろう。
私は「素敵な男性との恋愛と結婚」という私利私欲のために何回も転生して、その度に災厄を引き起こして、自分で解決して、みんなに敬ってもらい、でも目的の恋愛と結婚は出来ないという、とんでもなく大迷惑で死ぬほど痛いヤツなんです。そんな私に協力して下さい?
うう……、いくらふてぶてしい私でも、これはちょっと言いづらい……
「ココさん、わたくしから説明しますわ」
見かねたのか、私の中のジュリー様が説明を買って出てくれた。
私は素直に意識の奥に引っ込む。
「わたくしから説明しますので、もう一度神官長室に移動しましょう」
私(ジュリー様)の一声で、神官長とメアリー様と母と侍女は再び神官長室にぞろぞろと戻り先程のようにソファに座り、母と侍女は部屋から出ていった。
「まずですね、わたくしとココさんがお話ししたのはアリクナフタヤ神の使いで『神様見習い』という方でした。伯父様が神託を受ける時もこの方でしょうか?」
「はい、そうです。私の場合はジュリーたちのようにその場に行くわけではありませんが……」
神官長は苦笑する。
同じ神様からの神託かどうかを確認するあたり、ジュリー様はさすがである。
「結論から申しますと、災厄は起きます。ですが、シスネロスが鍛錬してきた『変化の祈り』で最小限に抑えられるそうです」
神官長とメアリー様とイライザ様は「変化の祈りで?」と顔を見合わせる。
「やり方は、まずココさんの力を『お祈り』が使える皆さんに分け与えます。お父様とお母様、アシュリー兄様やルーカスにもシスネロスに戻ってきていただきます。人員が必要ですのでニールにもこちらに来てもらいます」
私(ジュリー様)の説明に、神官長たちは驚いているが、実は私も驚いていた。
ジュリー様は、私のことを話さないつもりなのだ。
(こういうことは、全てを正直に話せば良いというものではありませんわ)
ジュリー様は心の中で私にウフフと笑う。
「渡す力のコントロールはココさんがしますので心配はありません。災厄は地震ですので変化させるのは、この大地ということになります」
「大地を変化させるなんて、そんな大それたことは……!」
神官長が珍しく大声を上げる。
私(ジュリー様)は、神官長を見てほほ笑んだ。
「伯父様、シスネロスで『変化の祈り』を強化して鍛錬していたのはこのためだったのですよ! 世界を救うのは『浄化の祈り』ではなく『変化の祈り』なのです。しかも主に患者の体の内部、つまり『見えない箇所』を『少しずつ』変化させていたことにも大いに意味があります。一気に変化させてしまったらそれこそが『地震』ですもの」
そう、ジュリー様の言うとおりなんだよね。
私がやった「巨乳変化の祈り」は見えるところを変化させていた。
でもよく考えたら、見えないところを変化させることの方が技術が上なのだ。
シスネロス家では、この技術をずっと継承して磨いていた。
適性でしか使えない「浄化の祈り」よりも高度と言える。
「ジュリー、簡単に言うが、『見えない箇所』がどこなのか分からないと無理ですよ」
神官長が困惑顔で私(ジュリー様)に訴える。
「それもココさんがイメージでお伝えしますので大丈夫です。ココさんは前世の知識で地震が起きる原理もご存知なんですよ! 決して大地の神の怒りではないそうです!」
私(ジュリー様)は得意げに答えているが、中学生理科程度の知識であってそんなにすごくはない。
前世の地震の原理を研究した人に感謝である。
今まで黙っていたメアリー様が、ふーっと息を吐いた。
「それで、災厄はいつなのでしょう?」
メアリー様の言葉に、イライザ様もウンウンと頷いている。
私(ジュリー様)は苦笑した。
「それが、神様見習いの方も正確な日付は分からないそうで、『3年以内かなー』と軽く答えていましたわ」
「そ、そんなに適当な感じなんですの!?」
イライザ様は驚きの声を上げている。
イライザ様の気持ちも分かるが、前世の知識がある私は、正確な日付が分からないのも仕方がないと思ってしまう。
大地プレート的には、1日後も3年後も同じような時間なのだ。
「わたくしも適当すぎると思うのですが、ココさんは正確な日付が不明なことも理解しているようですわ」
私(ジュリー様)がイライザ様に説明すると、イライザ様は首をかしげた。
「あの、どうしてココさんはご自分でお話しされませんの?」
ギクッ!
「あ、ええと、ココさんはこの件に関して考えなくてはいけないことが多くて、ですね……」
私(ジュリー様)は目を泳がせながら答える。
イライザ様はハッとした表情になり、軽く頭を下げた。
「そ、そうですのね、申し訳ありませんわ。ココさんはいつもニール兄様との結婚話ばかりしていますので、そちらにしか興味がないのかと……」
すごいイライザ様! そのとおりです!
(ココさん! 素直すぎますわ! 今は災厄のことを考えてください!)
ジュリー様が心の中で私を叱責する。
「まあ、ココさんがやることが多いのは事実ですので仕方ありませんね。早速アシュリーとルーカスとニールに書簡を送ります。あなたはマルクスさんと奥様に書簡を送ってください。力の受け渡しはイライザから順にお願いします」
メアリー様がテキパキとやることを決めていく。
ちなみに、マルクス夫妻はジュリー様のご両親で神官長の弟夫妻である。
そう、実はこの作戦の主要な目的は、私の力をシスネロス家の方々に振り分けて、災厄自体を小さく抑えることなのだ。
私の力は普通の人だと受け取れないそうで、「お祈り」が使えるシスネロスの方々は貴重な受け取り手である。
皆様には絶対に害のないように、ギリギリまで受け渡さなくてはならない。
ジュリー様と私は、意識下で頷きあったのだった。




