45.ジュリー様の力
私の「前世流プレゼン」を聞いたメアリー様は、大きな溜息をついていた。
「ココさん、ジュリーには『お祈り』の力はないのですよ。力を与えるのは不可能です」
私は内心ほくそ笑んだ。
くると思っていましたよ、その質問!
「本当にそうでしょうか? それでは何故ニール様が『お祈り』を使えるのでしょうか?」
私の言葉に、メアリー様と神官長とイライザ様は、一斉にニール様を見る。
私の中のジュリー様は「やはり、使えるのですね……」と呟いている。
「あれ? 私ココに『お祈り』が使えることを言いました?」
ニール様は口元に手を当てたまま、ニヤリと笑う。
「いいえ。ニール様の力がイライザ様と同等なことと、変装してきたとおっしゃったこと、あと幽体離脱をすぐ試していたことから、『お祈り』も試すのではと思ったのです」
私は、ニヤリとするニール様も良い! と思いながら答える。
「わたくしと同等って、ニール兄様が、ですか!?」
イライザ様は驚愕の声を上げている。
「ココが言うのならそうなのでしょうね。すみません、何の修行も鍛錬もせずにイライザに並んでしまって」
ニール様はイライザ様にほほ笑む。
「んなっ!?」
イライザ様はワナワナと震えている。
ニール様、本当に性格悪いな……。
「本当なのですか、ニール」
メアリー様はニコリともせずにニール様を見ている。
「はい。お見せしましょうか?」
「いえ、結構です。イライザも落ち着きなさい」
メアリー様はニール様を睨むイライザ様を諭すように言ってから、私を見た。
「それで、ココさんは何が言いたいのですか?」
メアリー様は回りくどいことはお嫌いのようだ。
ここは素早く終わらせよう。
「ニール様は隣国の有力貴族コイラーン侯爵家の後継なので、シスネロス公爵家に取り込むことは出来ません。『お祈り』の力をシスネロス家だけに留めておくことはもう不可能なのです。なので、約定を取り決めて、協定を結んだ方が余程良いと思うのですよ。そして私の力はジュリー様が天に召されれば『ほどほど』なので、協定を結んだコイラーン侯爵家のニール様と結婚するのが最善だと思われます!」
私はメアリー様に向けて、キッパリと言い放つ。
「ココさん、おっしゃっていることはちゃんとしているのに、結論はニールとの結婚ですか!?」
私の中のジュリー様がツッコミを入れてくる。
当然ですよ、ジュリー様!
ニール様との結婚は、私の魂の目的なのです!
するとニール様がアハハと声を上げて笑い出した。
メアリー様が「ニール! 不謹慎ですよ!」と目を吊り上げる。
「ああ、いえ、申し訳ありません。しかし大伯母様、ココの言うとおりにした方が得策だと思いますよ。そもそも、お母様をコイラーンに嫁がせたところから、もう間違いなのです。そしてココを『普通』に育てようと平民にしたことも……です」
ニール様は真剣な表情になり、メアリー様に言う。
ニール様の言うとおりなんだよね。
ジュリー様に関しては、何故「力がない」という判定になったのか分からないけど、私に関しては、「お祈り」を教えず、平民として育てれば「普通」になると思った……という、ちょっと運任せというか……。
まあ、不貞の子だから、都合良い解釈(神託)に乗っかっちゃったのかもしれないな。
ここまで考えたところで、私の中のジュリー様が「代わっていただけますか?」と声をかけてきた。
私はジュリー様と交代する。
「伯母様、わたくしからもいいでしょうか?」
私(ジュリー様)はそう言うと、ささっと席に戻り座った。
どうやら歩きプレゼンスタイルは、ジュリー様には不評だったようだ。
「……ええ」
メアリー様は静かに答える。
「まずは、ココさんとニールが生意気な物言いをして申し訳ありません」
私(ジュリー様)は頭を下げる。
ジュリー様に謝らせてしまった!
ふと見ると、ニール様も頭を下げている。
私も仕方なく心の中で頭を下げた。
「いえ、言っていることはおそらく間違ってはいないでしょう」
メアリー様は小さく息を吐いた。
「伯母様もご存知のとおり、わたくしに『お祈り』の力はありませんでした。力が発現しなかったので、このシスネロス家で少々肩身が狭い思いをしていたのも事実です」
私(ジュリー様)は目を伏せる。
「そう、ですね……」
メアリー様も目を伏せる。
「ロミオ様に一目惚れをして、コイラーン侯爵家に嫁いで、ニールを授かり、私は本当に幸せでした。でも、ニールが時々おこす癇癪は、弟のそれととてもよく似ていて、もしかしたら何らかの力があるのかもしれないとは思っておりました」
「……! 何故こちらに相談しなかったのですか!?」
メアリー様は身を乗り出す。
神官長とイライザ様も頷いている。
「何故って……、わたくしは幸せだったのですよ。『お祈り』や『力』なんて無くても幸せだったのです。ニールにもそう生きて欲しかったのです。『お祈り』は、やり方を教えなければ発現する可能性は低くなりますので……」
私(ジュリー様)は少し寂しげに笑った。
「あの、お母様には、『お祈り』の力があったという解釈でよろしいのですか?」
ニール様が隣の私(ジュリー様)を見る。
私(ジュリー様)は小さく頷いた。
メアリー様が「ジュリー……」と呟く。
「ニールが熱を出した時に、必死に治ることを祈っていましたら、出来るようなりました。でもわたくしの力はとても弱く、先程も申しましたとおり幸せでしたので、特に報告はしませんでした」
私(ジュリー様)は私の胸に手を当てた。
「わたくしは、ココさんをとても好ましく思っております。何でも出来てしまう大きな力を持っているのに全くそれを気にとめず、ただひたすら恋に全力なところがココさんの魅力だと思います。ココさんは力が重要視されるシスネロス家では幸せになれません。とうに亡くなった身ですが、最後のお願いと思ってきいていただきたいのです。ニールとココさんの結婚をお認め下さい」
私(ジュリー様)は深々と頭を下げた。
ニール様も同じくらい深く頭を下げる。
私も私の中で、ジュリー様の言葉をかみしめながら、頭を下げていた。
メアリー様と神官長が目配せをして頷きあった後、メアリー様は私(ジュリー様)を真っ直ぐ見た。
「……分かりました。但し条件が二つあります」
「はい。出来る限り沿いたいと思います」
「一つ目は、ココさんをシスネロス家の養女にしてからコイラーン家に嫁がせること。二つ目はこちらの侍女を付けることです」
なるほど。
「お祈り」の起源を守ることと、私の監視だな。
「伯母様、それではココさんの自由が……」
「ココさんは、ふてぶてしいので、どこから嫁ごうが、誰が見ていようが、自由におやりになるでしょう」
メアリー様の言葉に、何故か執事様が大きく頷いている。
いいけどね、ふてぶてしいのは本当だし。
でも、侍女ということは女性だよね。
ニール様は女性が苦手だから、それだけは心配というか……。
「伯母様、侍女とはどなたでしょうか? あまり若い女性の方だと少し不都合があるのですが……」
私(ジュリー様)は、私の心配を汲み取ってメアリー様に尋ねる。
「……そうですね。もう出てきていいですよ」
メアリー様は、ダイニングルームのドアに向かって声をかける。
ドアが静かに開き、茶色の髪と瞳の40歳くらいの貴族女性がダイニングルームに入ってきた。
私は私の中で「お母さん!」と叫んでいた。
「ココさんのお母様!」
私(ジュリー様)と執事様も驚いていたが、ニール様は「やはりですか」と呟いている。
「マーチ・ロクスリーと申します。よろしくお願いいたします」
私がよく知っているはずの母は、私の知らない表情と言葉遣いで丁寧に挨拶をしたのだった。




