40.捕えられた!
私と執事様は、カーレアの町の留置所のような場所に連れて来られていた。
牢屋ではないが、簡易的な椅子と机があるだけの狭い部屋で、外から鍵がかけられている。
私はその椅子に腰掛け、執事様は部屋の中をウロウロと歩いている。
「ココさん、大丈夫ですよ! 伯父様とイライザがきっと何とかしてくれますわ!」
私の中のジュリー様が励ましてくれる。
実際、私もそう思っている。
連行時も、騎士たちは神官長とイライザ様の非難にタジタジだったからだ。
「ココさん。もうこうなったら、神官長の娘だと暴露して、何かすごい祈りを見せつけ聖女と分からせて、この場所を出ましょう」
執事様は真剣な表情で私を見る。
「お断りします! 私は絶対に聖女にはなりません!」
私はぷいっと横を向く。
「ココさん、冷静に考えて下さい。結婚より聖女の方が良いですよ」
「執事様は私を追い出したいだけですよね? こうなったら絶対にニール様と結婚して私を『若奥様』と呼んでもらいます」
「なっ!? 何ですか! 精神攻撃の祈りですか!?」
執事様は胸を押さえて苦しそうにしている。
この人本当に失礼だな!
そんな祈りあったら、さっき捕まった時に使ってるよ。
私は執事様から逃れるように意識の中に引っ込んだ。
「クロック、ココさんに当たるのはやめて下さいね」
私(ジュリー様)は呆れたように言う。
「奥様ですか? すみません、何故捕えられたのか見当がつかないもので……」
執事様は軽く頭を下げる。
確かに執事様の言うとおりだ。
隣国の者は全員捕えられるとか?
いや、さすがにそこまで関係は悪化していない。
これは、調べる価値ありかも?
私は自分の体からスッと飛び出した。
毎度恒例の幽体離脱である!
「ジュリー様、私、様子を見てきます!」
「ちょっと、ココさん!?」
「奥様、どうかしましたか?」
突然叫んだ私(ジュリー様)に、執事様は怪訝な顔をする。
「ココさんが幽体で調べに行くと言ってまして……」
「ああ、いいんじゃないですか? ぜひ調べてきて下さい。戻ってこなくても大丈夫ですよ」
幽体離脱したら、そう言われると思った!
私は特に返事もせず(幽体なので返事をしても執事様には聞こえないし)ドアの外に出た。
ドアの外の通路を進むと、神官長とイライザ様の声が聞こえてきた。
「だから、何度も言っているでしょう! あの2人は私の客人なのです。直ちに解放してください!」
「大伯父様はシスネロス公爵領の神官長ですのよ!? シスネロス家は本日の行いを正式に糾弾させていただきますわ!」
声のした部屋は応接室で、そこには神官長とイライザ様と騎士が2人いる。
黒革のソファが置いてあるが、全員立っている。
「も、申し訳ございません。私たちも指示に従っただけでして、今、早急に上に確認をとっておりますので……」
「そもそも依頼主は誰なのですか? 騎士団は依頼の正誤も確認せず捕縛をするのですか?」
神官長は騎士2人に詰め寄る。
「依頼主についても依頼の正誤に関しても、こちらでは分かりかねます。確認中ですので今しばらくお待ちください」
騎士たちは困惑しながらもピシャリと言っている。
話の内容から察するに、まだ何も分からない状態ということだ。
これは、時間がかかるかもしれない。
少し他も見つつ、一旦戻ろうかな……
「ココ!」
名前を呼ばれて振り向くと、神官長が幽体の私を真っ直ぐ見ている。
イライザ様もこちらを見ているが、イライザ様とは目線が合わないので、ボンヤリ存在を感じ取っているだけのようだ。
おそらくイライザ様の霊感の強さは、ニール様くらい……あれ? ということは、ニール様も「祈り」が使える?
「ココ、絶対に何とかしますので、部屋で待っていてください。長い時間幽体でいるのは体に良くないのです」
神官長は騎士2人の視線も気にせず、幽体の私に話しかける。
「それは知っています。でも私の体にはジュリー様がいますので、大丈夫なんですよ。あの、それと、念話の方がいいですよ」
幽霊に声を出して話しかけると、前世でも今世でも、もれなく変人扱いされるのだ。
「ジュリーが……そうでしたね。ジュリーともゆっくり話したかったのですが……。あとですね、私に念話はできません。ココは本当にすごいのですね……」
神官長は苦笑する。
「神官長殿、何かありましたか!?」
騎士の1人が周りを見回しながら、神官長に尋ねる。
しかし、答えたのは神官長ではなくイライザ様だった。
「あなた、まだ分からないのですか!? あなた方が捕まえた女性は、神官長より強い神力をお持ちの方なのですよ! 捕縛しようが監禁しようが、あなた方を見ているのです!」
言わなくていいのに。
それに、これは神力ではない。
そして、イケメンじゃない騎士たちのことは特に見ていない。
「え? 先程のぽやっとした女性が、ですか?」
「とてもそうは見えませんでしたが……」
騎士2人は、顔を見合わせて、「なあ」と言い合っている。
そうは見えないには賛成するけど、初対面の人に言われるとモヤモヤするなぁ……。
「イライザ、余計なことは……」
神官長が口を開いた時だった。
応接室のドアがバタンと開かれ、騎士がもう1人入ってきた。
「あの、神官長殿とシスネロス公爵令嬢様と隣国の客人2人を、至急シスネロス公爵家にお連れするようにとのお達しがありました!」
「え!? ウチにですか!?」
イライザ様は驚いている。
「ああ、なるほど。依頼者が分かりましたよ……」
神官長は溜息をついている。
ええ?
どういうこと?
でも、シスネロス公爵家なら、酷い目には遭わない?
私は幽体のまま、しきりに首をひねっていた。




