3.女性の霊が……!
どうも。
前世で彼氏いない歴25年、「インチキ降霊術師」として25歳で殺され、今世で初恋の婚約者に婚約破棄を言い渡された、とある村娘Bのココ、16歳です。
村にはもう適齢期の男性がいないので、結婚をしたいのなら、町に男探しに行かなければなりません。
しかしその町は、元婚約者と浮気相手の町長の娘が仲良く暮らす町なので、あまり行く気になれません。
というか、そんな気力が起きません。
全国の婚約破棄された女性の皆様、どうやって前向きに進んだのか教えてください。
「ココ、今日は領主様の視察の日でしょう? 早く準備しなさいな」
母のマーチが私のベッドのブランケットをバサっとめくる。
ちなみに今日来る領主様は50歳。
その案内役を村長と私がやることになったのだ。
「はーい……」
せめて領主様がもう少し若ければ……、いやいや、若くても、そんな展開にはならない。
私は肩までの茶色の髪をポニーテールにして、一番質のいい布地のベージュのワンピースに着替えた。
ちなみにこのワンピースは、元婚約者とのデートに着ようと買ったもので……って、この話はもういいですね。
白髪白髭おじいさんの村長と共に、村の入り口で領主様を迎えた私は驚いていた。
領主様が50歳より若く見える銀髪グリーンアイのなかなかのイケおじだったことではなく、馬車が黒塗り金縁でちょっと霊柩車っぽかったことでもなく、執事の男性が黒髪黒目の30代のイケメンだったことでもない。
領主様の肩に、女性の霊がいたからだ!
「トアル村にようこそおいでくださいました。私は村長のアルムンドです。こちらは案内役のココです」
深々と頭を下げる村長にハッとなり、私も慌てて頭を下げる。
「こちらはコイラーン領の領主であらせられるロミオ・コイラーン侯爵様です。私は執事のクロック・サザンと申します」
貴族に会ったのは初めてである。
侯爵様というのは、結構偉い人のはずだ。
だが、そんな人の肩に霊がいる。
偉い人に憑いている霊はやっぱり偉い人なのか、身なりの良い40代の金髪で水色の瞳の綺麗な女性だ。
いつもは霊を視ても無視をきめこむのだが、その女性の霊があまりにも品が良く綺麗だったので、私はつい見惚れてしまっていた。
「お嬢さん、私の肩に何かありますか?」
侯爵様が、高貴なほほ笑みを向ける。
し、しまった!
「す、も、申し訳ございません!」
私は頭をガバッと下げる。
「いいのですよ。顔ではなく肩を見つめられたのは初めてですが」
コイラーン侯爵様はふふっと笑った。
顔を上げると、村長と執事様が明らかに私を睨んでいる。
はい! もうしません!
だが、今の挙動で霊には私が視える人だとバレてしまったらしい。
コイラーン侯爵様の肩から、すうっと私の隣に来ると私をまじまじと視た。
私はとにかく彼女に視線を合わせないようにしながら、村の畑や水車、集会所などを案内した。
村には侯爵様に滞在していただく場所がないため、視察はたった2時間で終了である。
なんとか乗り切った!
私が息を吐いた時、女性の霊が私の髪の毛をクイっと引っ張ったのだ。
「いたっ!」
「まあっ!? 触れる!? あなたは何者なんですか?」
どうやらこの女性の霊と私はかなり相性が良いらしい。
声を出してしまったし、これ以上の無視は無理である。
「す、すみません! 私、お腹が痛くて、はずしてもよろしいでしょうか?」
「ココ! なんたる無礼を……」
「ああ、いいですよ。もう視察も終わりです」
怒る村長と優しい侯爵様に私はペコリと頭を下げると、猛ダッシュでそばにあった小屋の後ろに走って行った。
はたから見ると、完全に、腹下した少女である。
「あ、あなた、誰なんですか!? 私、霊とは話さないと決めているんです!」
「すごい! わたくしのことが視えて話せるのですね! わたくし、ぜひあなたにお願いが……」
だから、誰なの!?
前世から思っていたんだけど、人間って霊になると、結構図々しいんだよね!
私の思考を読み取ったのか、女性の霊はこほんと咳払いをする。
まあ、霊に喉につまる何かはないのだが。
「申し訳ありません。わたくし、ロミオ・コイラーン侯爵の妻、ジュリー・コイラーンと申します。実は先日流行り病であっさり亡くなったのですよ」
ロミオの妻が、ジュリー。
何とも惜しい……いや、問題はそこではない。
「侯爵夫人様でしたか。申し訳ございません」
「あら、わたくしはもう亡くなっていますし、そんなことはいいのです。実はわたくし、どうしても心残りがございまして、そのことを旦那様にお伝えしたいのですよ」
そんなことだろうとは思っていた。
心残りがないのならば、旦那様の肩にはいないだろう。
「あの、大変申し訳ないのですが、私、死んだ方の声を届けないと心に決めているのです」
前世はそれで殺されたのだ。
婚約破棄されたからといって、命を落としたいわけじゃない。
「そんなことをおっしゃらないでください。お礼はいくらでも差し上げます!」
「恐れながら、亡くなっている方にお礼は無理でございます!」
「無理ではありません! 息子はわたくしのことが視えているのです!」
「じゃあご子息に伝えてもらってください!」
「それは無理なのです! 息子はわたくしの声が聴こえないのです! ぼんやりと存在を感じ取れるだけなのです!」
「それならお礼も無理……いえ! お礼云々ではなく、私は死者の言葉を伝えて嘘つき呼ばわりされて殺されたくないのです!」
私の真剣な眼差しに、ジュリー様は目を伏せた。
「そう、そうですわね。旦那様が信じなかったら、あなたにご迷惑がかかりますわね……」
私は少しバツが悪くなりながら、小屋の後ろから小道を覗いた。
そこにはもう、領主様と執事様と村長はいなかった。
「あの、一緒にお帰りになられた方がいいですよ。霊は目的外のところには長く留まれません……」
そう言って振り向くと、なんとジュリー様が消えかけているではないか!
「あら! 体が消えていくわ! まだわたくし何もあの人に……」
「も、もう! 私の中に入ってください! 送っていきます!」
言葉を伝えることは出来ないけど、送っていくだけなら何とかなる。
おバカな村娘のフリをして、村の特産品の芋を渡しにきたと言えばいい。
私とジュリー様はかなり相性が良く、ジュリー様を降霊させた状態で、私は芋を何本か持って、ジュリー様と雑談しながら走ることが出来たのだった。




