2.婚約破棄
異世界の、とある村の村娘Bに転生した私。
「死ぬ間際の希望通り」と言ったが、そうではなかった。
だって、前世と同じく、霊が視えて、霊と話せるのだ。
試したことはないが、多分「降霊術」も使えるだろう。
でも私には前世の記憶がある。
同じ轍は踏まない。
死ぬまで霊感が強いことを隠し通す、これ一択である。
前世の幼少期にやってしまったNG発言、「あそこに誰かいるよ」
絶対に言いません。
前世中学生時の、母親を亡くした同級生へのNG発言、「クローゼットの奥の衣装ケースにヘソクリあるからそれで好きな物買いなさい!」
放っておきます。
いつか見つけるでしょう。
そうやって霊から目をそらし、私はいたって平凡に、16歳になったのだった。
「ココ、来月領主様がこの村に来るんですって!」
ココと呼ばれた私は、鍬で畑を耕しながら、村娘Aである友人のエリーにうなずいた。
「知ってるよ、お母さんたちが話してた。この村の視察らしいね」
「視察なんて、この村に特に見るものなんてないよねぇ」
エリーは鍬で土をグリグリとかきながら自虐的に笑う。
エリーの言うとおり、この村は小さい上に若い男は全員兵役に行っているので、女と子どもと高齢者しかいない。
とはいえ、土地が豊かなため、そんなメンバーでも野菜を育てて何とかやっていけるのだが。
「領主様って、かっこいいのかなぁ……」
「もう! ココには婚約者がいるじゃない! 心配しなくても、次のお休みの日にケビンから求婚されるって!」
ケビンは私の2つ上の婚約者だ。
この小さな村は村民が少ないため、幼少期のうちに相手が決まってしまうことが多い。
私とケビンも、私が10歳の時に「大きくなったら結婚しよう」と可愛い約束をした仲なのだ。
もちろん単なる口約束ではない。
その後、お互いの親を交えて、私が13歳の時に正式に婚約をしている。
とはいえ、ケビンは長身でなかなか見目が良い。
兵役のせいか、体つきもガッシリとしてきて、私は彼と結婚するのが楽しみだった。
恋愛小説のような恋ではなかったが、好みの男性と安定した結婚をして、今世は穏やかに過ごせそうである。
でもなぁ、結婚しても、旦那様は兵役で殆ど村にはいないんだよなぁ。
お母さんたちの噂話によると、大体の男は町で浮気をしているらしい。
そりゃ、兵役は大変だろうけど、何だかなぁ、という感じだ。
ちなみにエリーは昨年結婚している。
エリーの旦那様も町で浮気をしているのだろうか?
もちろんそんなこと、きけないけどね。
しかし私は、エリーの心配をしている場合ではなかったのだ。
浮気をしていたのは、私の婚約者であるケビンの方だったのだから……。
「ごめん! ココ! 婚約を破棄してくれ!」
私とお母さんが暮らす小さな家の小さな部屋で、兵役の休暇で村に戻ってきていたケビンは私に頭を下げた。
「こ、婚約破棄……?」
私はポツリと呟いた。
婚約破棄って、あれでしょ。
貴族の女性が婚約破棄されて、でもイケメン王子か公爵か騎士団長に見初めらてハッピーエンドになる、あの婚約破棄でしょ?
村娘Bに起こるイベントじゃないでしょ?
婚約破棄されても、次がないんですけど!?
「ケビン! ちゃんと説明して」
私の母であるマーチが、頭を下げるケビンの肩に手を置く。
「は、はい。実は……」
ケビンの話した内容は、簡単に要約すると、町長の娘(17歳)に見初められてしまい、一夜を共にしてしまい、赤ちゃんが出来てしまい、再来月に出産予定だということだった。
「さ、再来月出産……!?」
マーチはワナワナと体を震わす。
すると私たちの家に、ケビンの両親がバタバタと入ってきた。
謝り倒すケビンとケビンの両親と、頭を抱える母を見て、私はこの婚約が修復不可能だということを理解した。
この話は、「浮気したけど、ヨソに子どもがいるけど、結婚したい」ではなく、「婚約をなかったことにして欲しい」なのだから。
「分かりました。どうぞお幸せに」
私はニッコリほほ笑んで、隣の部屋に入って、固いベッドに突っ伏した。
人生2回目だしね。
婚約破棄くらい、どうってことない。
いや、前の人生も恋人はいなかったけどね。
ケビン、結構好みだったのになぁ。
整った顔立ちも、焦茶の髪も瞳も、ガッシリした体つきも、好きだったのになぁ。
小さい頃はよく一緒に遊んだのになぁ。
お休みの日に帰ってきた時は、手を繋いだりしたのになぁ……
私はシクシクと泣きながらいつの間にか寝てしまったらしい。
朝起きたら、ベッドは涙で濡れていて、目がぱんぱんに腫れていた。
ケビンのこと、ちゃんと大好きだったと気付いたのは、婚約破棄されてからだったのだ……。




