27.何度転生してもダメなの?
私の家の狭い部屋で、私(ジュリー様)が泣いている母に「お母様」と優しく声をかけた。
母はゆっくりと顔を上げる。
「ご安心ください! ココさんの願いは『普通』でも『平凡』でもありません。ニールとの結婚です!」
その通りだけど、ニール様が隣にいるのに、全部言っちゃったよ!
「ニールもあまり普通ではありませんので、普通じゃないココさんは息子にピッタリだと思いますわ」
私(ジュリー様)は、私の声は気にせずに笑顔で言う。
ニール様も頷いていて、もう青ざめてはいない。
母は、笑顔の私(ジュリー様)とニール様を見て、少し落ち着いたようだ。
「そう、ですね。ココが結婚を望んでいるのは、分かっていました。ココは何度も転生をしていますが、結婚をしたことは一度もなく、憧れているのだろうなぁと……」
室内が、しーんとなる。
え?
今、なんて、言いました?
私、何回も転生しているのに、一度も結婚したことがないって、そう言いました?
「そ、そうなんですね?」
私(ジュリー様)がなんとか相槌をうつ。
「はい。ココは能力の高さから、大体、神職か聖職に就いており、純潔のまま生を終えていたそうで……」
ノォーーーーッ!?
まさかの、何回転生しても、処女だった件!?
(ココさん! お気持ちは分かりますが落ち着いて下さい! 神職か聖職に就いていたなんて、素晴らしいことですわ!)
ジュリー様が私のただならぬ様子に、心の中で語りかけてくる。
ニール様は全てを察しているのか、笑いを堪えながら、んんっと咳払いをする。
「母の実家のシスネロス公爵家は、神官や聖女を多く輩出している家系です。ココがシスネロス公爵家に生を受けたのも納得いたします。ですが、ココも私も結婚を望んでいます。私は次期侯爵ですので、侯爵夫人となるココの身元をどうしても調べなければならないのです。誰にココを託されたのかだけでも教えていただきたいのです」
ニール様は、私との結婚を望んでくれているんだ……。
私は、胸がポカポカと温かくなるのを感じていた。
「は、はい! ココの望みでしたら、お答えします! 赤ちゃんだったココを『普通に平凡に育てて欲しい』と私に託されたのは、神官長です。私は男爵家の三女で教会のシスターをしていたのですが、神託と言われなくても、すぐにココを育てる決心をいたしました。当面のお金も全て用意していただき、安全に暮らせそうなトアル村に移住してまいりました」
母は、スラスラとニール様に答えている。
そんな風に、私は託されたんだ……。
「神官長でしたか……。あの、怒られたとおっしゃっていましたが、随時神官長に報告をしているのでしょうか?」
私(ジュリー様)も、質問をする。
「はい。ココの結婚は『普通に平凡』に含まれていましたので、ケビンとの婚約は特に何も言われなかったのですが、婚約破棄には大層怒っていまして、実は領主様の視察が終わりましたら、神官長の見定めた平民男性とお見合いをする予定だったのです」
うそっ!?
じゃあ、「男探し」しなくても良かったってこと!?
いや、待てよ。
神官長の見定めた平民男性って、見定め基準は何だ?
顔と身長は入っているのか?
いや、入っていたとしても、ニール様以上の男はいない。
うん!
平民男性いらないわ!
ニール様が最強だ!
「……ココさんの中で、決着がついたようですわ」
私(ジュリー様)は溜息混じりに言う。
母は首をかしげ、ニール様は口元を押さえて肩を震わせている。
「お母様、ココさんがコイラーン家で働いていることは報告されていますか?」
私(ジュリー様)がさらに質問をする。
「はい、報告しました。返事は『見守るように』とのことでした。私は領主様がシスネロス公爵家と関わりがあるとは知らなくて……」
「そうですよね。でも、神官長はわたくしの嫁ぎ先と知っています。そして、わたくしの死も……」
私(ジュリー様)が目を伏せると、ニール様も目を伏せた。
いつも忘れてしまうが、ジュリー様はすでに亡くなっていているのだ。
そもそも、ジュリー様と相性が良いのも、こんなに身近に感じるのも、私とジュリー様が血縁だったからなんだ。
ニール様の霊感が強いのも、ジュリー様の、シスネロス家の血筋だ。
私がもし、ジュリー様の妹だったら、ニール様の叔母になるので、結婚出来ない。
年下なのに、叔母って……、いや、あり得ない話ではない。
ジュリー様が嫁いだ後に、ジュリー様のご両親に出来た子どもかもしれない。
ああ、今世も結婚出来なさそうな気がしてきた。
ニール様が他の女性と結婚するのを、泣きながら見るのだ。
私はそういう運命なんだ……。
私(ジュリー様)は、はぁーと息を吐いた。
「ココさんがまた後ろ向きですわ。ニール、慰めてくださいな」
ジュリー様はスッと私と交代する。
「い、いえ! 大丈夫です!」
突然交代された私は、ニール様に向かって、慌てて両手を横に振った。
「マーチさん、あちらの部屋をお借りしても良いですか? ココと2人で話したいと思います」
ニール様は立ち上がりながら、奥のドアを指し示す。
あの部屋は、私の部屋だ。
「え、ええ、ココの部屋ですので、どうぞ」
母は、少し困惑しながら答えている。
ニール様には、私とジュリー様の違いがハッキリ分かるようだけど、母には分からないのだろう。
私はニール様に促されるままに、自分の部屋に入った。
私の小さな部屋は、何も変わっていない。
母がいつ帰ってきてもいいようにしてくれているのか、ベッドのシーツも整えられている。
そして、どうでもいいけど、この簡素な部屋にニール様が似合わない。
「ココの考えていることは大体分かるのですが、不安なことを言葉にして言っていただけますか?」
ニール様は立ったまま、私と向き合い、私の肩に手を置いた。
「わ、分かるのなら、言わなくても……」
「情けなくウジウジしているのですよね?」
ニール様はやっぱり、性格悪い!
「そうですよ! どうせ私なんか、何回転生しても結婚出来ないんだなって思ってますよ! 今回もキスさえしないまま、死ぬんですよ!」
私はぷいと横を向く。
「おや? 元婚約者とはキスもしていなかったのですか?」
「結婚前ですよ? するわけないじゃないですか! 手を繋いだくらいで……んんっ!?」
突然、私の言葉が塞がれた。
いや、私の唇が塞がれたのだ。
ニール様の顔が目の前にあって、私の唇とニール様の唇が重なり合っている。
ニール様の温かい唇の感触と、これはキスなんだという実感が脳に到達した時、私の膝が、ガクッと力をなくして折れ曲がった。
「おっと、危ない!」
ニール様は何事もなかったかのように、私の両脇を支えた。
私は呆然としていた。
……ニール様に、キス、された!?




