25.普通で平凡
どうも。
婚約破棄されたけど、侯爵子息様と一生片思いの結婚をして玉の輿に乗れそうだったのに、存在を一切気にしたことがなかった父親(生死不明)のせいでまたもや婚約前破棄しそうな、侯爵家使用人Bのココ17歳です。
「ココさん、17歳になったのですか? おめでとうございます!」
私の中のジュリー様が、祝ってくれている。
「ありがとうございます。刻一刻と期限が迫っていますけどね」
私は溜息をつく。
「相変わらず結婚や恋愛に関しては卑屈ですね。わたくしはココさんとまた一緒に行動出来て嬉しく思っていますのに」
「それに関しては私もとても嬉しいんです!」
そう、私たちは、私の父親のことを調べるために、今現在、私の母親の住むトアル村に向かっているところなのだ。
ちなみに移動はコイラーン侯爵家の専用馬車で、メンバーは、私と私の中のジュリー様、何故かついてきたニール様の3人だ(見た目は2人)。
「……ニール様、お仕事は良かったのですか?」
私は道中あまり話さないニール様に遠慮がちに尋ねる。
「……私がいた方が、嘘偽りが見抜けるので良いでしょう」
ニール様は淡々と答える。
確かにその通りなんだけど、ニール様、何か怒ってるのかなぁ……
「別に怒ってはいませんよ」
うお! さすがの勘の良さ!
心まで読めるのはすごい!
「心は読めませんよ。ココが分かりやすいだけです」
ニール様は、呆れたように言う。
私は恥ずかしくなって、自分の頬を両手で押さえた。
だって、ニール様を好きだという気持ちも、分かるってことだよね?
ニール様は私の様子を見て、ふっと笑う。
「すみません。ココとお母様がずっと2人で話していましたので……。私にはお母様の声は聞こえないのですよ」
そ、そうだった!
私ってば、ずっとジュリー様と話していた!
ニール様だって、ジュリー様と話したいに決まっている!
「すみませんでした! 今代わりますね!」
「いえ、そういう意味では……」
私はスッと私の意識の中に潜った。
交代した私(ジュリー様)は、はぁーと息を吐く。
「どうして恋愛となるとココさんはダメなのでしょうね……」
「いえ、私も別に、そういう意味でもないのですが……」
私(ジュリー様)とニール様は顔を見合わせてふぅと溜息をつく。
その時の私は、別のことを考えていた。
母のことである。
私の父親の件、何もニール様やジュリー様に調べてもらうほどのことなのだろうか。
母に、「お父さんのことを教えて!」と尋ねれば済む話である。
きっと父親は、どこかの村の農夫で、運悪く病死してしまったのだろう。
いや、それなら、母と2人でトアル村に移住する必要はない……?
もしかして、不倫!?
うっかり妻子ある農夫とやっちゃった!?
ということは、父親は生きていて、腹違いの兄弟がいるかも!?
私(ジュリー様)は、ふふっと笑う。
「お母様?」
「何故か父親は農夫限定で妄想が膨らんでいるようですわ」
ニール様もふふっと笑った後、目を伏せた。
「……農夫ならいいのですけどね」
トアル村の私の家で、私の母親であるマーチは、ニール様と私の前でガクガクと震えていた。
「そ、そうですか……。ココが侯爵子息様と結婚……。えーと、ご冗談ですよね?」
母の気持ちはよく分かる。
分かるけど、震えすぎだし、ちょっと動揺しすぎじゃない……?
「冗談ではないのですよ。つきましてはココさんのお父様についてお伺いしたく……」
「ココ!」
不敬にもニール様の言葉を遮って、母は私の腕を引っ張って部屋の隅に連れて行った。
「ちょっと、お母さん!?」
「どういうこと!? ココは普通で平凡な結婚がしたかったんじゃないの!? なんで侯爵子息様!?」
「え? 普通で平凡な結婚?」
私、普通で平凡な結婚がしたいなんて言ったっけ?
「お、お母さ……」
「どうしよう! 婚約破棄騒動だけでも怒られたのに! 私はココを普通に平凡に幸せにしなくちゃいけないのよ! あんなイケメン侯爵子息様じゃ、普通でも平凡でもないし、貴族に嫁ぐなんて家を出た意味がない……」
母は、混乱したようにペラペラと喋っている。
私は母の両肩を掴んだ。
「怒られたって誰に!? 普通に平凡に幸せって、どういうこと!? お母さん!?」
「だって、そう約束して、だから……」
「ココ!」
肩を掴まれて振り向くと、ニール様が神妙な顔つきで立っている。
「何か、大きなものを感じます。ココのお母様には落ち着いていただき、全てを話していただきましょう」
大きなものって、何……?
私、普通で平凡な村娘Bのココだよ?
母だって、普通で平凡な幸せを望んでいて……。
あれ?
普通って、平凡って、何の話だっけ……?




