23.一生片思いの結婚
ニール様は使用人部屋のベッドに座っている幽体の私にほほ笑んだ。
「やっぱりこの部屋にいましたか」
ニール様はそう言うと、私の横に腰掛ける。
「私はココのように霊体と話すことは出来ません。もしよろしければ、私の中に入ってきてくれませんか?」
ん? なにか、今、ものすごいことを言いませんでしたか?
ニール様の中に入る?
なんか、ちょっと、エロ……
「あー、ロクでもないことを考えていそうな感じがしますね。では、私が出ましょうか……」
ニール様はそう言うと、目をつむり、すうっと幽体離脱をした。
「ええっ!? ニール様もできるのですか!?」
幽体の私は、幽体のニール様を指差して驚愕した。
「はい。ココの話を聞いて練習してみました。ただし5分くらいが限界ですが」
幽体のニール様はニッコリほほ笑む。
ベッドには無防備に倒れているニール様がいて、目の前には幽体でもイケメンなニール様がいる。
これは、ダブルニール様!!
滅多に見られないだろうから、拝んでおこう。
「時間が惜しいので、ココの行動にはツッコミませんが……、ココ、お母様の件、本当にありがとうございました」
幽体のニール様は私に頭を下げる。
「い、いいえ! 頭を上げてください! 私、ジュリー様と一緒に行動するのが楽しくて……」
そうだ。
私、楽しかったんだ。
医療助手になりきったり、ジュリー様と解決に向けて作戦を練ったり……。
不謹慎だけど、楽しかったんだ。
「お母様も楽しかったとおっしゃっていましたよ」
ニール様は優しく笑う。
「そ、それなら、良かった、です」
私も何とか笑う。
「私たちは、ココに何かお礼をしたいと考えています。何か希望はありますか?」
希望……か。
ここで勇気を出して、「ニール様と結婚したい!」と言ったら、叶えてくれるのだろうか。
いやいや、叶ったとしても、「一生片思いな結婚」をしても、虚しいだけだ。
他の希望を言おう。
ほら、何かあるでしょ。
私の頭の中、好きな人との結婚だけじゃないでしょ。
お金とか、宝石とか言えばいいんだよ。
「今すぐには思いつきませんか?」
「うう……、はい……。ニール様との結婚以外の希望が思いつかないといいますか……」
私はハッとなる。
今、私、言っちゃってましたよね!?
「すみませんが、私との結婚は、お礼の希望には入れられないのですよ」
ニール様の淡々とした言葉が、私の心にズシンと重くのしかかった。
そりゃあ、そうだ。
平民の村娘Bが、貴族の侯爵子息様と結婚できるわけがない。
でも、じゃあさ、希望を持たせるようなことを言わないでほしかった。
どこかの伯爵家の養女になって……が出来るのかもって、ちょっと期待しちゃったじゃないか。
幽体で良かった。
体があったら、泣いてたよ。
「私とココの結婚はもう決まっているのですよ。なので、別のお礼を考えて欲しいのです」
「そうですか。もう決まっているのですね。私に別のお礼なんて……、え? 何が決まってるのですか?」
幽体のニール様はふふっと笑う。
「私とココの結婚です。嫌ではないようなので、安心しました」
「ち、ちょっと、ええっ!? あの、ニール様は、嫌では……?」
「嫌ではないですよ。ココは私の癇に障らないので」
私は一瞬で現実に引き戻された。
「か、癇に障らない……」
「はい。私は勘が良すぎて、大体の女性は癇に障るのですよ。お母様を除けば、シンディとココだけなのです。癇に障らない女性は……」
実はこの、「癇に障る」という感覚、霊感の強い人には良くあるのだ。
相手の心根の部分を強く感じ取ってしまって、ムシャクシャするのである。
この感覚は、相手の心根の善悪ではなく、相性や霊感の強さの度合いだったりするので、ニール様も相手も悪くないのだが、何も知らないその相手から見ると、ニール様はワガママで気難しい人物に見られてしまう。
そして、当然だが、「癇に障らない」イコール「好き」ではない。
つまり、これは、あれだ。
「一生片思いの結婚」ってやつだ!
「ああ、もう時間がありませんね。では、希望は考えておいて下さいね」
ニール様はそう言うと、スッと体に戻り、スッと立ち上がり、スッと使用人部屋から出て行った。
どうする?
喜ぶ? 悲しむ?
私は少し考えた後、決心した。
「やったぁ! イケメン侯爵子息様と結婚だ! 玉の輿だ!」
もちろん、棒読みだった。
仕方ない、演技力はないのだ。




