21.仕事は成功しても……
ジュリー様が料理人とメイドに「男女の仲」を仕込んだ翌日、私は急遽体調不良になり、ギルバートの助手をお休みすることになった。
医者相手に体調不良の演技は自信がなかったが、どうやら信じてもらえたようである。
「ココさん、あれはやっぱり、演技というより気迫でしたわ」
私の中のジュリー様は溜息をつく。
私は、演技と気迫の違いが分からず首をひねったが、結果良ければどちらでもいいかと思うことにした。
「それでは、あの2人の様子を幽体で見に行きます! ジュリー様はベッドで寝ていて下さいね」
私は軽々と幽体離脱し、部屋を出た。
私が幽体で厨房へ行くと、料理人とメイドが仲良く手を繋いで厨房を出て行くところだった。
一応あとをつけると、2人は料理人の部屋に入っていった。
さすがにこれ以上覗くのは無粋というものだ。
それに、好都合なことに、料理人の部屋はギルバートの寝室と薬の保管部屋から一番離れている。
私は急いで私(ジュリー様)の元へ戻った。
私は特にコソコソせず、ギルバートの寝室に入った。
ベッドサイドのチェストの隠し引出しから、スペアキーを取り出す。
「まあ! そんな後ろに引出しが付いているのですね!」
私の中のジュリー様が感心したように言う。
一種のカラクリ箱ですよね!
チェストの後ろにこんな小さな引出しがあるとは誰も思いません。
幽体の時は引出しを手で開けることが出来ず、中を直接覗いたので偶然見つけることが出来たのですよ!
私は鍵をポケットに入れて寝室を出る。
「ココさんの能力はとてもすごいものですわ!」
私の中のジュリー様は、私を手放しで褒める。
ジュリー様の方がすごいですよ。
あの2人を本当に取り込み中にしてしまうのですから!
私の結婚相手はジュリー様に選んでいただきたいです!
私は薬の保管部屋の鍵を開けて中に入る。
「ええ? ニールではいけませんか?」
私は保管部屋の壁を押して、今度は隠し部屋に入る。
それは、いくらなんでも、ニール様が可哀想ですよ。
ジュリー様との橋渡しはやりますので、ニール様はもっとちゃんとしたご令嬢と結婚するべき……
「ニールはココさんを気に入っていますわ!」
私の中のジュリー様は、大きな意識を私に送ってくる。
私は木箱をスペアキーで開けながら笑った。
それは、ジュリー様が中にいるからですよ……。
「そんなこと……、ああっ! この薬ですわ! 大きさも色も!」
木箱の中の薄いクリーム色の錠剤を見て、私の中のジュリー様は叫んでいる。
私はその薬を持っていた封筒に入れる。
ここまでやったらさすがにギルバートにバレるだろう。
薬というのは、逐一、残量を確認するものである。
というわけなので、このままトンズラである。
悪いことをしているのは、ギルバートなので、私には驚くほど何の罪悪感もない。
バレるのを少しでも遅くするため、木箱や鍵を元通りにし、退職する旨の置き手紙を自室に置き、まとめてあった荷物を持って私はギルバートの家をあとにした。
途中でギルバートと会うのを避けるため、少々高いが、貸切馬車を借り、急いでコイラーン侯爵家のお屋敷まで帰る。
執事様が珍しく「よくやりましたね!」と褒めてくれて、私は少しホッとした。
薬や手紙を執事様に渡して、個室の使用人部屋のベッドに寝転がる。
侯爵様やニール様もきっと褒めてくださるだろう。
薬を調べれば、ジュリー様殺害の真相も明らかになるはずだ。
全てが終わった時、霊体であるジュリー様の未練がなくなった時、私の役目も終わる。
ニール様との、接点がなくなる……。
ああ、せめて、男爵家でもいいから、貴族に生まれ変わっていれば良かったなぁ……。
「ココさん、あなたやはりニールのことを……」
私の中のジュリー様が呟く。
私はアハハと笑った。
「こんな気持ち、嫌ですね……。私、叶わない恋ばかり……。もう、傷つきたくないのに……」
霊感の強さで仕事が上手くいっても、恋愛は全く上手くいかない。
ケビンに振られて、ニール様をあきらめて、これ以上出会いがあるのだろうか?
あったとしても、また振られるのでは?
全国の恋が成就している人は、ものすごい奇跡を体験しているのだなぁ……。




