19.幽体離脱で鍵探し
不穏な手紙と薬を発見した翌日、私は怪しまれないように医療助手の仕事をキッチリやり遂げた。
午前の往診は、カルテをしっかり記入し、器具を言われる前に素早く出すなどの対応をした。
午後の病院勤務は、他の看護師の手伝いまでした。
ギルバートの自宅に戻った頃には、私の評価はかなり上がっていた。
「いやあ、突然雇ってくれと言われた時は、正直困ったけど、助手がいるというのもいいものだと理解したよ」
そう、ギルバートは助手を付けないで診察をする医師だった。
まぁね、助手がいたら、悪事を働きにくいものね。
「お役に立てて良かったです」
私はニッコリと笑う。
ふと、視線を感じて振り向くと、昨夜ギルバートと取り込み中だったメイド(32歳)が私をジロリと睨んでいる。
睨まなくてもいいですよー。
こんな性悪オジサンとったりしませんので!
ギルバートは決してイケメンではない。
年は45歳で身長は私より少し高いくらい。
バツイチで今は独身。
でも、どの世界でも、医者は高収入なのでモテるらしい。
「私なんてまだまだですので、自室で医学書を読んで参ります。それでは!」
私は、笑顔のまま軽く会釈すると、スタタターと足早に部屋に戻った。
ここからは、幽体離脱をして鍵を探る!
あと、ギルバートの信用を得るのは大事だが、決して男女の雰囲気を出してはいけない。
揉め事はゴメンである。
自室のドアをバタンと閉めると、私の中のジュリー様が、ふふっと笑った。
「睨んでましたわねー、あのメイドさん」
私もふふっと笑う。
「心配しなくても、大金積まれても、絶対にごめんですよ!」
私(ジュリー様)にカモフラージュ用の医学書を持ってもらい、私は幽体離脱をして屋敷探索に出た。
厨房に行くと、料理人の男性と先程のメイドが何やら話している。
「旦那様は私の彼なのに、あの小娘、許せないわ!」
メイドは金切り声で叫ぶ。
いや、だから、いらないって!
「じゃあ俺があの助手の女を誘惑してやるよ!」
料理人の男(30歳くらい?)は自信満々に言う。
いやぁ、顔が全然好みじゃないわー。
悪いけど、誘惑されないわー。
しかし、面倒な事態になりそうではある。
これはサッサと薬を奪って退職しなければならない。
それにしても、私は本当に男運がない。
……いや、ニール様は別だけど。
ニール様、本当に私と婚約する気なのだろうか。
ニール様だったら、美人な貴族令嬢を娶れるだろうに。
もしかしたら、ジュリー様をずっと降霊させていろってことを遠回しに言っているだけかもしれない……?
あっぶなー!
また勘違いするところだったよ!
ニール様が私をなんて、あり得ないよ!
私は、幽体なのに少し痛む胸を押さえながら、鍵の在処を屋敷中探し回った。
私が鍵の在処をつきとめてギルバートの屋敷内の自室に戻ると、私(ジュリー様)に料理人の男が詰め寄っていた。
「勉強の邪魔ですわ! 帰ってください!」
私(ジュリー様)はドアを閉めながら言う。
しかし料理人の男の足がドアに挟まれていて、ドアが閉められない。
「ココットさんのためにデザートを作ったんだよ! ぜひ食べてみてよ!」
料理人らしい誘惑の仕方で男は諦めない。
まさかもう誘惑しにくるとは思わなかった!
私は急いで自分の体に戻り、ジュリー様に「代わります!」と言って瞬時に入れかわり、男の足を蹴っ飛ばしてドアから離れさせると、ドアを思い切り閉めた。
「このアマっ!?」
「二度と来ないでくださいっ!」
私は言い放つと、鍵をガチャリとかける。
私の中のジュリー様が「まあ!」と声を上げた。
「ココさんは言い寄ってくる男性相手でも強気な時があるのですね!」
「顔が全く好みではありませんから……ではなくて、私を誘惑する相談をあのメイドとしてたのです!」
思わず本音が出た私を、ジュリー様は「あらまあ」と笑う。
「そんなことよりジュリー様、鍵の在処が分かりましたよ!」




