15.解決のお礼
クレアール公爵領からコイラーン侯爵領に2日かけて戻り、ニール様の部屋に入った私は、「念」が綺麗さっぱり消えていることに驚いた。
直接クレアール公爵夫人様と話して分かったが、公爵夫人様は旦那様であるクレアール公爵様をちゃんと大切に想っているのだ。
ニール様に悪いことをしてしまったという懺悔の念が、元々霊感が強かったこともあり、増長してしまったということだったようだ。
それにしても、もう少し「念」が残るかもと思っていたのに、こんなに綺麗さっぱり消えていると、ちょっとニール様が気の毒ではある。
「ココさんが、念が綺麗さっぱり消えているとおっしゃってますわ!」
私(ジュリー様)が私の思考をそのままニール様に伝える。
「はい。2日前に急に体が軽くなりました。お母様、ココ、ありがとうございます」
少し複雑な表情をしながら、ニール様は頭を下げる。
「わたくし、ココさんに何かお礼をしたいのです。ニールから差し上げていただけますか?」
そう言った後、ジュリー様は私とスッと交代した。
「えっ!? お礼なんていいですよ!」
私は急に交代されて、慌てて手を横にふる。
「いえ、ぜひ、お礼をさせてください。何か希望はありますか?」
私はニール様に見つめられて、思わず目をそらした。
お顔が良いから直視できな……そうだ!
「あの、私、今世は結婚をしてみたいのです!」
「結婚ですか? ココは前向きですね」
ニール様はふっと笑う。
婚約破棄されたのに、ということだろうか。
でも、そんなことを言っていても始まらないと私は学習したのだ。
「はい! ですので、このお屋敷のなるべく顔が良くて背が高い30歳以下の使用人の男性を紹介してください!」
私は大真面目に言ったのだが、室内はしんとなった。
いや、元々、ニール様と私しかいないのだけど。
「……ココは、結婚出来れば誰でも良いのですか?」
ニール様は呆れたように私を見た。
「誰でもではありません! 顔が良くて……」
「それを誰でもというのです!」
ニール様は思いのほか強い口調でピシャリと言い放った。
「懲りていないのですか!? 外見だけで選んで酷い目に遭ったでしょう!」
「ケビンは外見だけで選んだのではありません! 小さい頃から仲が良かったのです! ケビンは……」
「あの男の話をまだするのですかっ!?」
ニール様の大きな声が部屋中に響き渡った。
また、怖いニール様だ……。
私の体が条件反射でふるふると震え出す。
「……あ……、すみません、大きな声を出して……」
「……いえ……」
なんで、私がニール様に怒られなくてはいけないの?
希望を言えって、ニール様が言ったのに!
「とにかくですね、私はココの相手探しは出来ません。ご自分で尽力してください……」
ニール様は吐き捨てるように言って、私から目をそらした。
別にいいけどさ。
もともと、お礼なんていらなかったしね。
私は「はい……」と呟いて、ニール様の部屋を後にした。
「あの子があんな風に怒るなんて……」
ずっと黙っていた私の中のジュリー様がポツリと呟いた。
私は通路の窓を拭きながら、そうかな? と思っていた。
私はこの短期間で怖いニール様を2回見ているからだ。
「ニールはいつも冷静というか、穏やかなのですよ?」
ふぅん……。
そういえば、2回とも私に怒っていたっけ。
もしかしたら、ニール様に嫌われているのかもしれない……
「そんなことはありませんわ!」
ジュリー様が慌てたように言う。
ジュリー様は優しいなぁ。
「大丈夫ですよ! 私の価値なんてジュリー様と話せるという一点だけですから、嫌われていてもどうってことありません。それより、本格的に男探しをしないと……」
「男探し、本当にやるのですか?」
「はい! あ、夜はちゃんとジュリー様と交代しますのでご安心ください!」
そう、夜はジュリー様に完全に体を貸しているのだ。
毎日、仕事が終わった侯爵様と私(ジュリー様)は、仲睦まじくお話をされている。
そもそも私は、そのための、異例の個室を与えられた使用人なのだ。
しかし、このことが、私の男探しをさらに困難にさせるのだった……。




