14.悪いのはニール様
「でも、全てわたくしが悪いことですので、どうやって『念』を消したらよいのか……」
「ニールのことなんて、頭から消せばいいのですよ!」
「ですが……」
うーん……。
クレアール公爵夫人様の部屋で、私(ジュリー様)と公爵夫人様のやり取りを聞きながら、意識下の私はうなっていた。
だって、このやり取り、もう20分くらい続けている。
このままでは、エロ医者(私の中で降格)が部屋に入ってきてしまう。
公爵夫人様は、自分が全て悪いと思いすぎなんだよね。
私はジュリー様に「代わってください」とお願いした。
私に戻った私は、公爵夫人様に頭を下げる。
「私、降霊術師のココと申します。恐れながら申し上げます。公爵夫人様は悪くありません。悪いのは、ニール様です!」
「な、何を言っているのですか!? ニール様は何も悪くありません! それどころか、一夜を別の男性と過ごしたわたくしを一度も責めませんでした!」
公爵夫人様は大きな蒼い瞳の上の眉を吊り上げた。
「……そもそもですね、どうして別の男性と一夜を過ごすことになったのですか? ニール様が公爵夫人様をほったらかしにしたのではないのですか?」
「それは……、ニール様は、お忙しくて……」
ほらぁ!
婚期引き延ばしの上に、ほったらかしじゃん!
「その上、どこかの令嬢に『ご結婚はまだですの?』とか、『やはり年上の女性は嫌になったのでは?』とか無責任なことを言われたのではありませんか!?」
「どうしてそれを……!?」
公爵夫人様は驚いて目を見開いている。
「それもこれも、ニール様が婚期を決めずに、仕事にかまけていたからです! 何が大人になってからですか! 男なんて、いくつになっても子どもなんですよ! 待っていても大人になりません!」
後半は前世の祖母からの受け売りである!
「男は子ども……? そういえば、旦那様も妙に子どもっぽい時が……」
公爵夫人様は何かを思い出す様な顔をする。
私の中のジュリー様も「そうね……」と呟く。
「つまりですね、悪いのは女性と女性社会を理解していなかったニール様なので、もうニール様はほっておきましょう!」
「で、でも……、ニール様はまだご結婚も……」
公爵夫人様はゴニョゴニョと口ごもる。
あー、深く傷付けたせいで結婚できないのでは、と責任を感じているのか。
「ニール様はお顔がとっても良いので、体調さえ良くなれば、勝手に結婚しますよ! 美男美女への結婚の心配なんてはっきり言って無用です! それより私の結婚を心配して下さい!」
「……え? ココさんのご結婚ですか?」
「はい! 私、先日婚約者を寝取られて婚約破棄になり、コイラーン侯爵家に雇われたものの、忙しくてまだ男探しに行けていないのです! 今世は絶対に結婚してみたいのです! だから……」
見ると、公爵夫人様は顔を背けて体を震わせている。
わ、笑われている!?
そりゃあ、ニール様の婚約破棄は悲恋で、私の婚約破棄はギャグだけど!
これでも真剣に婚活をしなければと……
あ、私の中のジュリー様も笑っている!?
「……申し訳ありませんわ……。婚約破棄されたのにとても明るいので驚きまして……」
公爵夫人様は笑いを堪えながら謝る。
「いいえ、本当はウジウジと泣き暮らしていたのです。でも、ニール様とジュリー様が私に断ち切る力をくれました。起こってしまった出来事は変えられません。私たちは前に進むしかないのです」
私は精一杯笑った。
これは、公爵夫人様にというよりは、自分自身に言った言葉である。
私は代わりたそうなジュリー様と交代をした。
少々、でしゃばりすぎてしまった。
「シンディ、クレアール公爵様はお優しいですか?」
私(ジュリー様)は、優しくほほ笑む。
「……はい。お優しくて、わたくしにはもったいないお方です」
公爵夫人様は目を伏せる。
「それでしたら、安心しました。どうか旦那様を大切に想って暮らしてください。もう旦那様と暮らすことが出来ないわたくしからの最後のお願いですわ」
「ジュリー様……!」
公爵夫人様は、はらはらと涙を流した。
そうだった。
ジュリー様は亡くなっているのだった。
私の中にジュリー様がいることが、あまりにも自然なのでおかしな気持ちだ。
ここまで話したところで、モンサリー医師と使用人3人が部屋に入ってきた。
何故か少し顔色が良くなった公爵夫人様を見て、使用人たちとモンサリー医師は安心したようだ。
こうして、私とジュリー様は、無事に「念」のことを公爵夫人様に伝えることが出来たのだった。
しかし、クレアール公爵家を出たところで、私はモンサリー医師に手を掴まれた。
「ココットさん、これから食事に行きませんか?」
うん、そうくると思ってました!
「すみません、私、今日限りで助手を辞めさせていただきます!」
私は笑顔でそう言うと、手を振り払い、全速力で走って逃げた。




