12.ニール様を助けたい
私がクレアール公爵夫人様に伝えに行くと言ったものだから、ニール様は驚いて席を立って「いけません!」と叫んだ。
「公爵夫人ともなると、一人で行動することはありません! 平民のココが会いに行っても、話をすることさえ出来ません!」
そんなことは、私だって分かっている。
この世界は前世と違って、身分がものを言う。
「クレアール公爵夫人様は、ニール様と同じく霊感が強いのですよね。でしたら、ジュリー様のことが分かると思うのです」
ニール様だけを立たせておくのもと思い、私もソファから立ち上がって言う。
「あ……!」
ニール様はハッとした表情になる。
「先程から、ジュリー様のクレアール公爵夫人様を心配する気持ちが私に流れてきています。ジュリー様とクレアール公爵夫人様はとても仲が良かったと推測します!」
私の言葉に、ニール様はうつむき、私の中のジュリー様は「はい、そのとおりですわ」と言った。
「何とか公爵夫人様に近づけさえすれば、ジュリー様だと気付いていただけると思うのです! そして、ジュリー様のお言葉でしたら、受け入れていただけます!」
私は両手をぐっと握ってニール様に力説する。
「し、しかし、それでは、ココとお母様に任せきりにしてしまうことに……」
「ジュリー様は良いと言っております! もちろん私も大丈夫です!」
ニール様は顔を上げて私を見た。
「ココは、何故そこまで……?」
私はニール様に見つめられて、思わず目をそらした。
だって、お顔が良いのだもの!
「……ニール様は、私をケビンから解放してくださいました。私、情けない話、本当にウジウジ泣き暮らしていたのです。しかも、やり直さないかと言われそうになった時、少し絆されそうでした。そんなことをしたら、最悪の結果になると分かっていたのに、です。だから、ええと、これは恩返しなのです!」
私は胸を張って答えた。
そうだ、これは、恩返しだ!
ニール様はふふっとほほ笑んだ。
「……ココは、本当に素直ですね。私もココくらい情けなく後ろ向きになれていたら……」
うん、それ、全然褒めてないよね!
やっぱりニール様は性格が悪いかもしれない!
すると、さっき出て行った執事様が慌てた様子で戻ってきた。
「ニール様! クレアール公爵家に、ここ何年か医師が何人も訪問しているようです! 確実に病気の方がいらっしゃると思われます!」
私とニール様は顔を見合わせた。
これは、あまりのんびりしていられない!
クレアール公爵夫人様は、殆ど外出せず、王家や他の公爵夫人との交流もあまりしていないらしい。
私は、25歳のニール様の婚約者だったという情報で、勝手にクレアール公爵夫人様を25歳くらいだと思っていたのだが、クレアール公爵夫人様は現在30歳、クレアール公爵様は40歳だった。
メイド仲間のリリアンから、ニール様の婚約は10歳の時だと聞いている。
ニール様、年上好きだった!
ニール様が婚約破棄された年齢は19歳。
その時夫人は24歳。
つまり、24歳まで、未婚だったということだ。
この世界では、女性の24歳は完全な行き遅れだ。
まあ、前世25歳まで彼氏がいなかった私に言われたくはないか。
年下イケメンの成長を24歳まで待ち続けた女性が浮気か……
「何か気になりますの?」
私の中のジュリー様が尋ねてくる。
今私は、倒れたこともあり、あてがわれた使用人部屋(なんと個室!)で休憩中だ。
とりあえず、ニール様と執事様が情報を集めてくれるまで待機である。
「勝手な想像ですけど、シンディ様……とこの場ではお呼びしますね、その、5歳年上だったシンディ様は、もしかしたら不安だったのでは……と思いまして……」
「不安? 何に不安なのでしょう?」
ジュリー様の疑問の感情が流れ込んでくる。
「上手く説明できませんが、本当に私でいいのかしら……とか、ニール様にはもっと若い令嬢が相応しいのではないかしら……とかですかね……」
「そんなまさか! シンディは美人で奥ゆかしく申し分ないご令嬢でしたわ! ニールから申し込んだのですよ!」
ジュリー様が大反論してくる。
うお! ニール様、10歳で15歳のシンディ様に申し込んだのか!
ニール様はシンディ様に惚れ込んでいた。
シンディ様の念は、激しい後悔だった。
あんなに強い念なのだから、シンディ様もニール様が好きだったに違いない。
じゃあ、何故、浮気をしてしまったの?
「あの、ジュリー様。ニール様とシンディ様はいつご結婚の予定だったのですか?」
私は「マリッジブルー」的なものかと思い、ジュリー様に尋ねる。
「……結婚はいつとは決まっていませんでした。ニールが先延ばしにしていたのです……」
「ええっ!? 何故ですか!?」
「自分がしっかりした大人になってからと思っていたようです」
それ、ダメなやつーッ!!
世間的に行き遅れた女性が、結婚を先延ばしにされるストレスを分かっていないな!?
いや、私も知らないけどね!?
「そ、そうなのですか!?」
ジュリー様が私の思考を読み取って疑問を投げかける。
「少なくとも私の元いた世界ではそういう状況が多数ありました(ネット情報)!」
「まあ! わたくしは17で嫁いで参りましたのでその状況がよくわかりませんわ!」
「既婚の友人から、『彼と結婚はまだなのー? その気がないんじゃないの? あ、私2人目出来たのよー』とかマウントを取られるんですよ(ネット情報)」
「な、なんだかよく分かりませんが、恐ろしいですわ!」
そう、マウントというやつは、なんだかよく分からないのに、恐ろしいのだ!
これは、ニール様とシンディ様の気持ちがすれ違った末の悲劇かもしれない……。




