↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【善行】で地球兵器を呼ぶ戦術医官。不殺のCQCと治療(物理制圧)で敵を絶望させ、ヤンデレ兎姫や元暗殺者と最強の村を創る  作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
5/12

EP 5

医官の悪知恵と、たまんネギの賢者モード〜血を流さない最凶の制圧戦術〜

 ポポロ村の診療所は、阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。

 ベッドや床に横たわる十数名の農民たちは、激しい痙攣を起こし、口から白い泡を吹いている。瞳孔は針の先のように収縮(縮瞳)し、呼吸は浅く、極めて危険な状態だった。

「優太様……! みんな、息が……っ」

「慌てるな。スペースを開けろ」

 駆けつけた優太は、瞬時に患者たちのバイタルを視診で確認する。

 縮瞳、痙攣、発汗、呼吸困難。これは魔法による呪いなどではない。

「典型的な有機リン系中毒……農薬(サリン等の神経ガスと同系統)の症状だ。連中、畑を枯らすついでに、揮発性の猛毒を撒きやがったな」

「毒!? なら、私の月光薬で——」

「だから、お前は自分の命を削るなと言ったはずだ」

 前に出ようとするキャルルの額を指でピンと弾き、優太は医療リュックを開けた。

 現在、優太の【地球ショッピング】の善行ポイント残高は、村のドブ掃除や魔獣の解体処理などを経て『850 P』まで貯まっている。出し惜しみする場面ではない。

「展開。アトロピン硫酸塩、およびPAM(プラリドキシムヨウ化メチル)の自動注射器を人数分」

 光の陣と共に、コトンコトンと大量の医療キットが床に現れた。

 優太は無駄の一切ない動作で、次々と農民たちの太ももに自動注射器(オートインジェクター)を押し当てていく。ガチャン、ガチャンという硬質な音が響くたび、拮抗薬が患者の体内に打ち込まれた。

 数分後。

 あれほど激しかった農民たちの痙攣が嘘のように治まり、正常な呼吸と血色が戻り始めた。

「……よかった。バイタル安定。峠は越えたな」

「信じられません……。魔法も、私の月光薬すら使わずに、こんな一瞬で死の淵から引き戻すなんて……」

 キャルルは、優太の横顔を食い入るように見つめていた。

 どんな奇跡の魔法使いよりも頼もしく、誰よりも命の重さを知っている。キャルルの『ヤンデレレーダー』が限界を突破し、その瞳にはもはや信仰に近いハートマークが浮かんでいた。

「優太様……私、あなたの言うことなら、これから何でも聞きます。右腕を切り落とせと言われたら、笑顔で落とせます……♡」

「物騒な誓いを立てるな。外傷患者が増えると俺の仕事が増えるだろうが」

 優太が呆れ気味にため息をついた時、診療所の入り口から、タバコの煙を纏った龍魔呂が姿を現した。

「患者の具合はどうだ、ヤブ医者」

「トリアージは完了した。全員命に別状はない。そっちの偵察はどうだった?」

 優太の問いに、龍魔呂は真鍮のライターをカチリと鳴らす。

「ビンゴだ。村から北に数キロ離れた森の中に、ゴルド商会の紋章をつけた野営地があった。ざっと三十人。重武装のプロの傭兵どもだ。毒で村の自警団が弱ったところを、明日の朝駆けで皆殺しにして、土地を奪う算段らしいぜ」

 三十人の重武装傭兵。

 まともにぶつかれば、自警団にも必ず死傷者が出る。

 だが、優太の辞書に「味方の犠牲を前提とした作戦」は存在しない。

「マスター。奴らの兵站——『食料』はどうなっていた?」

「大きな寸胴鍋で、ロックバイソンの肉を煮込んでたぜ。これから決起集会も兼ねて、宴会でも始めるツラだったな。……どうする? お得意の『眠り薬』でもぶち込むか?」

 龍魔呂がニヤリと笑う。しかし、優太は首を横に振った。

「睡眠薬だと、食事中に数人が倒れた時点で異変に気づかれる。毒殺なんてもってのほかだ。……もっと確実で、相手の『闘争心そのもの』を破壊する非致死性兵器を使う」

「ホォ。そんな都合のいい兵器が、お前のリュックに入ってんのか?」

「リュックじゃない。さっき、農家のおっさんを助けた時に『お礼』でもらった、この村の特産品だ」

 そう言って優太が取り出したのは、ピンポン玉より一回り大きな、土気色の『玉ねぎ』だった。

 ただの野菜ではない。

 その玉ねぎは、短い根っこの手足を器用に動かし、ルナミス新聞社が発行する『エロ本』のグラビアページを開きながら、ねっとりとしたオヤジ声を発していた。

『たまんねーなオイ! ゲヘヘヘッ、このエルフの姉ちゃんの胸の谷間、最高だぜェ……!』

「…………」

「…………」

 龍魔呂の顔から表情が消え、キャルルは「ひっ」と顔を赤らめて目を逸らした。

「優太。なんだ、そのふざけた植物は。俺は今、極めて真面目な戦術の話をしてるんだぞ」

「俺も大真面目だ。こいつは意思を持つ魔性野菜『たまんネギ』。極度の煩悩の塊だが……こいつからエロ本を取り上げると、どうなるか知っているか?」

「知るか」

 優太は冷酷な顔のまま、たまんネギの手からスッとエロ本を取り上げた。

『あッ!? 俺の癒やしが……! エッ、あっ、アアァァァ……』

 たまんネギの卑猥な顔つきが、一瞬にしてスウッ……と透明感を増し、まるで長年の修行を終えた高僧のような、透き通った仏の顔(賢者)へと変貌したのだ。

『……私は悟りました。色欲など所詮は現世の幻。争いも、憎しみも、すべては虚無。さあ、私を煮込んでお食べなさい。私の身を以て、あなたたちに真の平和(ニルヴァーナ)を与えましょう……』

 後光すら差しているかのような神々しい声。

 優太は真顔のまま、龍魔呂に向き直った。

「このように、極限の『賢者モード』に突入したたまんネギは、肉質が極限まで柔らかくなり、スープに絶妙な甘みとコクをもたらす。……だが、これを食べた者は、ネギの強烈な精神波(賢者モード)に感染し、一切の闘争心と性欲を喪失するんだ」

「…………」

「マスター。お前の潜入スキル(縮地)で、これを奴らの鍋に放り込めるか?」

 死を呼ぶ四番として裏社会を震え上がらせた龍魔呂は、手元の賢者ネギと、優太の冷徹な目を交互に見比べ——やがて、深々とため息をついた。

「……お前、マジで悪魔だな。俺は暗殺者として色んな殺し方を見てきたが、人間の『尊厳』を真っ向からへし折るこんなエグい兵器は初めてだぜ」

「これも立派な不殺(非致死性)の制圧だ。行くぞ」

 ***

 深夜の森。傭兵たちの野営地。

 中央の焚き火には巨大な寸胴鍋がかけられ、ロックバイソンと野菜のシチューがぐつぐつと煮立っていた。

 龍魔呂は気配を完全に殺し、歩法『縮地』で音もなく鍋の真上に到達。ポイッ、と『賢者モードのたまんネギ(みじん切り)』を三つ分、鍋に投下した。

 暗殺術の最高峰を「鍋への野菜投入」に使った龍魔呂は、チッ、と舌打ちしながら木の上へと帰還する。

「おっしゃ野郎ども! 明日の大仕事の前に、精をつけるぞ! 食え食え!」

「ヒャッハー! 毒で弱った村の女どもを攫うのが楽しみだぜェ!」

 下品な笑い声を上げながら、三十人の重武装傭兵たちが次々とシチューを器に盛り、胃袋に流し込んでいく。

 優太、龍魔呂、キャルルの三人は、少し離れた茂みから暗視スコープ越しにその様子を観察していた。

「……食ったな」

 優太が呟いた、その十秒後。

 野営地に満ちていた野卑な喧噪が、ピタリと止んだ。

「…………」

「…………」

 スプーンを口に運んだ傭兵たちの動きが、まるで時が止まったかのように静止した。

 やがて、血の気の多かった傭兵のリーダーが、手にしたシチューの器を見つめながら、ポロリと涙をこぼした。

「……俺たちは、なぜ争うのだろうか」

「えっ?」

「金のため? 土地のため? ……いや、そんな物質的な欲求など、宇宙の悠久の歴史から見れば、砂粒ほどの価値もないのではないだろうか。俺は……ただ、故郷の田舎で、母さんの作った麦粥が食べたかっただけなのに」

「リ、リーダー……?」

 傭兵の一人が、手にしていた凶悪な戦斧を地面に落とした。

 彼は夜空の星を見上げ、うっとりとした表情を浮かべる。

「あぁ、なんて美しい星空なんだ。この星の輝きの前に、人の命を奪うことの何と虚しいことか。……俺は、詩人になりたい」

「俺は花屋になるよ……争いはもう、うんざりだ……」

 バタバタと武器が捨てられる音が響く。

 三十人の屈強な傭兵たちは、焚き火を囲んで肩を寄せ合い、宇宙の真理や命の尊さ、そして己の罪深さについて、とめどなく語り合い始めた。完全に毒気が抜け、全員が『極限の賢者モード』に突入したのだ。

「……制圧完了(ミッション・コンプリート)。突入するぞ」

 優太が茂みから立ち上がり、堂々と野営地の中央へ歩み出る。

 侵入者に気づいた傭兵たちは、武器を構えるどころか、安らかな笑みを浮かべて優太たちを歓迎した。

「あぁ、ポポロ村の方ですね。どうか、我々を縛り上げてください。我々の手は、あまりにも多くの罪で汚れすぎてしまった……」

「さあ、きつく縛ってください。それが我々の贖罪への第一歩なのです」

 傭兵たちは自ら両手を前に差し出し、一列に並んで拘束を求めてくる。

 優太は無表情のまま、結束バンド(タイラップ)を使って、三十人の傭兵を手際よく縛り上げていった。

「……な、なんだこれ。すげぇ」

「ある意味、宗教の洗脳よりタチが悪いぜ……」

 一切の抵抗なく、むしろ感謝されながら捕虜になっていく傭兵たちを見て、キャルルは感嘆の声を漏らし、龍魔呂は額に冷や汗を浮かべていた。

「血を一滴も流さず、骨一本折らずに、重武装の一個小隊を完全無力化した。……お前、殺し屋よりよっぽど悪魔的な頭(タチ)してるな、ヤブ医者」

 呆れ返る龍魔呂を尻目に、優太はアメリカン・スピリットに火を点けた。

 紫煙を吐き出しながら、縛り上げられた傭兵たちを見下ろす。

「言っただろ。俺は絶対に殺さない。だが、二度とこの村を襲おうと思わせないだけの絶望(賢者タイム)は与えるとな。……さて、これで村への直接的な脅威は排除した」

 優太の瞳が、ふたたび冷徹な医官の光を取り戻す。

「だが、ゴルド商会の悪徳商人本人が残っている。病巣の『核』を切除するまで、俺たちのオペは終わらないぞ」

 狂気の衛生兵の『悪知恵』が冴え渡るポポロ村の夜。

 優太たちの完全な盤面支配による、反撃の狼煙が上がった。

読んでいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけましたら、★評価やブックマークで応援していただけると励みになります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。