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ボクは仕事につかれました。  作者: 新京極宮子
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第三章③ 仕事頑張ってます 

 なんだろうこの感じは。気持ち悪いような不安にかられる。とんでもなく大変なことをしてしまったような気がする。

 慌てて鞄を持って、廊下へ飛び出し、かかってきた番号に電話をかける。しかし、何度かけてもコール三回で留守番電話へと接続される。脳裏に雨雲がかかったように、更なる不安が僕の頭を駆け巡る。

 何をすれば正解? 何をするべきだ。それでも今、僕ができることは本社へと向かうことしかできない。下駄箱へ着くと靴を放り投げるようにして落とし、履きかえて校門へと向かう。

 

 じいやは今日リリの方へ付いているので、一人で本社へ向かうことになっている。

 全力で校門を出ると、一刻も早く本社へ行かなくてはならないという気持ちが先行し、タクシーなど考えもなく、そのまま走って本社へと向かう。その時、僕の不安が最高潮に達する出来事が起こった。

 

 ピリリリリリリ。


 マナーモードを解除した電話が鳴り始めた。どうしてもその音が恐ろしい音に聞こえる。本当は取りたくもない電話だが、二度も無視するわけにはいかない。


「は、はい」


 僕は何も考えることなくワンコール目で電話を取った。


『玄崎だ。おい、貴様、さっき電話がかかって来なかったか? 何故出なかった?』


 当然その件だった。


「えと、あの、ちょっと電話に気づかなくて……」


『コール二回以内に必ず出ろと忠告していただろ……まぁいい。ここで出なかったことは私の監督不行届だ』


 玄崎さんは電話の奥でため息をついている。それでもそれほど怒っている様な声ではなかった。不謹慎にも少しだけ安心してしまう。


「す、すみません。あの、何かあったんでしょうか?」


 電話に出なかったことで、相手先の人が怒っているのかもしれない。何とか謝罪して、今回の件を許してもらうしかない。


『モントレールからの取引の電話だ。そこの社長は機嫌にムラっ気があってな、自分を中心に考えている扱いにくい人間なんだ。電話も一回出ないだけで取引が破談になったりもする』


 そのためにコールは二回までに出ろって言っていたのか……え?


「それって……」


 玄崎さんの言葉に息を詰まらせる。もしかしてという可能性だけが先行し、再び身体が震え始めた。そして、続く言葉に更なる衝撃を受ける。


『つまり、一年前からしていたモントレールとの契約は破談になった』


「え……」


 さっきの電話に出なかったことがこんなに?

 僕は走っていた足を止めてしまう。急いでいることは間違いないのだが、身体が動いてくれない。足がとてつもなく重く感じる。


『黒字見込みだが数百万以上損失が出ているはずだ』


 その場で膝から崩れる。周りが歪んでいるように見える。心臓を槍で一突きされたようだ。

 僕が電話に出なかったことで損失? 数百万円以上? さっきのたった一回の電話に出なかっただけで?

 事態がうまく理解できていない。それでも身体は理解しているようで、全身の震えが止まらない。何も物事を考えられない。電話越しに黙り込む僕に対して、情けをかけたように玄崎さんは声をかけてきた。怒ることもせず。


『やってしまったことは仕方ない。このことはこちらからお嬢には報告しておくから、本社でお嬢の指示を待て』


 プツ……


「あ……」


 なんの言葉を返すこともできずに強制的に電話を切られた。


 仕方ない? 数百万以上の損失が? 待ってくれ。手が、足が震えて立ち上がれない。


 傍にある家の壁に手をかけるも立ち上がれない。放課後なので帰宅途中の生徒たちが僕を不思議そうに見ている。

 どうすればいいんだ。報告? 

 僕にできることなど、玄崎さんの言うとおり、リリに会いに行くことしかできなかった。重すぎる腰を決死の思いで上げると、目の前には見覚えのある黒い車が止まる。

 僕の帰宅時間を待って迎えに来たのか、逃げるのを阻止するために現れたのかはわからないけれど、降車してきたじいやは無言で僕を車に乗せた。

 じいやもわかっているはずだ。僕に行く場所は一つしかないことを。こういう時の時間は本当に早く感じる。心臓が音を立てて鼓動しているのがわかる。

 何分で着いただろうか。今となっては何を考えていたかも思い出せない。頭が真っ白になるというのはこういうことを言うのだろう。


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