01
ヒラヒラと風に舞うスカートが視界に映る。ついで靡く柔らかな茶色の髪。たったいま、空から女の子が落ちてきました。いや、落ちてきたってのはちょっと違う。民家の屋根の上から女の子が降りてきたのだ。『降りてきた』というよりは『降ってきた』のがいいのか?
「なに見てんだテメー」
こちらに気づいたその子は、ガンを飛ばしながら唇を尖らせる。肩にパンダのぬいぐるみを乗せて。そのパンダは白黒ではなく、紅白だ。紅白といっても赤ではなく、紅白まんじゅうのようにピンク色をしている。
「み、見てません……」
その高圧的な雰囲気にオレはすぐさま視線を逸らす。これ以上の言いがかりをつけられたら堪らないからな。
格好を見て一目で解った。彼女は魔法技術者――通称・クラフトだと。なぜ解ったのかといえば、彼女が纏う衣服は魔法技術者しか着れないものだったからだ。
学生服のような白いブラウスと淡いピンク色のスカート姿。大きく違うのはブラウスの首回りと裾、そしてスカートにはフリルがついていることだろう。しかもスカートの左右の裾には軽くスリットが入れられている。片側の髪を結わえたシュシュからはさらさらな髪が伸びていた。
この髪型なんだったかなワンテールだっけかな。ツインテールじゃないやつ。
改めて思うんだけど、魔法技術者でなければこんなコスプレのような格好は恥ずかしいだけだろうな。見てる分には可愛いけど、着るとなると戸惑うかもしれない。まあ、そもそも魔法技術者は女の子しかなれないらしいけど。
最近――というか、ここ二、三年ほど前から魔法技術者という存在が認められていた。彼女たちはこの世界の均衡を保つ存在らしい。よく解らないが。
「――嘘吐き。ばっちり見たじゃねぇか!」
彼女は肩に乗るパンダのぬいぐるみを鷲掴み、思い切り投げつけてきた。数センチしか離れていないので、威力はかなりある。
「いてっ!」
いきなりなにをするのか。反動するそれを思わず掴み、抱えてしまう。
「いま地獄に送ってやるから、おとなしくしてろよ?」
「はいっ!?」
いきなりなにを言うのかと、目を見開いて彼女を見れば、彼女は口角を上げていた。恐ろしいくらいに笑顔だ。ただ、目元は笑っていない。それがまた怖い。初対面の相手に暴言とは、肝が据わっているな。
すげえと感心していれば、手に持っていたステッキ的なもの――長細く先がハートマークのように曲がっていて、中央には赤く丸い宝石のようなものが浮いている――でオレの頭を叩く。軽くではなくまたもや思いっきり。痛みで声が出ないなか、女の子だからハートマークなのだろうか、という疑問が痛みとともに広がっていく。
「どうだ?」
「弱ったから送り還すわ」
手のなかのパンダのぬいぐるみが口を開けて空気を吸い込みモゴモゴ動かす。なるほどなるほど。喋るぬいぐるみね。精巧な作りだな。
ぬいぐるみにも感心していれば、彼女はパンダをひったくり、今度はにっこりと笑った。
「――お前がいないと、寂しいから」
そう言って。
それは一体どういう意味か。知り合いではない彼女に、そう言われる謂れはないはずだ。
「あ、ちょっと!」
言うだけ言って、彼女は来た道を戻っていった。つまりは、民家の屋根に。この魔法技術者は、どうやら屋根から屋根を移動しているらしい。猫じゃないんだから道路を普通に歩けばいいのに。
それにしても可愛かったな。乱暴な言葉遣いだったことをマイナスにしても、反ってプラスになる。可愛い子が乱暴な言葉遣いって可愛いと思うし、オレは。ツンデレってやつ? ん、いやちょっと違うか? もういいや。よく解んねーし。
ぐだぐだ巡らせる思考で彼女を思い出せば、胸が高鳴る。これは。マジか。――魔法技術者に惚れたなんて、どうしようか。しっかし、可愛かったからなぁ。
「いってぇ!」
忘れていた痛みがぶり返す。ズキズキと響く痛みの中に聞こえるのは吹き抜ける風の音だけ。面白げににやにや笑っているアイツなんて無論解らない。――オレ、瀬野美陽の『これから』さえも。至極当然に。




