推し騎士の過保護がすぎて、隣国の冷徹皇子が嫉妬の壁に阻まれている
国境を跨いだ先にあるルミナス帝国の会談所は、厳戒態勢のピリついた空気で満ちていた。
前日の一夜――狭いテントでの密着イベントを経て、私の精神エネルギーは全回復どころか上限を突破して限界値を叩き出していた。
(昨夜のレイヴン様の防寒マント包囲網と頭ポンポンを思い出せば、どんな国家間の外交もスライムを討伐するようなものだわ……!)
ウキウキ気分で豪華な応接ソファに腰掛ける私に対し、レイヴンは、漆黒の鎧を纏ったまま鋭い三白眼を部屋中に巡らせている。
眉間の皺は、「今すぐここを爆破して主様を連れ帰りたい」と物語っているかのようだ。
最高にビューティフル。
と、そこへ重々しい音を立てて扉が開き、帝国側の特使が足音高く入ってきた。
「――待たせたな、王国の特使殿」
現れたのは、ゲーム第2部の人気攻略キャラにして、帝国最強の皇子と噂される冷徹非情な男――ルキウスだった。
鮮やかな銀髪に、氷のように冷たいサファイアブルーの瞳。
整いすぎた顔立ちは確かに魅力的だが、原作では「笑顔のまま一国の外交官を精神崩壊させた」というヤバいエピソードの持ち主である。
ルキウスは、失脚したはずの私が特使としてやってきたことが面白くて仕方ないといった様子で、ふっと意地の悪い笑みを浮かべた。
「ほう、王太子から捨てられた敗北者か。よく危険な国境まで来られたものだ。
……おい、近くで顔を見せてみろ。絶望の顔、なかなか趣味がいい」
面白半分に、ルキウスがスッと身を乗り出し、私に手を伸ばそうとした瞬間――。
――ガシャリッ!!
この世の終わりかのような、重く冷徹な金属音が会談所の空気を引き裂いた。
空間の温度が、零下にまで急降下する。
「……触るな」
低い、地を這うような重低音。
レイヴンがたった一歩踏み出しただけで、床板がミシミシと悲鳴を上げた。
大陸最強の剣豪が放つ本気の殺気と威圧感は、人間が発していいレベルの代物ではない。
「ひっ……!?」
余裕の笑みを浮かべていた帝国皇子ルキウスの顔面から、サーッと血の気が引き、喉を詰まらせてピタリと硬直した。
死の気配を目の当たりにし、帝国側の護衛たちも一斉に青ざめて剣の柄に手をかけるが、誰も体が震えて抜くことができない。
「どこの馬の骨とも知らん貴様が、我が主様の尊い御髪に指一本でも触れてみろ。
……汚い腕から順に、この剣ですべて両断し、帝国ごと焼き払うぞ」
レイヴンは漆黒の長剣に手をかけたまま、冷徹すぎる三白眼でルキウスを射貫いた。
耳たぶは、怒りと――隠しきれない独占欲のあまり、真っ赤に染め上げられている。
(やばい、やばい、やばい……っ!
雑魚虫の接近に対して、推しメンのセキュリティ体制……!
給与と有給休暇と社宅のグレードを今すぐ国家予算レベルで引き上げたいんですけど、どこに申請すればいいですか神様――!!)
ターゲットにされたルキウスは冷や汗をダラダラと流し、ガタガタと全身を震わせていた。
(な、なんだ、この化け物は……っ! 聞いていないぞ……!
狂犬を従えた悪女のどこが『捨てられた敗北者』だ……っ!!)
ルキウスのプライドは見事に粉砕され、すごすごと自分の席へ這うように戻っていった。
こうして、帝国との緊迫した外交会談は、レイヴン様の「圧倒的すぎる武力と嫉妬の壁」により、王国側の完全勝利(全要求の丸呑み)に終わったのだった――。
お読みいただきありがとうございます!
隣国ルミナス帝国の冷徹皇子・ルキウスが登場するやいなや、レイヴン様の「嫉妬全開の殺気」によって置物と化してしまったエピソードをお届けしました!
「主様に近づく虫は容赦なく両断する」という過保護の極みを見せるレイヴン様と、その姿を脳内で全肯定しながら大歓喜するマリーアの温度差がたまりません。




