推し騎士の過保護がすぎて、王都がひっくり返り、私たちは最高のスローライフを始める
ルミナス帝国との国境会談を「レイヴン様の圧倒的すぎる武力と嫉妬の壁」によって完全勝利で終えてから数日後。
私たちは堂々と、王国の首都へと凱旋を果たした。
王宮の大広間。
私を「帝国で処刑されるか、惨めに敗走してくるはずだ」と待ち構えていたクズ王太子・ジークベルトと、側近のガザト、そして青ざめた表情の父親たちが勢揃いしていた。
「なっ……馬鹿な……!?
なぜお前が生きて帰ってきた!
しかも、ルミナス帝国の皇子殿下を伴って……だと……!?」
ジークベルトが金髪を振り乱して、恐怖と動揺に満ちた声を張り上げる。
帝国皇子ルキウスの姿を見た貴族たちがどよめいた。
だが、ルキウスの様子がおかしい。
鮮やかな銀髪の彼は、かつての冷徹非情な雰囲気などどこへやら、レイヴンが一瞥しただけで「ひっ……!」と小動物のように縮み上がり、ガタガタと震えながら必死に距離を取っている。
――そう、国境での一件以来、ルキウスにとって「漆黒の鎧を纏った無愛想な護衛騎士」は、トラウマを刻み込まれた恐怖の象徴となっていたのだ。
外交使節として同伴したのは他でもない、「あの化け物を怒らせないために、彼女の言うことはすべて絶対服従しろ」と皇帝陛下から厳命されたからに他ならない。
「ど、どういうことだ……! 説明しろ、マリーア!」
顔を真っ青にしたジークベルトが叫ぶ。
私は優雅にスカートの裾をつまみ、冷ややかな笑みを浮かべてみせた。
「説明も何も、見ての通りですが?
王太子殿下が『厄介払い』のつもりで私を送り込んだ国境会談は、ご覧の通り大成功。
帝国との同盟締結、および全面的な交易有利の条件をすべて勝ち取ってまいりましたわ」
「なっ……ふざけるな! そんなはずは――!」
「さらに」
私は言葉を継ぎ、隣に控える漆黒の騎士へと視線を投げる。
「我が国の護衛騎士レイヴン様が、『我が主様に不敬を働けば帝国ごと焼き払う』とごねてくださったおかげで、先方も非常に協力的でしたこと?」
「な……何を、公衆の面前で……っ!」
レイヴンの顔が、カッと真っ赤に染まる。
不器用な姿を拝みつつ、私はさらに追い打ちをかけた。
「そもそも、私を悪女と断じて婚約破棄をなさったのは、殿下ご自身ですわね?
国益を投げ捨て、私的な感情で無能を晒し続けたのはどちら様だったかしら。
すでに帝国との外交成果を持ち帰った我が公爵家の発言力は、王家を軽く凌駕していますのよ」
「ぐっ……! き、貴様……!」
ジークベルトが怒りに任せて飛びかかろうとした瞬間――。
――ガシャリッ!!
広間に響き渡る、お馴染みの重く冷徹な金属音。
レイヴンが前に出た。
放出された殺気だけで、ジークベルトは床にへたり込み、ガザトたちは泡を吹いて気絶寸前となる。
「……これ以上、俺の主様に無様な声を浴びせるなら、今度こそ王太子とやらの首を刎ねる」
低く這うような重低音。
もう護衛の域を超え、事実上の「王権の掌握」だった。
その後の展開は早かった。
無能と失政、そして隣国に対する致命的な外交折衝の失敗(すべて自業自得)が明るみに出たジークベルトは、その場で廃嫡を言い渡され、ガザトたち家門も含めて没落の道をたどることになった。
政略結婚の呪縛も、クズ王太子も、すべてが過去のゴミ箱へと消え去ったのだ。
数日後。
王宮の権力闘争や政治の面倒ごとをすべて父様に押し付け、私はレイヴンと共に、王都からはるか離れた緑豊かで静かな田舎町へと馬車を走らせていた。
特大の肉球クッションを馬車の隅に積み上げ、窓から差し込む温かな木漏れ日を浴びる。
「……本当に、こんなところでいいのか?」
御者台に座るレイヴンが、心配そうに振り返り、無精髭の生えた顎をポリポリと掻いた。
「もちろんですよ!
お城なんて窮屈なだけですし、これからは二人きりで、のんびり最高に甘いスローライフを送りましょう、レイヴン様!」
「……そうだな」
レイヴンは小さく息をつくと、いつもの不器用で愛おしい笑みを浮かべた。
「俺が一生、お前を護り続ける。……だから、ずっとそばにいろ」
――あぁ、推しが尊すぎて、私の人生は今日も大・満・足!
悪役令嬢に転生して本当に良かったと心から噛み締めながら、新たな物語のページへと、笑顔で馬車を走らせていくのだった――。
お読みいただき、ありがとうございます!
断罪イベントをスルーし、過保護すぎる最強の推しと共に王都をひっくり返し、見事にハッピーエンドを迎えたマリーアたち。
愛が重すぎる護衛騎士と、脳内カーニバルが止まらない悪役令嬢の暴走劇にお付き合いいただき、心より感謝申し上げます!




