推し騎士の過保護がすぎて、隣国への旅がただのハネムーンと化している
「――というわけで、マリーア公爵令嬢。
王太子からのご慈悲により、隣国ルミナス帝国との国境で特使の調停役を命じる!」
王家からの使者がドヤ顔で言い放つ。
父様が「あそこは危険な魔物地帯だ!」と青ざめる一方、私の脳内は「楽園ベイベー」だった。
(待って……!?
ルミナス帝国との国境って、ゲーム第2部でレイヴンと密着せざるを得ないテント野営イベントのメインステージじゃん!)
レイヴンが音を立てて前に出た。
――ガシャリ。
「……王家の使いとやら。もう一度、その言葉を吐いてみろ」
漆黒の鎧を纏った大陸最強の剣豪が放った殺気だけで、使者はヘナヘナと膝をつく。
「主様をどこへ連れ出そうと勝手だが、命を狙うというのなら、たとえ国を相手どろうとも、俺はこの剣ですべてを両断する」
(やばい、推しの好感度カンスト音が幻聴じゃなくてリアルに聞こえる……!)
こうして王家の嫌がらせは、最強の推しによる「全方位ガード付き・危険な隣国ハネムーン」へと変換されたのだった。
数日後。
峠道を走る馬車の中。
「……冷えますね」
私が身震いすると、レイヴンは無言で自分の厚手コートをサッと肩にかけ直してくれた。
「馬鹿だな。薄着で来るからだ。……ほら、温かいハーブティーを飲め」
不器用な口調とは裏腹に、気遣いは全人類の保護者の域に達している。
(馬車の揺れ、冷たい空気、隣には最推しのイケメン騎士。
最高難易度のシチュエーションが私にとっては至福でしかない……!)
うっとりしていると、前方の御者台から青ざめた声が上がった。
「お、おい……っ! 前方を見ろ……ッ!」
険しい崖の上から、赤く光る無数の目が私たちを見下ろしていた。
体長数メートルの山岳魔獣――『ロック・ウルフ』の群れだ。
御者が震える中、私の心は高鳴る。
――ゲーム本編でレイヴンが魔物を一網打尽にする「超絶かっこいい戦闘イベント」だ!
「主様。馬車の中にいろ」
レイヴンは長剣を抜き放ち、冷徹な瞳を魔物に向けた。
戦闘モードの完璧な横顔。
「すぐに片付ける。……一歩も動くなよ」
その言葉を合図に、大陸最強の剣豪が鮮烈な一閃を放つ。
推しの無双を特等席で拝んで、激動の隣国へと足を踏み入れていくのだった。
お読みいただきありがとうございます!
王家の嫌がらせを、最強の推し・レイヴン様が過保護と殺気で「ただのラブラブハネムーン」に塗り替えました。
寒さ対策のコートに温かいハーブティー、そしてピンチ(に見せかけた推しの無双イベント)と、乙女ゲーの最高難易度ルートがマリーアにとっては「実質ご褒美フェス」と化しています。
魔物の群れを蹴散らすレイヴン様の過保護っぷりは、隣国ルミナス帝国に入ってからも止まる気配がありません。
果たして、旅の果てに待っているさらなる尊いイベントとは――!?




