推し騎士の過保護がすぎて、実家の父親が胃薬を飲む
特大の肉球クッションに顔をうずめて幸せの絶頂で目覚めた翌朝、私の優雅な朝食タイムは、一枚の羊皮紙によって盛大に粉砕された。
「……『実家召喚状(お説教チケット付き)』ですね」
ダイニングテーブルの端で、冷めた紅茶をすすりながらため息をつく。
差出人は我が父――天下の公爵閣下であらせられる。
手紙には『王家に泥を塗った愚か者め、今すぐ実家に戻って土下座し、謹慎しろ』という主旨の文言が、これでもかとばかりに美しい筆跡で綴られていた。
だが、傍らに控える男――大陸最強の剣豪にして我が最愛の推しメン、レイヴンは、手紙をちらりと一瞥すると、冷笑を浮かべた。
「……くだらない。
あんな頭の軽い王太子の機嫌を取るために、主様が頭を下げる必要などどこにもない」
「レイヴン様……!
全肯定してくれる過保護なところ、全宇宙の聖母を超えて、ますます好き!」
両手を合わせてうっとりしていると、レイヴンは顔を赤くしながら、「とにかく、準備をしろ。実家へ送る」と言って、私の荷造りを完璧にサポートし始めた。
手際が良すぎる。
もはや敏腕執事の域だ。
豪華な馬車に揺られ、我が実家である公爵邸へと帰還した。
屋敷の門をくぐるやいなや、待ち構えていた執事や使用人たちが「お嬢様が大変なことを……!」と青い顔でヒソヒソ噂している。
そして応接室の扉を開けた瞬間、待ち受けていた父様が激怒した。
「マリーア!! 貴様、何という大失態を演じてくれたんだ!!
王太子殿下が『あの悪女に恥をかかされた! 謝罪と慰謝料を要求する!』とカンカンにお怒りだぞ!」
ものすごい剣幕で怒鳴り散らす父様。
けれど、前世で幾多の乙女ゲーの修羅場をくぐり抜けてきた私にとって、この程度の怒鳴り声はBGMのようなものだ。
「あ、父様。おはようございます。
せっかく実家に帰ってきたんですから、まずは美味しいお茶でも淹れてもらえます?」
「ふざけるな!
王家との婚約が破棄された今、我が公爵家の政治的立場はどうなると思っているのか!」
「えっ、だってあんなチョロくてすぐキレるクズ王太子、こっちから願い下げじゃありません?
実家の浮いた予算を全部、推しメンの給与と装備品強化に回せるので、経済活性化にも貢献できますよ」
「何を訳のわからないことを――!」
父様が怒りのあまりテーブルを叩き立ち上がった瞬間。
――ガシャリ。
凍てつくような金属音が響いた。
部屋の空気が一瞬にして氷点下にまで落ち込む。
レイヴンが、前に出たのだ。
漆黒の鎧を纏った大陸最強の剣豪が、怒りに狂う公爵――つまり自分の雇い主の父親を、冷徹な三白眼で真っ直ぐに射抜く。
「……声を荒げるな。
俺の主様をこれ以上不当に罵るというなら、たとえ公爵閣下であっても、容赦しない」
殺気を含んだ低音ボイスが、広大な応接室に響き渡る。
一国の貴族である父様が、圧倒的な武力と気迫の前に、「ひっ」と息を呑んで言葉を失った。
(やばい……! 父様を脅すレイヴン様の横顔が美しすぎて語彙力が消滅する……!
あと、「主様を罵るな」ってガチギレしてくれる護衛、福利厚生の次元がバグってませんか!?)
私の中でカーニバルのダンスが巻き起こる中、青ざめた父様は冷や汗をダラダラと流し、レイヴンを指さした。
「き、貴様……手荒な真似を……!
一体、王家に対してどう責任を取るつもりだ……!」
父様はあまりの恐怖に、高級な胃薬を取り出して慌てて飲み込んだ。
絶妙なタイミングで、応接室の扉が勢いよくノックされる。
入ってきたのは、我が家の従者だ。
「王家からの使者様が到着されました……!
なんでも、今回の騒動の件で、王太子殿下から『新たな勅命』が下されたとのことです!」
父様が「なんだと……?」と顔を青くし、レイヴンが眉間に皺を寄せる。
心の中で「おっ、次のイベントフラグが立ったな?」とワクワクしながら、新しい推し活の予感に胸を躍らせるのだった。
お読みいただきありがとうございます!
実家からのガチンコお説教イベント……と思いきや、最強の推し・レイヴン様が雇い主である父親(公爵閣下)をガチの殺気でビビらせました。
怒鳴り散らすお父様の胃に特大の穴が開きそうな気配ですが、マリーアの脳汁が止まりません。
親の威厳も王家の権威も、全方位過保護な推しの前ではただの「イベントフラグ」でしかない模様。
王家からの使者が持ってきた「新たな勅命」とは一体――!?




