推し騎士の過保護がすぎて、夜の邪魔者が秒で置物になった
星祭りの夜会から、王太子ジークベルトの絶叫を盛大に置き去りにして、数時間後。
王都の大通りは、色とりどりの露店と魔法の灯りで昼間のように賑わっていた。
プラネタリウムの如き夜空の下、人々が浮かれ騒ぐ雑踏の中を、一組の男女が歩いている。
「わぁぁ……っ! 見てくださいレイヴン様!
屋台で売っている星型の砂糖菓子、ゲームの図鑑データだと『幻のシュガー・スター』って名前で、高レベルダンジョンにしか素材が落ちない激レア品のはずじゃ……!?」
「……主様。あまりはしゃいで人混みに突っ込むな。はぐれるぞ」
黒衣の重厚な鎧を纏った無愛想な青年――大陸最強の剣豪にして、最愛の推しメンであるレイヴンが、ボソッと低い声で言った。
レイヴンの大きな体が、周囲の野次馬や酔っ払いどもが私にぶつからないよう、完璧にガードしている。
(やばい、この至近距離。歩くたびにレイヴンの鎧の金属が擦れ合う音が聞こえる……。
耳元で低い声が響く……。これ、天国ですか?
私、すでに断罪イベントのショックで死んで天国に転生してます?)
心の中の全セクションが歓喜のダンスを踊る中、両手には、さっき街の工房で引き取ってきたばかりの『特大の肉球クッション』がしっかり抱え込まれていた。
ふかふかの触感が胸に温かい。
これに顔を埋めて寝るレイヴンの姿を想像するだけで、今夜は白米が三杯いける。
「悪役令嬢として王太子から盛大に婚約破棄されて追放されるイベント」の真っ只中にいたとは、誰も思うまい。
あの時、王子が「ひれ伏せ!」と叫んだ瞬間、頭にあったのは「レイヴンがイベントスチル通り無言で突っ立ってたらどうしよう、でも顔が良いから許す」という雑念だけだった。
なのに、我が推しは想像を遥かに超越した。
――『これ以上、俺の主人の尊いお姿に泥を塗るような無駄口をなさるおつもりか』
低音ボイス。
冷徹な殺気。
そして何より、耳たぶを真っ赤に染めながら、私を庇ってくれた仕草。
公式のゲーム設定資料集を全ページ丸暗記している私でも、あんな最高すぎるアドリブ台詞は聞いていない。
戦闘力だけでなく、精神的スペックの高さが宇宙を突破している。
「……どうかしたのか。じっと見つめて」
レイヴンが不審に思ったのか、ちらりと視線を落としてきた。
無精髭の生えた顎のライン、涼しげで少し鋭い三白眼。
どこをとっても最高峰のグラフィックだ。
「いえ! レイヴン様が世界を救うレベルでかっこいいので、焼き付けておこうかと!」
「……相変わらず、すごいことを平然と言いのけるな」
呆れたようにため息をつくレイヴンだが、耳の端がまたほんのり赤くなっているのを見逃さない。
ツンデレの極みか。
最高か。
だが、平和で尊い時間を邪魔する輩は、いつの時代も決まって「空気の読めないモブ」と相場が決まっている。
「――おや、こんなところで優雅にお祭り見物とは、余裕なことだな、公爵令嬢殿」
ざわめく人混みを割って、冷ややかな声音が降ってきた。
王太子の側近であり、我が家門を敵視する侯爵家の息子――ガザトが、嫌味な笑みを浮かべた取り巻きの貴族たちを引き連れて立っていた。
「王太子殿下に恥をかかせ、よくもまぁ平然と街を歩けたものだ。
おい、不敬女を捕らえ……」
ガザトが意気揚々と手を伸ばしかけた瞬間。
――ガシャリ。
再び、重く冷たい金属音が夜空に響いた。
レイヴンが前に出る。
先ほど王宮の大広間で放ったものよりも、さらに鋭く、圧倒的な殺気。
「……我が主の前に立つな」
レイヴンが、腰の剣の柄に指をかける。
ガザトたちの顔面から、血の気がサーッと引いていくのが分かった。
大陸最強の剣豪の本気を目の当たりにして、足がすくまない人間などいない。
「ひっ……!
き、貴様、王家の騎士でありながら、貴族に手を出す気か……!」
「王家がどうとか知ったことか。俺が守るのは、このお方だけだ」
レイヴンの声は揺るぎない。
私は心の中でスタンディングオベーションを贈っていた。
(かっこよすぎでしょ……!
もうこのまま二人でどこかの秘境に駆け落ちして、一生推しを愛でるだけのスローライフ送ってもよくない!?)
冷や汗をダラダラと流すガザトたちを尻目に、レイヴンはふっと振り返り、私にだけ聞こえる声で言った。
「……主様。
雑魚の相手に時間を潰すより、早く屋敷に戻って……肉球クッションとやらの手触りを確かめに行くぞ」
「はいっ! 喜んで、レイヴン様!」
王家からの陰謀の足音なんて、最強の推しが放つ「全方位保護モード」の前では完全に無効化される。
悪役令嬢の尊い異世界ライフは、今日も最高潮のまま夜を駆けていくのだった。
お読みいただきありがとうございます!
今度は夜祭りでガザトを「置物」にしてしまった最強の推し・レイヴン様をお届けしました。
「主様の肉球クッションをいかに早く触らせるか」に全ステータスを振っている無敵の過保護っぷり。
ガチ恋全開で脳内を大歓喜させながらも、推しの涼しげな横顔に溶けそうになっているマリーアのチョロ可愛さも見逃せません。




