推し騎士の過保護がすぎて、断罪イベントの主役が乗っ取られている
きらびやかな王宮の大広間。
光り輝く金髪を揺らしながら、王太子ジークベルトが高らかに声を張り上げた。
「貴様のような傲慢な悪女との婚約など、この場で破棄する!」
響き渡る非難の声。
貴族たちの冷ややかな視線。
だが、当事者であるはずの公爵令嬢――マリーアはどこ吹く風といった様子で、ぽうっと頬を染めていた。
(あぁ……っ! 今のジークベルト様の台詞、ゲームのイベント画面の立ち絵と完全に一致してるわ!
最高にチョロくて、おバカなクズ王太子様!)
マリーアの前世は、重度の乙女ゲーマーにして「無愛想なモブ護衛騎士」のガチ恋オタクである。
目を覚ませば悪役令嬢に転生していたわけだが、マリーアにとって断罪イベントなど、どうでもよかった。
なぜなら――。
(大好きな推しメンが、ベストポジションに立っている奇跡を噛み締めたい!)
マリーアが視線を横に流すと、そこにいたのは漆黒の鎧を纏った無愛想な青年・レイヴン。
普段は地味な「その他大勢の護衛A」に設定されている彼だが、裏の顔は隠し攻略キャラであり、大陸最強の剣豪。
無精髭の生えた顎と、涼しげな目元。
鍛え抜かれた長身、そして無口で不器用ながら主人を守ろうとする忠義の姿勢。
すべてが完璧だった。
(やばい、今のレイヴンの眉間の皺……!
最高に憂いを含んでいて、もう、尊すぎる……っ!
推しの美形フェイスが間近で拝める罰ゲーム、ご褒美でしかないんですけど!?)
マリーアが心の中の黄色い歓声を爆発させていると、王太子はさらにまくし立てた。
「おい、マリーア! 自分のしでかした罪の重さがわかっているのか!
今すぐひれ伏し、命乞いをするがいい!」
「……あ、はい。すいません、適当にやっときます」
「なっ……なんだ、その態度は!」
マリーアの返答に、王太子の顔が真っ赤に染まる。
あまりのマイペースさに、野次馬たちも「恐怖のあまり頭がおかしくなったのでは……?」とざわつき始める。
しかし、異様な空気を変えたのは、他でもないレイヴンだった。
――ガシャリ。
重い金属音が響く。
これまで一切の感情を殺し、ただ淡々と突っ立っていたはずのレイヴンが、前に踏み出したのだ。
冷徹な瞳が、王太子ジークベルトを射抜く。
「……殿下」
「な、なんだレイヴン。貴様もマリーアの愚行を咎めに……」
「これ以上、俺の主人の尊いお姿に泥を塗るような発言をなさるおつもりか」
低く、地を這う重低音が広間に響き渡る。
最強の剣士が放つ殺気と威圧感に、王太子はヒィッと情けない悲鳴を上げて後ずさった。
レイヴンはマリーアを庇うように立ち、剣の柄に手をかける。
無愛想な彼の耳たぶは、ほんのりと赤く染まっている。
(え……? ちょっと待って……? 私のために怒ってくれたの……?
公式イベントだと、レイヴンは無言を貫くはずじゃ……!?)
マリーアが目を丸くしていると、レイヴンは振り返りもせず、ボソッと言い放った。
「……バカの相手をしている暇があったら、いつもうるさく語っていた『特大の肉球クッション』を買いに行くぞ」
「……は、はいっ! 喜んで推し様――じゃなくてレイヴン様!」
断罪イベントは完全に崩壊し、王国最高の護衛騎士は、悪役令嬢を連れて堂々と大広間を去っていくのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
盛大な断罪イベントで、推しが尊すぎて王太子がただの背景と化すお話でした(笑)
茶番など秒でスルーし、レイヴンを愛でつつ肉球クッションを買いに行く悪役令嬢・マリーア。
果たして、無事に肉球クッションに辿り着けるのか!?




