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「何だあれ?」


「何、魔獣? だったらあんたは私の後ろに隠れてなさい」


「いや、あれは‥‥」


人のように見えたがまさかこんな場所に居るのだろうかと返事が曖昧に。

それによく見てみるとその人物は手に剣を握ったまま左右にゆらゆら揺れるだけで人間味が無く風に揺れるかかしの様にも思える。


「人? あなたと同じ被害者かもね」


「いやでも何か様子変じゃないですか?」


「どの口が言ってんのよ」


碧が止めるのも聞かずに不審な人物の方へと近づき声をかける。


「あなた迷子なんでしょ、私が案内してあげるからついて来なさい」


しかしその人物は聞こえていないのか何の反応も示さない。


「ちょっと無視、助けて欲しくないの!」


「混乱してるのかも、あんまり高圧的な言い方は良くないですよ」


もしかしたら自分と同じでいきなりこんな森に放り出されたのかもしれない、だとすればあたふたするのは仕方ない。そして不安でしょうがない時にこんな言葉かけられては固まってしまうのも碧は理解出来る。


「どこが高圧的よ。こっちは親切心で助けてあげるって言ってるのに」


「困ってる人を助けてあげようと行動するのは立派ですけど行動だけじゃなく言葉にも気を遣ってみたらどうでしょう? 上から目線の物言いは小心者には刃物を向けられてる様なものです」


「あーはいはい優しくね。まったく」


面倒そうではあるが眉間に皺の入った怖い顔は薄れて不恰好な笑顔が姿を現した。

よっぽど慣れてないのかかなり歪。


「大丈夫安心して。私味方、怖くない」


「‥‥‥」


出来うる限り最大限の親しみも無視、すると突貫工事の優しさはあっさり崩れ去ってしまう。


「あんたいい加減にしなさいよ! 助けて欲しいなら助けて、助けて欲しくないなら必要無いってはっきり答えなさい!」


「‥‥‥」


これで聞こえないならそもそも耳が聞こえていないのかもしれない。彼女も同じ事を考えたのかさらに距離を縮める途中で足が止まった。


「どうしました?」


「何、これ?」


怒れる彼女から一転して驚きと恐怖が溶け合った声が発せられる。強気な彼女を一瞬で変えてしまう存在、それが何なのか気になって近付いて見ると驚くべき事にそれは人の形をした蔦の塊。ただの植物の塊が何故だか服を着てちょうど手にあたる部分に剣が巻き付いているからてっきり人だと思ってしまった。


「アートですかね?」


「‥‥‥‥」


「どうかしました?」


「‥‥‥‥そんなはず」


何故だか慌てた様子で植物に着せられている服を探り始める。


「嘘‥‥‥」


やがて手を止めた時、その顔には恐怖が浮かんでいた。

ジッと見つめたまま固まっている、その視線の先にあるのはペンダント。


「それがどうかしたんですか?」


「あり得ない‥‥‥そんなはず‥‥‥」


顔が真っ青、尋常じゃない様子で碧の声も聞こえてないみたいだ。

こんな場所早く離れたいが今は何を言っても無駄だと諦めようとした碧の視目に木々の隙間から差し込む月を反射して何かが光るのが見えた。

悲嘆に暮れる彼女の頭上から落ちてくる冷たい銀色。


「危ないっ!」


碧は咄嗟に手を伸ばし突き飛ばす。

さっきまで彼女が立っていた場所に深々と突き刺さった剣、明らかに彼女を狙った剣の柄にはびっしりと蔦が巻き付いている。その蔦を目で追い視界に入ったのはついさっき確認した蔦人形。


「この剣‥‥」


「上から落ちて来たみたいですけど‥‥‥」


なんて偶然だろう。

危うく大怪我、いや下手をしたら死んでいたかもしれない。


「落ちて来た‥‥‥違う、きっと私を殺そうとしたのよ。私を恨んでるから」


そんなことを呟いて蔦人形に縋り付く。


「何言ってるんですか? ただの植物ですよ、そんな感情なんかあるはず‥‥」


ここが異世界である以上は碧の常識は通用しないが少なくとも目の前の蔦に意志があるとは思えない。これはどう見たって人の形を模しただけの蔦だ。


「でもこの服もこの剣もこのペンダントも全部ライルが持ってたのと同じ‥‥‥」


果たしてライルが誰なのか知らないが痛みに耐えるみたいに歪む彼女の表情を見る限りそれなりに近しい人間だったのだろう。

だからこそ冷静な思考も出来ていない。


「そうだとしたらきっと誰かがそのライルって人から奪ってこれに着せたんじゃないですか?」


「誰がそんなこと!」


「分かりませんよ。でもこれ以上ここに居たって仕方ありません、ライルさんから盗まれた物だけ回収して帰りましょう」


「‥‥‥そうね」


ペンダント、そして次に剣を回収しようと絡まった蔦を彼女が切ろうとした時、蔦が微かに振動し始める。それはやがてしなりへと変わり鞭のような動きで先端の剣を引き抜いた。

頭上へと舞った剣は鎌首を持ち上げた蛇の如き姿勢で動きを止め次の瞬間には狙いを定めた様に女の人に向かって行く。


「何が!?」


驚きながらも咄嗟に剣を抜き弾く手際は流石のもの、しかしそんな手練れの彼女でさえこの状況は馴染みがないようだ。


「植物って動くんですか!?」


「動くのもいるでしょうけどこんなのは‥‥‥」


人の形をした蔦を使って獲物を誘き寄せる、そんな行動を取るのは彼女も初めてだったようだ。


「どうするんですか!?」


「何の情報も無い中で戦っても危険なだけ。向こうの攻撃は私が防ぐからあなたは‥‥」


碧の背後を見て言葉が止まる。つられて碧が後ろを振り返るとさっき通って来た道に人型の蔦の塊が大勢湧いていた。


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