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33 俺の妻 ~トーマス目線


~トーマス目線


「トーマス、右足がダメ、それじゃ衝撃を逃がせないわ。爪先を軸にして、違う!腰が引けてるじゃない!重心を低くして剣先から滑らせるように流すの!」


俺とレオナルドは、ナタリーに剣の稽古を付けてもらっている。


ナタリーは細く小さな体で流れるようにしなやかに動きく。

その様はまるで戦いの女神アテナのように美しい。


俺もレオナルドも、ナタリーに剣先を掠めることすらできない。


「トーマスには体術より、剣の方が合ってるわね。体術となると、大きさと筋肉が足りないもの。やるなら合気道ね。レオナルドは体術はこの国で三本の指に入るわ。でも剣は全然駄目、遅すぎるのよ。あんたにあるのは重さだけ。上手く当たれば骨まで絶つことが出来るけど、その遅さではトーマスにも敵わない」


俺とレオナルドの弱点を容赦なく言い捨てる。


「くっそ!ナタリーはなんでそんな強いんだよ?こんな細っそい腕で、筋肉なんて1グラムもないじゃんか!」


「筋肉?そんなものはあたしには必要ないわ?あんたたちは努力型、あたしは天才。そんだけの事よ」


もう、ぐうの音もでないとはまさにこの事だ。


「しかしトーマスは何故そこまで強くなりたいんだ?確かにナタリーには敵わないが、この国ではお前だってトップクラスの強さだろう?」


レオナルドが流れる汗を太い腕で拭いながら聞いてきた。


「お前こそどうなんだよ?リリアを守りたいからだろ?俺だって、ナタリーになんかあったら守ってやりたいじゃん。いくら強くてもナタリーは女の子だし、俺の嫁さんなんだからさ」



ナタリーはここに来てから、物凄く綺麗になってきている。

まあ、『アレクサンドラ王国の恋する乙女』の第2部のヒロインだからな。

リリアが幸せを掴んだところで第1部が終了して、第2部に入ったのかもしれない。


第2部はやったことがないから分からないが、このあと次々と攻略対象の男が出てくる可能性もある。


ナタリーを取られてたまるか、ナタリーは俺の妻なんだ。


「ナタリー、俺は努力する。だから、ずっと俺だけを見てろ」


一瞬動きを止めて、真っ赤になったナタリーだが、やはりその本質は戦闘狂。


「と、とにかく!もう一本行くわよ!もう、めんどくさいから二人同時で構わないわ!いらっしゃい!」



「みんなー、少し休憩・・・・・・って、キャー!ナ、ナタリー!何をしているの!太ももまで見えてるじゃないの!このお馬鹿!!もうっ、いくら強くてもナタリーは女の子なのよ!」


リリアが手に持ったタオルを放り投げ、慌てて駆け寄りナタリーのスカートの裾を直した。


「ごめんなさい、リリアちゃん。次からはズボンに履き替えてやるわ。だからそんなに怒んないで?」


ナタリーはチロッと可愛い舌を出し、首を傾げて、ウインクをした。


何だよ!さっきまでのアスリート魂はどこに行ったんだよ!

そんな可愛い仕草しやがって!

そういう顔は俺にだけ見せてりゃいんだよ!


あー、もう、認めるしかない。

俺はナタリーにメロメロだ。




俺は、ずっとリリアだけが幸せになれればいいと思っていた。

ナタリーを嫁にしたのもリリアの為だ。

第2部ではヒロインであるナタリーの攻略対象はレオナルド。

ナタリーを自分の妻としておけばゲームのシナリオを牽制、阻止できると思ったからだ。


リリアさえ幸せにできれば、誰を不幸にしても構わない、俺自身、消えてしまっても構わないとすら思っていたのに。




俺って、こんなふうに誰かを好きになることが出来たんだな・・・・・・




「あ、レオナルド様とトーマスは鍛練を続けて?レオナルド様の戦う姿は本当にステキだもの。ずーっと見ていたいわ!」




俺は、レオナルドに全てを打ち明けた後、『あること』に気付いたがそれは誰にも話していない。

この事実は、俺以外、誰も気づかない方がいい。


だからこれは俺だけの一生の秘密だ。






鍛練を終え、リリアとレオナルドはセバスに呼ばれて屋敷に戻っていった。


中庭のガーデンテーブルでナタリーと二人、お茶を飲む。

秋のひんやりとした風が心地いい。

冷たいレモンティーが体に染み渡る。



「リリアちゃんって相当ニブいよね?」


ナタリーが唐突に言うから、俺は勢いよくレモンティーにむせた。

は、鼻が痛い。


「ごほっ、な、なんの事だよ?」


「またまたー、トーマスだって気付いてるくせに!これでもあたし、結構勘は鋭い方なのよ?」


やっぱりナタリーには隠し事は出来ないな。


「あー、だよな、ナタリーなら気付いてんじゃないかと思ってたけどさぁ、でも、リリアには絶対に内緒な?オッケー?」


「オッケ、オッケ!知らない方が幸せな事もあるわよね。大丈夫、絶対に言わない!」


「リリアが鈍いのは仕方ないんだ。リンは鈍くならなきゃ、あの地獄を生き延びることはできなかったからな。鋭い感性は全て摩周が引き受けた」


「・・・・・・トーマス、あたしはどんなトーマスでも好きよ。だからこの先、リリアちゃんに何かあったらあたしの事は気にしないでいいから、リリアちゃんを優先してあげて?あたしは強いから大丈夫」


「は?何でそんなこと言うんだよ?俺の気持ち、お前には伝わってないのか?それに、リリアにはもうレオナルドがいるだろ?俺の役目は終わったの。ここからの俺はナタリーと一緒に幸せになるんだ。俺はね、誰かを好きになることなんか一生ないと思ってた。お前は俺の最初で最後の最愛だ」


俺は椅子から立ち上がり、ナタリーの前に行くと、その場にひざまづいた。


「ナタリー、俺と結婚してくれ。ってかもうしてるけどさ、俺はナタリーと本当の夫婦になりたいんだ」


「トーマス・・・・・・あ、あたしでいいの?あたしはファイティング馬鹿だし、脳筋だし、リリアちゃんみたいに可愛くもな・・・・・・」


「ナタリー、愛してる」


真っ赤な顔で涙ぐむナタリーを抱き締めてキスした。



唇から伝わる柔らかく暖かい感触は、俺がリリアから離れ、トーマスという一人の男になったのだと強く実感させた。



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34 プロポーズ へ



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