11 キス
私がレオナルド様の婚約者になってから半月が過ぎた。
トーマスからは未だ何の連絡も無い。
ねぇ、トーマス、いつまで待てばいいの?
私たち、こんなに長い間会わないことは初めてね。
でも、思っていたよりも意外と安定しているのが不思議。
レオナルド様のお陰かしらね。
あれから私とレオナルド様は仲良くやっている。
一緒にお茶を楽しんだり、庭園の散策をしたり、この間は街にショッピングにも出かけた。
レオナルド様がプレゼントしてくれた真珠の髪飾りは私の一番のお気に入りよ。
壊してしまいそうだといいながら、大きな手で私の髪に付けてくれた。
こんなに素敵な男性は今世でも前世でも会ったことがない。
レオナルド様を知れば知るほど、その優しさは心に染み渡る。
レオナルド様の優しさは霧雨みたいだ。
まるで乾いたアスファルトが優しい雨を吸い込んでいくように、私の心は湿った幸せを甘受する。
ヒロインとして攻略対象に迫られても、アイドルとしてちやほやされても、こんなに満たされた気持ちになった事は一度もなかった。
心地のよいぬるま湯に、首までドップリと浸かっている私。
ねえ、トーマス、私はどうしたらいいのかしらね?
「リリア、恥ずかしいのだが」
「え?どうしてですか?」
私は今、レオナルド様の髪の毛を触らせてもらっている。
ガーデンテーブルの椅子に腰かけたレオナルド様の茶色い髪が、太陽の光に照らされてキラキラ光ってとても綺麗だ。
短髪で、ワックスなど付けなくても根元から立ち上がった髪の毛は、予想通り手に刺さるほど硬くて私は思わずクスクスと笑ってしまった。
「なぜ笑う?」
「だって、初めてレオナルド様とお会いしたときからこの髪に触ってみたいと思っていたんです。きっと硬くてチクチク刺さるんだろうなって思っていたら、やっぱりその通りだったんですもの」
「チクチク?手は大丈夫か!」
「レオナルド様は心配性ですわね、私の手はこのくらいでは傷つきませんわ。それにチクチクするだけで痛くはありませんもの」
レオナルド様は私の手を優しく掴むと、手のひらを自分の親指で優しく撫でる。
大きな手、太い指。
私の手を包み込む。
「レオナルド様の手は安心します。もっと触ってください」
そう言うと、そのまま持ち上げて私の手のひらにキスをした。
ガーデンテーブルを囲うように咲き誇る桔梗の花が風に揺れる。
私はレオナルド様が好きだ。
私は、こんなふうに誰かを好きになれたのね。
キスされた手のひらを自分の頬に当てた。
その手にレオナルド様の手が重なる。
ねえトーマス、あなた、解っていたのね。
狡いわよ。
レオナルド様の顔がゆっくりと近づいて、柔らかな唇が私の唇に触れた。
ねえ、トーマス、私たちは本当にこのまま離れてしまうの?
唇が離れ、私たちは真っ赤な顔で微笑み合う。
「風が出てきたな、そろそろ部屋に戻ろう」
ねえ、トーマス、私はどうすればいいの?
教えて。
「レオナルド様、私、少し部屋で休みますわね」
屋敷に戻った私は気だるい眠気を覚えた。
安定しているとはいえ、半月もトーマスと離れている私はこのところ眠れない日が続いている。
「どこか具合でも悪くなったか?」
キスしたあとだものね。
レオナルド様が気に病んではいけないわ。
「夕べはよく眠れなくて。マシューの機嫌が悪かったみたいです」
私はレオナルド様の手をギュッと握りしめて微笑む。
「眠るまで手を繋いでいてくださいますか?」
「勿論だ」
ベッドに横になった私の手を優しく握ってくれるレオナルド様。
幸せな私はうとうとと微睡んだ。
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12 寝言~
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