雷編 成都からの悲報 下
雷編 成都からの悲報 下
戦場で片付けをする黄忠の元に姜尚はいた。
姜尚「黄忠さん。成都攻略お疲れ様でした」
黄忠「両翼が張飛と魏延でしたから。安心して攻撃に専念することが出来ました」
姜尚「それは良かった。ところで張任さんはどうされました?」
黄忠「ああ……張任殿であればあそこに」
黄忠は指を指す。そこには張魯の首を片手に蔓延の笑みで歩く張任がいた。
姜尚「劉璋殿の仇を討ったようですね……」
黄忠「そうみたい」
姜尚「張任さん!」
姜尚は張任を呼ぶ。張任は姜尚に気付き急ぎ足で向かって来る。
張任「姜尚殿! 見てください! 張魯の首です! 私が仕留めたのです!」
張任は嬉しそうに張魯の首を掲げる。
姜尚「張任さん。僕はあまりあなたにはその様なことはして欲しくありません。憎むべき相手と言えど張任さんには似合いません」
張任「もちろん毎度のように死者の首を無情に扱うつもりはありません。ですが家族の仇を討てたのです。どうか今はご容赦いただきたい」
姜尚「分かりました。将兵の行動は劉備さんの徳に反映されます。その為、張魯の首は丁重に葬って下さい」
張任「そこまでしなければならないのですか!? 親の仇ですよ!」
姜尚「張魯は乱世の犠牲者の一人に過ぎません。首を取った時点で復讐は終わりです」
張任「分かりました……」
姜尚「納得がいきませんか? あなたは義理に厚く優しい方だ。仇の首の扱い一つで変な誤解を受けて欲しくありません」
黄忠「そうね。それは私も姜尚と同じ意見だわ」
張任「私のことを想ってのことでしたか……張魯の首は丁重に葬ります」
姜尚「はい。ありがとうございます」
姜尚は張任に笑顔で返す。
黄忠「で? 私には?」
姜尚「え? とくになにもありませんが……」
黄忠「新参の張任殿には随分と優しいことですね! 古参の武将には特になにもないと!?」
黄忠は姜尚にくってかかる。
姜尚「では言わせていただきますね」
黄忠「どうぞ。簡単な褒め言葉なんていりませんから」
姜尚「弓兵の強化する為に弩兵の導入を考えております。何とか指導していただきのですが」
黄忠「そんな言葉が聞きたいのではありません!! よくやったとか可愛かったとかないのでですか!! それは今、言うことですか!! ええ!?」
黄忠はキレる寸前だ。
姜尚「だって褒め言葉はいらないって……」
張任「確かにそう言いましたよね……」
黄忠「確かに! 確かに言いました! ですが私の戦いを見ればかける言葉は可愛いと美しいと超強いしかないではありませんか!!」
姜尚「そっそうですね……」
張任「黄忠殿は可愛くてとても強いですな」
張任は黄忠の心を汲んだ。
黄忠「張任殿! ありがとうございます! 姜尚! 何、先に言われているんですか!」
姜尚「いや……だって……そんな言葉は誰かがいる前で伝える言葉では……」
黄忠「!!」
黄忠は赤面する。
黄忠「なるほど。確かにそうかもしれません。私としたことが……先に戻ります」
黄忠は走ってその場を去る。
張任「姜尚殿。流石ですな……」
姜尚「え? 何がですか? どうして黄忠さんは急に行ってしまったんだろう」
張任「天然ですか……黄忠殿……これは手強いですぞ」
張任はつぶやく。
ホウ統「孔明。魏延ちゃんはどうだった」
諸葛亮「もうね……疲れましたよ……本当に……」
ホウ統「はははは! お前さんをここまで苦労させるとは魏延ちゃんも中々の傑物だな!」
諸葛亮「笑い事ではありません。正直、ここまでの強さを誇るとは思いませんでした。私の指揮が追いつかない程の速度で敵を薙ぎ倒すのですから……」
ホウ統「ほう……疲れは疲れでも充実した疲れの様だな」
諸葛亮「初めに舐めてかかったことが完全に逆めになりました。余裕をかましていた自分を恥じるしかありません」
ホウ統「だがそれは魏延ちゃんに誰かがついてやればの話だ。単独行動は読めん」
諸葛亮「張飛殿が認めるのも分かります。魏延殿の力は劉備軍の要の一つになるでしょう」
魏延「あのぉ……孔明軍師……」
魏延が現れる。
ホウ統「おや? 噂をすれば」
諸葛亮「魏延殿。どうかしましたか?」
魏延「今日のお礼を言いたくて……」
諸葛亮「礼など必要ありません。私は私の成すべき役割を果たしたに過ぎません」
孔明は冷たく言い放つ。
ホウ統「またそう言う言い方をする……素直じゃないな」
ホウ統は少し呆れる。
魏延「でも! 私! いつもどうしていいか分からなくて! 孔明軍師が指示してくれたからいっぱい敵を倒せて! とても嬉しかったんです!」
諸葛亮「それはあなたの課題です。これから精進して下さい」
ホウ統「はぁ……どうしてこう心と言葉が正反対になるんだろうな」
ホウ統は更に呆れる。
諸葛亮「さっきからうるさいんですよ! あなたは!」
孔明はホウ統に一括する。
魏延「あの……お口に合うかわかりませんが……これ作ってきたので……」
魏延は握り飯を出す。
ホウ統「ほう! これは美味そうだ! 孔明! いただこうじゃないか」
諸葛亮「結構です。あなたが全て食べて下さい」
ホウ統「そうか? じゃあ……いただくとするか」
魏延「おやっさん。どうぞ」
ホウ統「へへへ。じゃあ早速……」
ホウ統は握り飯を口にする。
ホウ統「うぐっ……」
ホウ統はうめき声を出す。その光景を諸葛亮はそれ見たことか言わんばかりの表情でホウ統を見る。
ホウ統「驚きだ……塩加減……握り方……こんな美味い握り飯は初めてだ……しかも何だ……中に何か入っているぞ……甘辛いこれは一体!」
諸葛亮「!!」
孔明は目を見開き驚く。
魏延「城内に沢山の香辛料があったので鶏の皮を油で揚げて甘辛く仕上げてみました」
ホウ統「信じられん美味さだ……鶏皮の油がしっとりと口に広がり飲み込むのが惜しくなる程のこの味付け……神懸っている……」
諸葛亮「……」
ホウ統「くっそ! 仕事がなけりゃ酒が欲しいところだぜ!」
魏延「うふふ。沢山食べて下さいね」
ホウ統は握り飯を両手に持ち口に運ぶ。
ホウ統「いやぁ! 美味え! 美味え!」
諸葛亮「ホウ統……そこまでです。それは本来、魏延殿が私の為に用意してくれたものです」
ホウ統「お前、さっき全部食っていいって言ったじゃねーかよ!」
諸葛亮「気が変わりました。とりあえず一つだけ頂ましょう」
魏延「本当ですか! 嬉しいです! 孔明軍師!!」
魏延は喜ぶ。孔明は握り飯を口に運ぶ。
諸葛亮「うんま!! なっ何なのですかこれは! まるで普段の食事が豚の餌ではありませんか! 今までに経験のしたことのない味付けです!」
魏延「お口に合って良かった……まだ沢山ありますので」
魏延の握り飯を孔明とホウ統は奪い合うように食べ。あっと言う間になくなる。
ホウ統「やっべーな……こんなの食っちまったら他の飯食えなくなるぞ……」
諸葛亮「幸せです……食事でこれ程の多幸感を味わえるなんて……」
孔明とホウ統は虚ろな目で天井を見る。
魏延「あの……孔明軍師……一つお願いがあるのですが……」
諸葛亮「何ですか? 握り飯のお礼です。私に出来ることであればどうぞ」
魏延「張飛さんから聞いたんですけど……劉備軍には分かち合いというものがあると……私! 孔明軍師と思いっきり分かち合いたいです!」
ホウ統「分かち合い? 何だそれは?」
諸葛亮「死線を超えた戦いにのみ許される行為です。まぁ成都攻略は別に当ては余るものではありませんが……まぁいいでしょう」
魏延「本当ですか! ありがとうございます!」
ホウ統「ふーん。ちょっと見物させてもらうかな」
諸葛亮「魏延。来なさい」
孔明は両手を広げる。
魏延「はい!」
魏延は孔明の胸に飛び込み。全力で孔明を抱きしめる。
諸葛亮「うがっ!!」
孔明の背中がポキポキと鳴る。
魏延「孔明軍師……これからもよろしくお願いします……」
魏延は孔明の胸に顔を埋め感謝する。
諸葛亮「んんん! んーーーーー!!」
孔明は食べた握り飯を戻すまいと両手で口を押える。
ホウ統「魏延ちゃん! 終わり! 分かち合いはもう終わりだぁあああ!」
あまりにも恐ろしい分かち合いにホウ統は魏延を止めた。
こうして成都攻略は終わりを迎えた。
劉備「張任さんが劉璋殿の後を継いで益州を治めて欲しいと言っているのですが……受けるべきなのでしょうか孔明」
成都城内の一室で劉備は孔明に問う。
諸葛亮「劉備様。お引き受け下さい。曹操軍から益州を守れるのは劉備様しかおりません」
関羽「うむ。これで劉備軍の土台が出来上がったな。これまでの苦労が報われたようだ。姜尚がいることで各々の役割分担も明確にできそうだ」
諸葛亮「ええ。頼もしくなりました。これで私自身の役割も大きく変わります」
劉備「最近かっこいいですね」
諸葛亮「かわいい生徒という佇まいではなくなって来ました。少し寂しい気持ちもありますが」
関羽「こんな短期間で人は変わるものなのか……不思議だな」
馬謖「失礼します。劉備様、南蛮の孟獲殿から兵を率いこちらに向かっているとのことですが何でも少し時間がかかるとのことです」
馬謖が現れる。
劉備「そうですか。きっと漢中の曹操軍との戦いを避けられないと思っての援軍なのでしょう」
馬謖「同盟を結んだとはいえ直ぐに兵を送り込んでくれることは有り難いことです」
劉備「本当にそうですね」
馬謖「ところで先程、人が変わるとか何とか聞こえたのですが」
関羽「姜尚の成長のことだ。本当に見違えるほどたくましくなったという話しをしていたところだ」
諸葛亮「馬謖なら同じ男として何か分かりますか?」
馬謖「はははは。それなら簡単ではありませんか!」
「分かるのですか!」
自信満々の馬謖の言葉に一同、驚く。
馬謖「当然です。男が変わるのは一つだけです」
諸葛亮「それは一体何なのですか……」
馬謖「恋心ですよ。姜尚はきっと誰かに恋をしているのでしょう。好きな人の為であれば如何なる苦労や努力もいとはない。なるほどな……姜尚も中々やるではないか」
馬謖の言葉に誰もが納得した。
劉備「そうですよね……でなければこんな短期間に変われませんよね」
諸葛亮「まったく……若さ故と言うべきなのか」
関羽「今の姜尚であればその恋は実るであろうな」
馬謖「おや? 男の恋心はそんな簡単なものではありませんよ?」
諸葛亮「どういう意味です?」
馬謖「年頃の男は性欲旺盛。今は種を残すことしか考えていないでしょうね。生存本能がそうさせるのです。姜尚は私が認める男です。選んだ女性はきっと何かしら秀でているものがあると推測します」
劉備「あ……あの姜尚君が……悶々とした夜を……」
諸葛亮「あまり……考えたくありませんね……」
関羽「うむ……布団を相手に身悶えている姜尚……いや……どうしたものか……」
劉備「それよりも何かしら秀でている女性とは具体的にはどういったものですか?」
馬謖「そうですね……まずは知的であること」
諸葛亮「!!」
孔明は驚く。
馬謖「それか健康的で強くあること」
関羽「!!」
関羽は驚く。
馬謖「もしくは母性的……いや魅力的であることかな?」
劉備「!!」
劉備は驚く。
馬謖「まぁ。この三つのどれかにあてはまるのは間違いないでしょう」
諸葛亮「あっありがとう馬謖。とっとても参考になりました」
馬謖「はははは! こんなことでよければいつでも馬謖に聞いて下さい」
馬謖は自信満々に笑う。
この後、三人の女達は色々と思うところがあったようだ。




