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雷子  作者: 三幸
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雷編 成都からの悲報 上

雷編 成都からの悲報 上



 

 南蛮との同盟に成功した劉備軍は陣を払い。成都に向かう。

 

 これからは劉璋軍の客将として劉備は益州に滞在することとなる。



劉備「飛ちゃん。南蛮の方々から贈り物が届いたんだけど……」


張飛「贈り物? 食べ物だったらいいな」


劉備「ええ……食べ物ってことなんだけど……」


張飛「ほんと! どんなのか見てみたい!」


劉備「そこの樽に入ってるんだけどゆっくり蓋を開けてね」


 劉備は南蛮の贈り物が入った樽を指さしながらも後ろに下がる。


張飛「劉姉。先に見たんだ……せっかくなら一緒に見たかったな」


劉備「そうね……私ももの凄く後悔してるの……」


張飛「どれどれ……果物かなぁ?」


 張飛は蓋を開ける。


張飛「あれ? おが屑?」


劉備「飛ちゃん……おが屑をゆっくりと除けてみて……」


張飛「おが屑をゆっくり?」


 張飛はおが屑を手でよける。


張飛「劉姉……これ……食べ物なの……」


劉備「ええ……孟獲さんにも確かめたんだけど……とても貴重な食材だって……」


張飛「捨てた方がいいんじゃない?」


劉備「流石にそれは……頂いたものですし……」


張飛「じゃあ。孟獲に食べさせれば? 普段、食べてるんでしょ?」


劉備「それもそうですね……ですが孟獲さんは兵を連れて来ると言って戻ってしまいましたし……」


張飛「だったら誰かにあげるのもありだよね」


劉備「となると……腐るものでもありませんし……置いておきましょうか?」


張飛「うん」


 張飛は樽の蓋をそっと閉めた。


諸葛亮「劉備様! 只今、戻りました!」


 孔明と張任が帰還する。


劉備「孔明。お帰りなさい。そんなに慌てて何かありましたか?」


諸葛亮「涼州の馬超殿が曹操軍と激突し敗れました。直ぐに成都の劉璋様の元に向かい曹操軍の動向を注視しなければなりません」


張任「既に張魯殿は劉璋様に援軍の要請があり、劉璋様、自ら漢中に向かいました! 劉備殿もどうか後詰としてお力を!」


劉備「分かりました。直ぐに漢中に向かいましょう。全軍に通達して下さい」


 劉備軍は漢中に防衛線を引く為に北に向かう。



劉備「張任さんがいてくれたおかげで早い段階で曹操軍に早い段階で対処出来たと孔明が喜んでいました。ありがとうございます」


張任「滅相もございません。劉備軍の強さを知り己の未熟さを恥じるばかりです。今まで南蛮軍とまともに戦える者などおりませんでした」


諸葛亮「孟獲殿も相手が悪かっただけと言えるでしょう。張任殿は優れた方です。自信を持って下さい」


張任「ありがとうございます! ですが、みなさんに負けないよう精進するつもりです」


姜尚「張任さん! 成都より急報が!」


張任「成都から?」


姜尚「はい! 同盟を結んでいた張魯軍が謀反を!」


張任「なんですと!」


姜尚「劉璋様の援軍到着前に張魯軍が曹操軍の侵攻で漢中を追われ劉璋様と共に成都に張魯軍を迎えいれた矢先に……」


張任「裏切ったと申すか! ……して劉璋様の安否は!?」


姜尚「多くの将兵は捕えられ劉璋殿は『後の事は劉備様に託す』と言い残し処刑されたようです……」


張任「そっそんな……主の危機にお近くに居ることが出来なかった! なんということだ……」


姜尚「辛いと思いますが張任さんの責任ではありません……ご自分を責めるのは……」


張任「姜尚殿……ありがとうございます」


姜尚「張任さん。劉備軍に来て下さい。あなたの忠義と武を劉備軍は必要としています」


劉備「私からもお願いします。天下泰平の為、共に歩みましょう」


張任「……」


姜尚「これは劉璋殿の弔い合戦です。劉璋殿の敵討ちの為にも力を貸していただけませんか? 張任さんの力が必要なのです」


張任「劉璋様のため……承知しました。亡き劉璋様の為、劉備軍にお迎え頂きます!」


姜尚「ありがとうございます!」


劉備「劉璋殿は我が同族。張魯軍の不義理、見過ごす訳にはいきません!」


張任「私の力が必要……なんと嬉しい……」


姜尚「先生。なんだか……勢いで張任さんを仲間に入れたのですが、よろしかったでしょうか」


諸葛亮「当然の判断です。私も同じことを張任殿に伝えます」


劉備「孔明の出番が少なくなりそうですね」


諸葛亮「しかし、張魯軍が単独で裏切り、成都を支配するのは利に適っていません。実態は曹操軍が後ろについているのでしょうが……問題はいつの段階で曹操軍に降っていたか……」


姜尚「確かに……涼州軍との戦いから漢中に侵攻するには早過ぎる……」


張任「言われてみれば……私達は先手を打つ為に北上していた……」


諸葛亮「姜尚。どう考えますか?」


姜尚「恐らくは涼州に侵攻した時点で張魯と接触したかと」


諸葛亮「随分と早い段階ですね。そう考えるのは何故ですか?」


姜尚「僕ならそうするからです。曹操軍の存在は脅威でしかありません。言わば曹操軍の侵攻は涼州、漢中、益州の問題で曹操軍としては三郡に手を組まれることは非常に厄介です。地理的に中間地点の張魯に目を付け調略したかと」


諸葛亮「迷いなくそこまで言い切りますか……よくぞそこまで成長してくれましたね。師として嬉しい限りです。おおかた張魯は曹操軍が天下を獲った暁には益州の太守を任せる。又は脅迫したのでしょう」


姜尚「そんなところでしょうね……ですが劉璋様を処刑することだけは曹操軍らしくありませんね……」


劉備「私はそうは思いませんが……」


姜尚「領地を治める者を簡単に殺しては人民は曹操に帰順しません」


諸葛亮「張魯の独断でしょう。曹操の心変わりで劉璋様にこの地を任せるとか言いかねないと判断したかも知れません」


張任「張魯! 痴れ者め! 曹操が約束を守るとでも思っているのか!」


諸葛亮「窮地に落ちれば多くの人は保身に走ります。張魯軍もまた然り。姜尚、成都は堅城です。私が指揮をとりますか?」


姜尚「先生……ここは僕に任せて下さい。まずは成都近郊まで向かい陣を敷きます」


 

 劉備軍は北上し成都の南に陣を敷いた。


張任「おのれ……張魯……」


 成都が遠くに見える陣から張任は成都を睨む。


姜尚「張任さん。劉璋様の仇討ちは間もなく果たすことが出来ます。少し肩の力を抜かれてはどうですか?」


張任「姜尚殿には家族はおりますか」


姜尚「ええ。母が一人だけ」


張任「私にはおりません。劉璋様は孤児の私を今まで育ててくれた唯一の家族と呼べる方でした。正直、気持ちを抑えることがこれほどまでに苦しいこととは思いませんでした……張魯が憎い……」


姜尚「そうでしたか……劉璋殿とはただの主従関係ではなかったのですね」


張任「劉璋様の為に生きてきました……武を磨き誰よりも劉璋様のお近くにいようと決意したのに……その決意はいとも簡単に砕かれました……」


姜尚「ですが新たな仲間がここにいます」


張任「仲間……そうですね……ですが家族と仲間はまた別の意味を持つと思います」


姜尚「そうかも知れません。ですがいずれは張任殿も家族を持つようになると時が来るでしょう」


張任「私に家族……こんなみすぼらしい女に寄り付く男がいるものですか……」


姜尚「服装のことですか? 確かに破れている箇所が多々ありますね……」


張任「これは山中を駆け回り成都で狼藉を働く賊共を駆逐した時のものです。誰に何と言われようとこのほころびは私が成都を守ってきたという自負の表れだと思っています」


姜尚「そうでしたか……僕は張任さんがその服を脱ぐ時を楽しみにしているとだけ伝えておきますね」


張任「どういう意味ですか?」


姜尚「その自負は枷でもあるように思えます。その服を脱ぐ時が来たということは張任さんが新たな『何か』を見つけたと思うからです」


張任「そんな日が来るのでしょうか……」


姜尚「ははは。それは張任さんが一番分かっているのでは? 明日に備え休みましょう」


張任「姜尚殿。何か言い忘れていませんか?」


姜尚「え……」


張任「参りましたね……姜尚殿も人が悪いですな。一言『そんなことありませんよ』の一言を……ですよ」


姜尚「あっ……失礼しました。張任さん。そんなことありませんよ」


張任「次からは気を付けて下さいね」


姜尚「本当ですね。気を付けます」


 姜尚は全く意味が分からなかった。何故に『そんなことありませんよ』と言わされたのか……ただそう言わなければ危険と感じた本能に従った姜尚は賢明だと言わざるを得ない。





 夜は明け劉備軍の陣営では作戦会議が行われていた。


関羽「姜尚。これからどうするのだ?」


姜尚「はい、成都は堅城。迂闊に攻めると被害は大きくなります。その為、成都の北門からのみ攻めるようにします」


関羽「なんだと? 北門から? 北門から攻めると背後の曹操軍に挟撃さるこおtにならんか?敢えて死地に入るのか?」


ホウ統「上策とは呼べんな」


姜尚「曹操軍には劉備軍の背後を襲って頂きます。そうすることで張魯軍を誘きだします。今の劉備軍の将兵であれば迎撃出来ると判断しました」


ホウ統「なるほど。仲間を信頼してこそか……」


関羽「それがしの武を信頼してくれると言うことであれば従わずにはおれんな。しかし、張魯軍は本当に出て来るのか?」


姜尚「必ず出てくる理由は二つあります。一つめは調略済みの張魯軍が敗れ、成都が落ちれば張魯軍を調略した意味が無くなります」


関羽「なるほど……二つめの理由は?」


姜尚「間者の偵察の結果、曹操軍の総大将は曹仁殿です。劉備軍の背後を容易にとることが出来、張魯軍との挟み撃ちが可能な機を逃すことはありません」


関羽「張魯軍と曹仁とを同時に相手をするのか……確かにあほな曹仁なら何も考えずに攻撃してくるだろうな」


ホウ統「仲間を死地に入れ込む酷薄な策だが……短期決戦が可能な上、民にも優しい……とても新米軍師の出来ることじゃねえな……」


姜尚「今回の戦いは各武将の武が頼りです。そして劉備軍の武を僕は信じています」


関羽「劉姉が姜尚が変わったと言っていたが確かに……それがしの気のせいではなかったのだな。なかなか頼もしいぞ。いい男になったな……」


姜尚「関羽さん。ありがとうございます。でも僕にとって関羽さん程、頼りになる人はいません」


関羽「それはそうだろう! はははっ! 姜尚! この関羽に任せておくがいい!」


姜尚「先陣を任せますので存分に戦場を駆けて下さい!」


関羽「よし! 姜尚、それがしの近くで活躍をみるがいい! さぁ行こう!」


姜尚「はい!」


 関羽と姜尚は出撃の準備に向かった。


ホウ統「………………」


諸葛亮「作戦会議はもう終わってしまいましたか?」


 孔明が現れる。


ホウ統「ああ。さっきな……北門のみからの攻撃だ。後は言わなくても分かるよな」


諸葛亮「そうですか……あなたならどうしますか? ホウ統」


ホウ統「まずはお前からだろ」


諸葛亮「私なら……成都の民を扇動し城門を開城させます」


ホウ統「俺もだ。恐らくそれが一番効率的な……いや一般的と言うべきか……」


諸葛亮「随分と好戦的な弟子を持ってしまったものです」


ホウ統「戦力を正確に把握し周りへの気配りも忘れない。大胆な策を弄する度胸と笑顔の下にある緻密な計算……そして、実現性に重きを置く勇気……いや、覚悟と言うべきか……」


諸葛亮「あの方のことを思い出しますね……」


ホウ統「ああ。夢中になって読んだ軍師の憧れとも言える物語だな」


諸葛亮「時代こそ違えど絶対的な悪に勇敢に立ち向かう物語は私達を軍師として生き進む為の道しるべとなった……」


ホウ統「気力は眼に宿り」


諸葛亮「信念は声に表れ」


ホウ統「闘志は限界を超える」


諸葛亮「覚悟を決めた者に備わる変化……あの方の教えをそのままにしたようです」


ホウ統「軍師の敗北は死を意味する……命を懸けるだけでは足りたない程の覚悟をどうやって……姜尚……お前は一体、何者なんだ……」



 劉備軍は成都南方に敷く陣を捨て一気に北門に向かう。成都の門は固く閉ざされ弓兵を率いる黄忠、張任を中心とした部隊が城壁の上の張魯軍に向けて矢を放つ。護衛として張飛と魏延が弓兵の両翼に展開した。後方には曹操軍に対応すべく関羽、趙雲、周倉があたる。中央には劉備と軍師勢の部隊が展開した。



曹仁「へへへ! 劉備の奴ら俺様に背中を向けるなんて死にてーのか?」


楽進「ほら、さっさと行こうぜ曹仁」


曹仁「おっ? 功を急ぐとろくなことにならないて知らないのか?」


楽進「攻め時だろ? 躊躇してる場合じゃないからな」


曹仁「楽進。良いこと教えてやるぜ。将たる者、軽率な行動は控えるべきなんだよ」


楽進「はぁ? ならば言わせて貰おう。将たる者、戦の急所を見極め迅速に行動することも大事だ」


曹仁「そっ、そうなのか! そんな考え方もあるのかよ!」


楽進「新野の敗北が全てではないぞ曹仁! 先に行く!」


 楽進は兵を率い劉備軍の背後を襲う。


曹仁「おい! 待てよ! 楽進! って、あれ?……何か見たことのある光景だな……でも何か違うような……」


 

 曹操軍が劉備軍の背後に襲い掛かる同時に成都の西門と東門が開き張魯軍が出撃し劉備軍の左右に襲い掛かる。完全に包囲された状況に陥った。



馬謖「姜尚! 完全に包囲されたが大丈夫なのか!?」


姜尚「想定通りの展開だよ。何も慌てることなんてない」


馬謖「だが! 我々は完全に退路をなくしたんだぞ!」


姜尚「ははは。馬謖君、これを機に見ておくといいよ。劉備軍はいつも薄氷を渡るが如き戦いをしてきた。死線を潜って来た者達の強さをね」


馬謖「うっうう……」


 馬謖が学んだことから言わせて貰えば完全な負け戦の展開の状況に姜尚の余裕の言葉が馬謖から言葉を奪った。


ホウ統「姜尚。俺は嬢ちゃんと共に敵の迎撃に向かう」


諸葛亮「え? 魏延の方ではないのですか?」


ホウ統「何言ってんだ孔明。魏延ちゃんを使いこなせるのはお前だけなんだろ?」


姜尚「はははは! その通りですね」


諸葛亮「えっ……いや……確かにそうは言いましたが……」


姜尚「先生。是非との魏延さんのことよろしくお願いしますね」


諸葛亮「わっ分かりましたよ! 魏延の檻をめいいっぱい広げて来ます!」


 孔明は少し自棄になった。


姜尚「馬謖君。僕たちも行こう。劉備さんと一緒に曹操軍の迎撃に向かおう」


馬謖「いいだろう! 姜尚の言う死線を私も潜ってみせようではないか!」


 こうして各部隊がそれぞれの役割を果たす為に四方に散る。曹操軍との戦いは激戦となり好機を逃すまいと曹操軍は押しに押し劉備軍も負けずと押し返す。


 日が傾き始めるころ最も早く戦いの終わりを告げる場所は左右の張魯軍が完全に敗退させた左右の張飛とおやっさんの部隊と魏延と孔明の部隊であった。

 

 張魯が敗退したと同時に曹操軍から撤退の銅鑼が鳴らされ曹操軍は退いた。関羽と趙雲が追撃しようとするが姜尚は止めた。


関羽「本当に姜尚の言う通りになったな……これは素直に凄いと思うぞ。だが追撃しなかった理由はなんだ?」


姜尚「これより先は曹操の領土です。いつどこで伏兵に襲われるか分かりません」


趙雲「敵の戦力も定かではないからな」


姜尚「確認出来た武将は曹仁殿と楽進殿。漢中にあの二人だけしかいないなんて考えられません」


関羽「だがなぁ……今まで散々追いかけられたんだし……少しくらいは……」


姜尚「ここで追撃して魅力的な関羽さんに怪我でもされたら全軍の士気に関わります」


関羽「まったく……そうやって機嫌をとろうとする……」


趙雲「姜尚。二兎を追う者は一兎も得ずと言うぞ?」


姜尚「趙雲さん……時々、意味不明なことを言いますよね」





馬謖「ぐっ……疲れた……一歩も動けない……」


 馬謖は戦場で横たわる。


劉備「馬謖さん。大丈夫ですか……」


 劉備が馬謖の顔を覗き込む。


馬謖「劉備様! もっ申し訳ありません! 直ぐに……」


劉備「ふふふっ。そのままで結構ですよ」


 立ち上がろうとする馬謖を劉備は止める。


馬謖「みっともないところをお見せしました。体が筋肉痛で……日頃の不摂生が祟りました……」


劉備「初めはみんなそうです。私も初めての戦いでは同じ様な経験をしましたし」


周倉「なんだ馬謖。体が痛いのか?」


 周倉が現れる。


馬謖「面目ない……私は周倉にはまだまだ及ばないようだ」


周倉「まったく……仕方がないな。おいらが少し揉んでやるよ」


劉備「!」


馬謖「揉んでやる?」


周倉「大丈夫。直ぐに痛みとか引くから」


劉備「いいなぁ! いいなぁ! 馬謖さんいいなぁ!!」


馬謖「よく分からんが頼んでもいいか?」


周倉「任せろ。まずは太腿からほぐそうか」


劉備「周倉! 次は私ね! 私だからね!」


 屍が転がる戦場のど真ん中で馬謖は極上の按摩術に悶えることになった。


 その光景に自分の順番を待つどこぞの女君主は指を咥えて待つ。


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